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9876話 ホアノスはバカじゃない……けど……


 9876話 ホアノスはバカじゃない……けど……

(……これだけの力……もし、本当に、私が独占できれば……その上で、うまく立ち回ることが出来れば……国家主席の座は確実……いや、それどころか、全大陸を支配することも不可能ではない……やり方しだいだ……大きな力も、使い方を理解していなければ宝の持ち腐れ。これだけの魔カード……どう使うのが最善?)

 ショデヒとの交渉はまだ終わっていない、
 というか、まだ、ギリギリ始まってすらいない段階だが、
 しかし、皮算用が止まらないホアノス。

(最大限の使い方は……そう……たとえば……最大所持数に対する相対的な少数を、他国にバラまく……例えば、ミルスのバカ王子あたりに何枚か売って、魔カードの力に酔わせて、内乱を起こさせる……そうすれば、ミルスの国力は勝手に低下する……その上で――)

 などと、考えたところで、ホアノスは、ハっとする。

(……聖龍王国は、すでに、それを実行しているのでは? というか、私に流そうとしているのも、その戦略の一貫では?)

 ホアノスは賢者ではないがバカではない。
 だから、相手の策略にまんまとハマったりはしない。

(……過剰なパワーを、他国に、少数だけバラまいて、内ゲバを強制させる……そうして、弱った人類を、根こそぎ一網打尽……そういう計略だとしたら……)

 聖龍王国の意図に気づいた自分の賢さに、ホアノスは、惚れ惚れとする。

(……逆に利用できる……現状、聖龍王国の連中は、私を獲物だと認識している。その傲慢を、うまいこと逆手にとれば、最大級の漁夫の利を得られる……私の一人勝ちにまで持っていける)

 ホアノスの頭脳が加速していく。

(このショデヒというモンスターは、そこそこ頭がいい。それゆえ、自分が優秀であると驕り、周囲の人間を見下しているきらいがある。『このぐらいやれば、騙せるだろう』という感情が透けて見える。――他の者では見抜けないだろうが、私なら見抜ける。なぜなら、私は、この『自分を賢いと思っている愚かなモンスター』よりも、はるかに優秀だから)

 表情には出さないように気をつけつつ、
 ホアノスは、ショデヒを笑う。

 蛇同士の対話。
 おたがい、狡猾で残忍で、そして、とことん周囲を見下している、完全自己中心なクズ野郎。

 似た者同士は仲良くなるケースが大半だが、この系統の人間同士が、本当の意味で『分かり合うこと』は、絶対にありえない。

 この手の人間は、自分自身の中にある邪悪さを正しく理解しているがゆえに、
 どうしても、『他者の中』に『同レベルの蛇』を感じてしまうのである。
 誰も信じることが出来ず、『利用できるか否か』でしかモノを考えられなくなる。

 愛も情も、言葉の上では理解できるが、
 本当の意味では、理解する気がサラサラなく、
 ゆえに、からっぽの『尖った欲』に支配される。

 尖った欲は、目をくもらせる。
 決して愚鈍ではないその頭脳を、
 本気で働かせていれば、
 あるいは、真実にたどり着いたかもしれないが、
 ――しかし、ホアノスが真実に届くことはありえない。


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