『経験値12000倍』チート外伝 異世界帰りの彼は、1500キロのストレートが投げられるようになった野球魔人。どうやら甲子園5連覇をめざすようです。
一球勝負
入念なアップを終えた後、
「さて、ほな、一球目、いってみよか。ツカム、受けてやってくれ」
「わかりました」
そう言ってミットを構えるツカムを見て、三分が、
「防具は?」
「なんで、お前程度の球を受けるだけで、ツカムが防具つけなあかんねん」
「……あ? お前、挑発もいい加減に――」
「ええから黙って投げぇや。鬱陶しいのう。……おい、ホウマ! スピードガンの準備ええか?」
「ぴよぴよ(問題無いわ。いつでもOK)」
「……なんなんだ、お前ら、本当に。お前のふざけた態度や、あのデブの妙にどっしりとした感じも気になるが、それより、あの変な女への疑問が止まらない。ぴよぴよってどういうことだ? そして、なんでずっと白目をむいている? 肌の色も、どういうことだ」
「キャラ作りや。それ以上でもそれ以下でもない」
「……訳が分からん」
「ええから、さっさと投げぇ」
三分は、まだ何か言いたげな表情を見せたが、
(俺のまっすぐは、素人には捕れない速度。防具をつけていない以上、あのデブの技量如何ではケガもありうる……が、まあいいか。イラついているし、むしろ、ケガさせてやる……いや、さすがにケガはまずいな。ビビらすだけでとどめておくか)
スゥっと息を吸って、ゆっくりと足をあげる。
力んではいない。
しっかりと下半身に適切な力を込める。
腰を回転させ、指先に意識を集中させる。
(流石に顔面付近は制球ミスった時まずい……左足の横を狙うか。ほら、ビビれ)
腕が風を切る音、その直後、硬球が唸りをあげて白い糸を引く。
素人では逃げ出してもおかしくない速度。
だが、
パシッ……
「コントロール悪いですね。僕が構えていたのは真ん中ですよ。というか、今の低さだと、僕でなければ、ストライクとってくれませんよ」
「……なっ」
やる気のない革の音と一緒に、ヒョイという擬音が聞こえたような気がした。
右打者アウトローの枠外、非常に捕球し辛い速球のボール球を、あっさりと、
それも非常に高度なフレーミングでキャッチした。
「ホウマ、何キロ?」
「ぴよぴよ(132)」
「まあ、そんなもんやろう。ワシ、ちょっと準備があるから、その間に、その数字、こいつに見せてやっといてくれ。証拠に写メっとくんも忘れずに」
「ぴよぴよ(了解)」
★
トウシが、己のリュックサックをあさりながら、ごそごそと何かをしている間、三分は、ツカムのもとにゆっくりと近づいていき、
「おまえ、佐藤だっけ? ……うまいな」
「そうでもないですよ」
「どこのシニアでやっていた?」
「シニア? ああ、中学の硬式のことですね。勉強したから知っていますよ。ちなみに、中学時代、野球やっていませんでした」
「ウソつけ」
「本当ですよ」
「リトルでやめたということか?」
「いえ、小学校の時も中学校の時も、英語クラブに入っていました。親に無理やり入れさせられましてね」
「……」
いぶかしげな眼を向けてくる三分の背後から、
「よーし。ほな、ワシのターンやな。いくで」
トウシが、三分のもとまでかけより、
「ふんぬ!」
三分のヘソの下あたりにショートアッパーをたたきこんだ。
「ぐはっ……なっ……何を……」
「よーし、もう一発や!」
「ちょっ、待っ」
反射的に、三分は、下腹部にギュっと力を込める。
それを見て、
「はい、その状態。二球目、投げるときは、今みたいに、丹田に全部の力を込めてから投げぇ。あと、ほい」
言いながら、トウシは、妙な形のグローブを三分に手渡す。
「それで投げぇ」
「いつぅ……お前……なんで、なぐ――」
「まだ言うてんのか。ヘソの下小突いただけやで。そんな痛ないやろ。お前、どこのお坊っちゃまやねん。クソが。はよ、グラブはめぇや」
「……ちっ。なんなんだ、お前……って、重っ、なんだ、これ……」
(ええ感じにイライラしとる。見たまんまの性格やな、このアホ)
そこで、トウシは、
「ええか、クソ八流投手。お前、今まで、ステップ、ここやったけど、それよりもうちょい前の、ここから投げぇ。あと、リリースの瞬間は、腹の底から声出せぇ。叫んでなかったらノーカンやからな」
「……おい、ちょっといいか」
「あん? なんやねん」
「おまえ、態度酷すぎるぞ、ぉい」
巻き舌で言いながら、三分は、トウシから受け取ったグラブを、トウシに向かって思いっきり投げつけた。
その思いきり投げつけられたグラブを、
「はん」
「!!」
片手であっさりとキャッチして、
「肩、肘、大事にするため、高校では投げません……ね。グラブみたいな、それも、普通よりちょっと重い、この鉛入りのグラブを、感情のまま、それも他人に投げつけておいて、よぉ言うわ。お前、結局、全部口だけやな」
「……あ? つぅか、鉛入りってなんだ、お前。いいかげん――」
「ええかげんにせぇ」
言いながら、トウシは、三分の股間を蹴りあげる。
「くぁああ!」
力加減を絶妙に調整し、数秒だけうずくまる程度の金的。
「おまえ、さっきから態度悪いんじゃ、ボケェ。ワシ、キャプテンで監督やぞ。高校野球ナメるんも大概にせぇや。あほんだらぁ」
「……ぅうう……てめぇ……」
「なんや、その目。お前が言うたんやろ。監督やろうが、キャプテンやろうが、好きにせぇって。高校野球では監督が一番で二番がキャプテンや。お前が認めたんやろうが。イヤやったら、その場で言わなアカンねん。抗議でも、デモでも、勝負でも何でもして、とにかく行動せな、他人に好きなようにやられんねん。それが人間のルールなんじゃ、ボケ。そんで、監督は絶対いうんが、高校野球のルールじゃ。それやのに、とことんナメくさりやがって。つーか、そもそも、お前がプロ? なめとんのか。なれるわけないやろ。こんなクソみたいな高校きといて」
「……」
「おら、はよ立てや。命令じゃ。いつまでも痛いフリしくさりやがって。そんな強ぉ蹴ってへんわ。ヘタレやのぉ、お前、ほんま。断言したるわ。お前一人やったら、絶対にプロになれへん」
「……俺が勝ったら、奴隷になるんだったな」
「あ? ああ、そうや」
「なにをされても文句ないんだな?」
「まあのう」
「……あと一球、全力で投げてやる」
言いながら、三分は、トウシの手からグラブを奪い取りながら、
「ただし、球速は関係ない。お前が打て」
「ん?」
「おまえが打てたら、それが何キロだろうが、お前の勝ちだ」
「ほー」
「ただし、打てなかったら、本当にお前は俺の奴隷だ。いいな。球数は――」
「千球」
「なに?」
「千球投げぇ。一球でも打ちそこなったらお前の勝ちでええわ」
「……」
「ツカム、引き続きキャッチャー頼むわ。ホウマは……そうやな、左中間の奥底におってくれ。今、球一球しかないからな。いちいち球拾いに行かせるん、めんどい」
「ぴよぴよ(千球ともそこに打つつもり? それ……普通の人間にできる?)」
「客おるわけやない。こいつ一人に見られるだけやったら、秩序なんか乱れようあらへん。問題ない」
「ぴよぴよ(わかったわ。お好きにどうぞ)」
言われた場所についたホウマを見ると、トウシはバットを握り、打席に立って、
「もう一個ハンデやるわ。ボールもカウントしたる」
「なん……だと……」
「ここ狙ってきてもええで」
言いながら、自分の頭を指し、
「もちろん、お前の球なんか一切こわないから、ヘルメはいらん。さあ、はじめよか」
バットを構えるトウシを睨みつけながら、
「……一球だ……」
「あーん?」
「バットに当たればお前の勝ち、空振りなら負け……一球勝負だ……いいな、田中ぁ」
(ええ感じに茹だってきた。これなら問題ない)
トウシはそう言うと、ツカムに、
(ツカム、今からワシの言うとおりにしてくれ)
(は? ……ああ、はい。いいですよ、お好きに)
返事をした直後、ツカムはスっと立ち上がり、
「この勝負、トウシくんがホウマくんのところに打って終わりですね。捕手は必要なさそうなので、僕は下がらせてもらいます。正直、あなた程度の投手の壁をやるのは、プライドが許さないんですよ。では失礼」
「……お前ら全員……なんなんだ……人をさんざんコケにしやがって……」
ギリギリと奥歯をかみしめる三分に、トウシは、
「最後に確認や」
「あぁ?!」
「ヘソの下に力いれて、リリースの時に叫べ。ステップ位置はいつもより前。ええな」
「……言われたとおりに投げてやるよ。すべて。これが最後だからな。お前の言うことを聞くのも」
「はい、OK。ほな、いこか」
トウシが構えたのを見て、三分は、大きく振りかぶる。
(おまえが言ったんだ……頭を狙えと……)
三分は、荒い息を吐きながら、
(責任はお前にしかない)
大きく足をあげ、
「うらぁあああああ!」
言われたとおりというか、ほとんど反射的に、叫び声をあげながら渾身の一球を投げる。
軌道は、まっすぐ、トウシの頭に向かっている。
完璧な危険球。
一発退場のビーンボール。
それを、
「おっそいわぁ、ほんま。超魔遅球より遅いとか、逆にしんどいわ」
溜息交じりにあっさりとはじき返す。
軽快な金属音を残して、ボールは奇麗なライナーで飛んで行き、
バシっとホウマのグラブに収まった。
「……な……」
「はい、終了。一球でええんやろ? それとも、あと999球投げるか?」
問いかけるが、三分は答えない。膝から崩れ落ちて下唇をかみしめている。
「聞いてんねん、答えろや」
「……ぁぁ……」
「はい、敗北宣言いただきました。ほな、今日からワシの指示通りに動いてもらうで。まずは、これまでの酷い態度の罰として、右で投げてもらおか」
「……ぁ?」
「あそこにネットあるやろ。あれを、キャッチャーの位置において、マウンドから右腕で投げんねん。そうやな……今日は、五百球でええわ。明日以降は二百。毎日な」
「……逆の腕で……なんで、そんな……無意味な……」
「ごちゃごちゃ言うな。お前は言われたことだけやったらええねん。それとも、あと999回、ツーベース打たれたいか?」
「……」
「はい、ということで、頑張って。じゃ、ワシ、帰るから」
「さて、ほな、一球目、いってみよか。ツカム、受けてやってくれ」
「わかりました」
そう言ってミットを構えるツカムを見て、三分が、
「防具は?」
「なんで、お前程度の球を受けるだけで、ツカムが防具つけなあかんねん」
「……あ? お前、挑発もいい加減に――」
「ええから黙って投げぇや。鬱陶しいのう。……おい、ホウマ! スピードガンの準備ええか?」
「ぴよぴよ(問題無いわ。いつでもOK)」
「……なんなんだ、お前ら、本当に。お前のふざけた態度や、あのデブの妙にどっしりとした感じも気になるが、それより、あの変な女への疑問が止まらない。ぴよぴよってどういうことだ? そして、なんでずっと白目をむいている? 肌の色も、どういうことだ」
「キャラ作りや。それ以上でもそれ以下でもない」
「……訳が分からん」
「ええから、さっさと投げぇ」
三分は、まだ何か言いたげな表情を見せたが、
(俺のまっすぐは、素人には捕れない速度。防具をつけていない以上、あのデブの技量如何ではケガもありうる……が、まあいいか。イラついているし、むしろ、ケガさせてやる……いや、さすがにケガはまずいな。ビビらすだけでとどめておくか)
スゥっと息を吸って、ゆっくりと足をあげる。
力んではいない。
しっかりと下半身に適切な力を込める。
腰を回転させ、指先に意識を集中させる。
(流石に顔面付近は制球ミスった時まずい……左足の横を狙うか。ほら、ビビれ)
腕が風を切る音、その直後、硬球が唸りをあげて白い糸を引く。
素人では逃げ出してもおかしくない速度。
だが、
パシッ……
「コントロール悪いですね。僕が構えていたのは真ん中ですよ。というか、今の低さだと、僕でなければ、ストライクとってくれませんよ」
「……なっ」
やる気のない革の音と一緒に、ヒョイという擬音が聞こえたような気がした。
右打者アウトローの枠外、非常に捕球し辛い速球のボール球を、あっさりと、
それも非常に高度なフレーミングでキャッチした。
「ホウマ、何キロ?」
「ぴよぴよ(132)」
「まあ、そんなもんやろう。ワシ、ちょっと準備があるから、その間に、その数字、こいつに見せてやっといてくれ。証拠に写メっとくんも忘れずに」
「ぴよぴよ(了解)」
★
トウシが、己のリュックサックをあさりながら、ごそごそと何かをしている間、三分は、ツカムのもとにゆっくりと近づいていき、
「おまえ、佐藤だっけ? ……うまいな」
「そうでもないですよ」
「どこのシニアでやっていた?」
「シニア? ああ、中学の硬式のことですね。勉強したから知っていますよ。ちなみに、中学時代、野球やっていませんでした」
「ウソつけ」
「本当ですよ」
「リトルでやめたということか?」
「いえ、小学校の時も中学校の時も、英語クラブに入っていました。親に無理やり入れさせられましてね」
「……」
いぶかしげな眼を向けてくる三分の背後から、
「よーし。ほな、ワシのターンやな。いくで」
トウシが、三分のもとまでかけより、
「ふんぬ!」
三分のヘソの下あたりにショートアッパーをたたきこんだ。
「ぐはっ……なっ……何を……」
「よーし、もう一発や!」
「ちょっ、待っ」
反射的に、三分は、下腹部にギュっと力を込める。
それを見て、
「はい、その状態。二球目、投げるときは、今みたいに、丹田に全部の力を込めてから投げぇ。あと、ほい」
言いながら、トウシは、妙な形のグローブを三分に手渡す。
「それで投げぇ」
「いつぅ……お前……なんで、なぐ――」
「まだ言うてんのか。ヘソの下小突いただけやで。そんな痛ないやろ。お前、どこのお坊っちゃまやねん。クソが。はよ、グラブはめぇや」
「……ちっ。なんなんだ、お前……って、重っ、なんだ、これ……」
(ええ感じにイライラしとる。見たまんまの性格やな、このアホ)
そこで、トウシは、
「ええか、クソ八流投手。お前、今まで、ステップ、ここやったけど、それよりもうちょい前の、ここから投げぇ。あと、リリースの瞬間は、腹の底から声出せぇ。叫んでなかったらノーカンやからな」
「……おい、ちょっといいか」
「あん? なんやねん」
「おまえ、態度酷すぎるぞ、ぉい」
巻き舌で言いながら、三分は、トウシから受け取ったグラブを、トウシに向かって思いっきり投げつけた。
その思いきり投げつけられたグラブを、
「はん」
「!!」
片手であっさりとキャッチして、
「肩、肘、大事にするため、高校では投げません……ね。グラブみたいな、それも、普通よりちょっと重い、この鉛入りのグラブを、感情のまま、それも他人に投げつけておいて、よぉ言うわ。お前、結局、全部口だけやな」
「……あ? つぅか、鉛入りってなんだ、お前。いいかげん――」
「ええかげんにせぇ」
言いながら、トウシは、三分の股間を蹴りあげる。
「くぁああ!」
力加減を絶妙に調整し、数秒だけうずくまる程度の金的。
「おまえ、さっきから態度悪いんじゃ、ボケェ。ワシ、キャプテンで監督やぞ。高校野球ナメるんも大概にせぇや。あほんだらぁ」
「……ぅうう……てめぇ……」
「なんや、その目。お前が言うたんやろ。監督やろうが、キャプテンやろうが、好きにせぇって。高校野球では監督が一番で二番がキャプテンや。お前が認めたんやろうが。イヤやったら、その場で言わなアカンねん。抗議でも、デモでも、勝負でも何でもして、とにかく行動せな、他人に好きなようにやられんねん。それが人間のルールなんじゃ、ボケ。そんで、監督は絶対いうんが、高校野球のルールじゃ。それやのに、とことんナメくさりやがって。つーか、そもそも、お前がプロ? なめとんのか。なれるわけないやろ。こんなクソみたいな高校きといて」
「……」
「おら、はよ立てや。命令じゃ。いつまでも痛いフリしくさりやがって。そんな強ぉ蹴ってへんわ。ヘタレやのぉ、お前、ほんま。断言したるわ。お前一人やったら、絶対にプロになれへん」
「……俺が勝ったら、奴隷になるんだったな」
「あ? ああ、そうや」
「なにをされても文句ないんだな?」
「まあのう」
「……あと一球、全力で投げてやる」
言いながら、三分は、トウシの手からグラブを奪い取りながら、
「ただし、球速は関係ない。お前が打て」
「ん?」
「おまえが打てたら、それが何キロだろうが、お前の勝ちだ」
「ほー」
「ただし、打てなかったら、本当にお前は俺の奴隷だ。いいな。球数は――」
「千球」
「なに?」
「千球投げぇ。一球でも打ちそこなったらお前の勝ちでええわ」
「……」
「ツカム、引き続きキャッチャー頼むわ。ホウマは……そうやな、左中間の奥底におってくれ。今、球一球しかないからな。いちいち球拾いに行かせるん、めんどい」
「ぴよぴよ(千球ともそこに打つつもり? それ……普通の人間にできる?)」
「客おるわけやない。こいつ一人に見られるだけやったら、秩序なんか乱れようあらへん。問題ない」
「ぴよぴよ(わかったわ。お好きにどうぞ)」
言われた場所についたホウマを見ると、トウシはバットを握り、打席に立って、
「もう一個ハンデやるわ。ボールもカウントしたる」
「なん……だと……」
「ここ狙ってきてもええで」
言いながら、自分の頭を指し、
「もちろん、お前の球なんか一切こわないから、ヘルメはいらん。さあ、はじめよか」
バットを構えるトウシを睨みつけながら、
「……一球だ……」
「あーん?」
「バットに当たればお前の勝ち、空振りなら負け……一球勝負だ……いいな、田中ぁ」
(ええ感じに茹だってきた。これなら問題ない)
トウシはそう言うと、ツカムに、
(ツカム、今からワシの言うとおりにしてくれ)
(は? ……ああ、はい。いいですよ、お好きに)
返事をした直後、ツカムはスっと立ち上がり、
「この勝負、トウシくんがホウマくんのところに打って終わりですね。捕手は必要なさそうなので、僕は下がらせてもらいます。正直、あなた程度の投手の壁をやるのは、プライドが許さないんですよ。では失礼」
「……お前ら全員……なんなんだ……人をさんざんコケにしやがって……」
ギリギリと奥歯をかみしめる三分に、トウシは、
「最後に確認や」
「あぁ?!」
「ヘソの下に力いれて、リリースの時に叫べ。ステップ位置はいつもより前。ええな」
「……言われたとおりに投げてやるよ。すべて。これが最後だからな。お前の言うことを聞くのも」
「はい、OK。ほな、いこか」
トウシが構えたのを見て、三分は、大きく振りかぶる。
(おまえが言ったんだ……頭を狙えと……)
三分は、荒い息を吐きながら、
(責任はお前にしかない)
大きく足をあげ、
「うらぁあああああ!」
言われたとおりというか、ほとんど反射的に、叫び声をあげながら渾身の一球を投げる。
軌道は、まっすぐ、トウシの頭に向かっている。
完璧な危険球。
一発退場のビーンボール。
それを、
「おっそいわぁ、ほんま。超魔遅球より遅いとか、逆にしんどいわ」
溜息交じりにあっさりとはじき返す。
軽快な金属音を残して、ボールは奇麗なライナーで飛んで行き、
バシっとホウマのグラブに収まった。
「……な……」
「はい、終了。一球でええんやろ? それとも、あと999球投げるか?」
問いかけるが、三分は答えない。膝から崩れ落ちて下唇をかみしめている。
「聞いてんねん、答えろや」
「……ぁぁ……」
「はい、敗北宣言いただきました。ほな、今日からワシの指示通りに動いてもらうで。まずは、これまでの酷い態度の罰として、右で投げてもらおか」
「……ぁ?」
「あそこにネットあるやろ。あれを、キャッチャーの位置において、マウンドから右腕で投げんねん。そうやな……今日は、五百球でええわ。明日以降は二百。毎日な」
「……逆の腕で……なんで、そんな……無意味な……」
「ごちゃごちゃ言うな。お前は言われたことだけやったらええねん。それとも、あと999回、ツーベース打たれたいか?」
「……」
「はい、ということで、頑張って。じゃ、ワシ、帰るから」
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