『経験値12000倍』チート外伝 異世界帰りの彼は、1500キロのストレートが投げられるようになった野球魔人。どうやら甲子園5連覇をめざすようです。
ガリ勉高校で、『常識の範囲内』にとどまりながら、甲子園五連覇?! 無理に決まってんだろ、高校野球ナメんな!
「戻って……こられたんやな」
「みたいですね」
「ぴよぴよ(ねぇ、携帯を確認してみて。本当に二時間しかたっていないわ。間違いなく三日以上拘束されていたというのに)」
長身三白眼の田中東志は、深い溜息をつきながら、その場にへたり込み、
「あかん、動かれへん」
ポッチャリメガネの佐藤拿も、壁に校舎の壁にもたれかかりながら、
「体力も底上げされているとはいえ、一日で五試合は多すぎですよね」
常に白目をむいている斑肌の少女、鈴木宝馬は、天を仰ぎながら、
「ぴよぴよ(家に帰りたいけれど……足が重いわ……疲労感が酷い)」
「ホウマ、お前、マジで大丈夫か」
「ぴよぴよ(心配しなくていいよ。足が重い理由は、あなた達と同じで、ただの疲労だから。後遺症が酷くなったわけではないわ)」
「一歩間違っとったら、ワシらもこうなっとったかと思うと、背筋が凍るな」
「勝手に拉致って、勝手に改造したあげく、豪快に失敗するとは……文字通り、悪魔の所業ですね」
「ぴよぴよ(だけれど、おかげで、素晴らしい力が手に入ったわ。私は感謝している)」
「マジか、お前」
「初めて会った時から思っていましたが、ホウマさんは、かなりの変態ですね」
「ぴよぴよ(野球特化とはいえ、念願だった異能もちの女子高生になれたのだもの。喜ばずにはいられないわ)」
「異能というほどではないでしょう。僕らは野球がうまくなっただけなのですから」
「いや、ツカム。上手いとか下手とかいう次元ちゃうて。ワシら、その気になったら、時速千キロの球とか投げられんねんで」
「それの何がおかしいのか、僕には分からないので、コメントのしようがありません」
「ああ、そうやったな。お前、野球のこと、全然知らん言うてたもんな。えっとな……時速千キロの球が投げられる言うたら、百メートル走で、一秒を切るみたいなもんや」
「え、たかが時速千キロが、そんなに桁違いなのですか? 投神様、時速2000キロの球とか平気で投げていましたよ」
「神と悪魔の試合しか知らんお前ではイマイチよく分からんやろうけど、人間の限界は170キロくらいや」
「170? クソ遅いじゃないですか」
「……一般的な動体視力やと、150キロくらいで、すでに見えへんくらいの速さやねん」
「170が限界で、150も見えない……え、それだと、どんな試合になるんですか? まったく想像がつかないのですが」
「プロ以上限定で言うと、全体の球速アベレージが140~145くらいで、一試合に取れる点数の平均は二・三点」
「ゴミのような泥試合しかしていないのですか……なんと、まあ」
「自分、ほんまに、野球、まったく知らんねんな」
「東志くんは詳しいんでしたっけ?」
「まあのう。実はワシ、高校にあがるまでは、ずっと、野球の未来予測ソフトとかつくっとってん」
「ぴよぴよ(未来予測ソフト? そんなプログラムを作っていたの? すごいわね)」
「いやいや、完成はしてへん。なんとか形にはしたけど、ほとんど占いみたいなもんやった。『あの子とあなたの相性は70パーセントです』程度でしかない」
「クソじゃないですか」
「否定はできへん。十年以上トライしたけど、結局、その程度が限界やった」
「ぴよぴよ(園児のころからソフトウェアを創っていたなんて、あなたこそ真の変態ね)」
「やかましわ」
「ぴよぴよ(というか、そんなどうでもいいことより、今後のことを話し合わない? 正直、かなり大変だと思うのだけれど)」
「悪魔に提示された条件の件ですか?」
「ぴよぴよ(そう。ハッキリ言って、達成できる気がしないわ)」
「なぜでしょう? 話を聞くところによると、僕らの力は次元がちがうのでしょう? 公式戦全勝くらい、クソ楽勝なのでは?」
「デビルの力は使ったらあかんから、ぜんぜん楽勝ちゃう」
「どういうことですか?」
「ぴよぴよ(どこから説明すればいいのかなぁ……うん、一度整理しましょう。私達に課せられた条件は二つ。ここまではいい?)」
「ええ」
「ぴよぴよ(ひとつは、公式戦全勝。もう一つは、現世の野球の秩序を乱してはいけないということ。前半はともかく、後半の条件がやっかいだわ)」
わかっていない顔をしている佐藤に、田中が、
「おまえは高校野球に興味ないらしいから、わからんやろうけど、ワシらの高校が三年間全勝……つまり、甲子園五連覇なんかやってもうたら、それはもう、バッチリ秩序が乱れてんねん。つまりや。前提で詰んでんねん」
「たかが高校の大会で全勝するくらい――」
「ぴよぴよ(その認識がズレているの。いい? 高校スポーツのなかで、甲子園は特別なの。レベルの次元が他とはまるで違う)」
「なんせ、アンダー十八で野球やっとる連中の中で、レベルの高さが世界一やからな。それもぶっちぎりで」
「ぶっちぎりの世界一ときましたか。へー、へー」
「ぴよぴよ(注目度も高校スポーツの中ではダントツ。なによりも、それが厄介。公式戦でデビルの力など使おうものなら、地方大会の初戦であろうと、一発で世界中に大混乱が起きるでしょうね)」
「特に、今は、誰もが持っとるスマホで優秀な動画が取れる時代やからな。注目度の低い初戦でも、デビルの力を一回でも使ってもうたら、そくおしまいや」
「なるほど。大変だというのは理解しました。しかし、だからどうだというんですか? 僕らはオリンピック記録が目じゃないスーパーな力を持っているのしょう? 170が限界だというのなら、170を投げればいいだけの話では? デビルの力を使わなくとも、最高値を連発すれば、さすがに勝てるのでは?」
「いや、それはそれで秩序が乱れんねん。170どころか、160でも……150もおかしいな。ワシらまだ一年やから」
「?」
「説明、ムズいな。ええと……というか、そもそもの話として、ワシらの高校と、他の高校のレベルの話もせな、理解できんか」
「どういう意味でしょう?」
「ぴよぴよ(高校野球は、金をかけて選手集めた高校が強いの。野球の才能があるエリートを全国からかき集めて、そんな連中の中からさらにふるいにかけて――)」
「高校でそんなことをしていいのですか?」
「ぴよぴよ(いいも悪いも、それが普通。金かけて人を集めたところが強くて、それをやってないところは弱い。選手集めた高校とそうでない高校が戦えば、九割九分、前者が勝つ。それが高校野球)」
「……なるほど。つまり、ウチの高校は人を集めていないと。まあ、ウチは、最上位級の超進学校ですから、野球選手など集めているわけが――」
「そんなレベルやない。ウチは、野球に関しては、稀少フリーパス券と呼ばれとるほどのカス高校や」
「……どういう意味ですか?」
「大概人数がそろわんで、二・三年に一回くらいしか大会に出場できん上、なんとか人を集めて出場しても、ほぼ百パーセントの確率で一回戦負け」
「ああ、なるほど。だから、稀少なフリーパス券」
「ぴよぴよ(そんな高校が、全国から天才を集めて朝から晩まで練習している高校相手に全勝……おかしいでしょう?)」
「た、たしかに、不自然ですね。不自然というか、ありえない。……しかし、では、どうするのですか? 全勝しないと、僕ら、消されてしまうんですよ」
「せやから、大変やぁ、言うてんねん」
「ぴよぴよ(相手は悪魔。無理難題で私たちをいたぶっているだけなのかもしれないわね。デビルの実力を発揮して勝てば秩序を乱したとして神に睨まれ、負ければ、魔人のくせに何をやっているんだと悪魔に睨まれる。八方塞がりだわ)」
「なんとか、僕らがギリギリ勝ってるようにみせるとか、できないものなのですか?」
「ぴよぴよ(非常に難しい。ウチの高校は、とにかくクソすぎるもの。初戦の勝利すら不自然という状況で、甲子園五連覇なんて――)」
「でも、トウシくん。君なら、なんとかできるんじゃないですか?」
「あ?」
「だって、君は天才じゃないですか」
「……」
「天才ねぇ……」
田中東志は、
「ギリギリ勝っているように魅せる……か。できるか? 可能か? ありえるか? 道は残っとるか?」
高速で頭を回転させる。
不可能を可能にするための算段。
「ウチの高校で、高校野球界の秩序を乱さずに、三年間公式戦全勝。そんなもん、普通のヤツには絶対できへん。けど、ワシなら……」
深く、深く、思考の底へと沈んでいく。
「……考えろ……この状況で……三年間……全勝……秩序……魅せ方……秩序を乱さずに五連覇……」
その長考は、
「……あった」
実る。
「可能性。ゼロやない。ワシならできる。というか、ワシにしかできん。みとけよ、あほんだら。高校球界の秩序を乱さず甲子園五連覇……やったろやないけ」
「みたいですね」
「ぴよぴよ(ねぇ、携帯を確認してみて。本当に二時間しかたっていないわ。間違いなく三日以上拘束されていたというのに)」
長身三白眼の田中東志は、深い溜息をつきながら、その場にへたり込み、
「あかん、動かれへん」
ポッチャリメガネの佐藤拿も、壁に校舎の壁にもたれかかりながら、
「体力も底上げされているとはいえ、一日で五試合は多すぎですよね」
常に白目をむいている斑肌の少女、鈴木宝馬は、天を仰ぎながら、
「ぴよぴよ(家に帰りたいけれど……足が重いわ……疲労感が酷い)」
「ホウマ、お前、マジで大丈夫か」
「ぴよぴよ(心配しなくていいよ。足が重い理由は、あなた達と同じで、ただの疲労だから。後遺症が酷くなったわけではないわ)」
「一歩間違っとったら、ワシらもこうなっとったかと思うと、背筋が凍るな」
「勝手に拉致って、勝手に改造したあげく、豪快に失敗するとは……文字通り、悪魔の所業ですね」
「ぴよぴよ(だけれど、おかげで、素晴らしい力が手に入ったわ。私は感謝している)」
「マジか、お前」
「初めて会った時から思っていましたが、ホウマさんは、かなりの変態ですね」
「ぴよぴよ(野球特化とはいえ、念願だった異能もちの女子高生になれたのだもの。喜ばずにはいられないわ)」
「異能というほどではないでしょう。僕らは野球がうまくなっただけなのですから」
「いや、ツカム。上手いとか下手とかいう次元ちゃうて。ワシら、その気になったら、時速千キロの球とか投げられんねんで」
「それの何がおかしいのか、僕には分からないので、コメントのしようがありません」
「ああ、そうやったな。お前、野球のこと、全然知らん言うてたもんな。えっとな……時速千キロの球が投げられる言うたら、百メートル走で、一秒を切るみたいなもんや」
「え、たかが時速千キロが、そんなに桁違いなのですか? 投神様、時速2000キロの球とか平気で投げていましたよ」
「神と悪魔の試合しか知らんお前ではイマイチよく分からんやろうけど、人間の限界は170キロくらいや」
「170? クソ遅いじゃないですか」
「……一般的な動体視力やと、150キロくらいで、すでに見えへんくらいの速さやねん」
「170が限界で、150も見えない……え、それだと、どんな試合になるんですか? まったく想像がつかないのですが」
「プロ以上限定で言うと、全体の球速アベレージが140~145くらいで、一試合に取れる点数の平均は二・三点」
「ゴミのような泥試合しかしていないのですか……なんと、まあ」
「自分、ほんまに、野球、まったく知らんねんな」
「東志くんは詳しいんでしたっけ?」
「まあのう。実はワシ、高校にあがるまでは、ずっと、野球の未来予測ソフトとかつくっとってん」
「ぴよぴよ(未来予測ソフト? そんなプログラムを作っていたの? すごいわね)」
「いやいや、完成はしてへん。なんとか形にはしたけど、ほとんど占いみたいなもんやった。『あの子とあなたの相性は70パーセントです』程度でしかない」
「クソじゃないですか」
「否定はできへん。十年以上トライしたけど、結局、その程度が限界やった」
「ぴよぴよ(園児のころからソフトウェアを創っていたなんて、あなたこそ真の変態ね)」
「やかましわ」
「ぴよぴよ(というか、そんなどうでもいいことより、今後のことを話し合わない? 正直、かなり大変だと思うのだけれど)」
「悪魔に提示された条件の件ですか?」
「ぴよぴよ(そう。ハッキリ言って、達成できる気がしないわ)」
「なぜでしょう? 話を聞くところによると、僕らの力は次元がちがうのでしょう? 公式戦全勝くらい、クソ楽勝なのでは?」
「デビルの力は使ったらあかんから、ぜんぜん楽勝ちゃう」
「どういうことですか?」
「ぴよぴよ(どこから説明すればいいのかなぁ……うん、一度整理しましょう。私達に課せられた条件は二つ。ここまではいい?)」
「ええ」
「ぴよぴよ(ひとつは、公式戦全勝。もう一つは、現世の野球の秩序を乱してはいけないということ。前半はともかく、後半の条件がやっかいだわ)」
わかっていない顔をしている佐藤に、田中が、
「おまえは高校野球に興味ないらしいから、わからんやろうけど、ワシらの高校が三年間全勝……つまり、甲子園五連覇なんかやってもうたら、それはもう、バッチリ秩序が乱れてんねん。つまりや。前提で詰んでんねん」
「たかが高校の大会で全勝するくらい――」
「ぴよぴよ(その認識がズレているの。いい? 高校スポーツのなかで、甲子園は特別なの。レベルの次元が他とはまるで違う)」
「なんせ、アンダー十八で野球やっとる連中の中で、レベルの高さが世界一やからな。それもぶっちぎりで」
「ぶっちぎりの世界一ときましたか。へー、へー」
「ぴよぴよ(注目度も高校スポーツの中ではダントツ。なによりも、それが厄介。公式戦でデビルの力など使おうものなら、地方大会の初戦であろうと、一発で世界中に大混乱が起きるでしょうね)」
「特に、今は、誰もが持っとるスマホで優秀な動画が取れる時代やからな。注目度の低い初戦でも、デビルの力を一回でも使ってもうたら、そくおしまいや」
「なるほど。大変だというのは理解しました。しかし、だからどうだというんですか? 僕らはオリンピック記録が目じゃないスーパーな力を持っているのしょう? 170が限界だというのなら、170を投げればいいだけの話では? デビルの力を使わなくとも、最高値を連発すれば、さすがに勝てるのでは?」
「いや、それはそれで秩序が乱れんねん。170どころか、160でも……150もおかしいな。ワシらまだ一年やから」
「?」
「説明、ムズいな。ええと……というか、そもそもの話として、ワシらの高校と、他の高校のレベルの話もせな、理解できんか」
「どういう意味でしょう?」
「ぴよぴよ(高校野球は、金をかけて選手集めた高校が強いの。野球の才能があるエリートを全国からかき集めて、そんな連中の中からさらにふるいにかけて――)」
「高校でそんなことをしていいのですか?」
「ぴよぴよ(いいも悪いも、それが普通。金かけて人を集めたところが強くて、それをやってないところは弱い。選手集めた高校とそうでない高校が戦えば、九割九分、前者が勝つ。それが高校野球)」
「……なるほど。つまり、ウチの高校は人を集めていないと。まあ、ウチは、最上位級の超進学校ですから、野球選手など集めているわけが――」
「そんなレベルやない。ウチは、野球に関しては、稀少フリーパス券と呼ばれとるほどのカス高校や」
「……どういう意味ですか?」
「大概人数がそろわんで、二・三年に一回くらいしか大会に出場できん上、なんとか人を集めて出場しても、ほぼ百パーセントの確率で一回戦負け」
「ああ、なるほど。だから、稀少なフリーパス券」
「ぴよぴよ(そんな高校が、全国から天才を集めて朝から晩まで練習している高校相手に全勝……おかしいでしょう?)」
「た、たしかに、不自然ですね。不自然というか、ありえない。……しかし、では、どうするのですか? 全勝しないと、僕ら、消されてしまうんですよ」
「せやから、大変やぁ、言うてんねん」
「ぴよぴよ(相手は悪魔。無理難題で私たちをいたぶっているだけなのかもしれないわね。デビルの実力を発揮して勝てば秩序を乱したとして神に睨まれ、負ければ、魔人のくせに何をやっているんだと悪魔に睨まれる。八方塞がりだわ)」
「なんとか、僕らがギリギリ勝ってるようにみせるとか、できないものなのですか?」
「ぴよぴよ(非常に難しい。ウチの高校は、とにかくクソすぎるもの。初戦の勝利すら不自然という状況で、甲子園五連覇なんて――)」
「でも、トウシくん。君なら、なんとかできるんじゃないですか?」
「あ?」
「だって、君は天才じゃないですか」
「……」
「天才ねぇ……」
田中東志は、
「ギリギリ勝っているように魅せる……か。できるか? 可能か? ありえるか? 道は残っとるか?」
高速で頭を回転させる。
不可能を可能にするための算段。
「ウチの高校で、高校野球界の秩序を乱さずに、三年間公式戦全勝。そんなもん、普通のヤツには絶対できへん。けど、ワシなら……」
深く、深く、思考の底へと沈んでいく。
「……考えろ……この状況で……三年間……全勝……秩序……魅せ方……秩序を乱さずに五連覇……」
その長考は、
「……あった」
実る。
「可能性。ゼロやない。ワシならできる。というか、ワシにしかできん。みとけよ、あほんだら。高校球界の秩序を乱さず甲子園五連覇……やったろやないけ」
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