センエース~経験値12000倍のチートを持つ俺が200億年修行した結果~(コミカライズ版の続きはBOOTHにて販売予定)

閃幽零×祝@自作したセンエースの漫画版(12話以降)をBOOTHで販売中

32話 私の全部を……


 32話 私の全部を……

(いいようにされっぱなしなのは、単純に腹立つから、飽くなき反骨精神で、1001回目の絶望に向き合う。ただそれだけのこと。私が私のためにやっていること。昼に一杯コーヒーを飲むことを、『コーヒーは体に悪いから、やめろ』と言われても、『うるさい、こっちの勝手だ。一杯ぐらいなら、むしろ、ポリフェノールでアンチエイジングと美肌効果があるから、飲んだ方がいいまである』としか思わない)

 ファントムトークが咲き乱れる。
 どんな時でも、彼女は彼女で在り続ける。

 『どうでもいい言葉を吐き散らす』という、
 お決まりのテンプレを並べてから、
 センテラスは、まっすぐな想いで、


(心配しなくていいよ、ザンク。私には、終着点が見えている。ここからは、私がやる。――だから、あんたは、後ろに控えて、のんびりミルクでも飲んでやがれ)


 最後までテンプレ交じりに、そう言い捨てると、
 テラスは、ザンクを押しのけて、
 自分が意識の表層に出ていく。

 いまだ、ありえない量の苦痛と絶望の中にいながら、
 しかし、テラスは、奥歯をかみしめて我慢しながら、
 まっすぐに、蝉原をにらみつけて、

「私はヒーローじゃない」

 ぽつりと、

「ヒーローにはなり切れなかった、ただのみっともない器のカケラ……そもそも、ヒーローになんかなりたくないと思っている、一小市民に過ぎない」

 言葉を並べていく。


「それでも……叫び続ける勇気を……」

 覚悟だけで紡がれる言葉。
 世界に対する明確な宣言。

「ぶっこわれて、ゆがんで、くさって……けど……それでも、なくさなかったものは、確かに、この胸の奥にある……」

 ただの言葉じゃない。
 これまでの全部をかみしめて吐き出す想い。
 山ほどの地獄を見てきた。
 そんな彼女でなければ構築できない羅列。
 役職を与えられただけの記号では届かない世界。

 テラスは、

「……」

 ――あえて『最後の言葉』を飲み込んだ。
 ソコに在る『意味』を知っているのは彼女だけ。
 それでいい。
 それがいい。



「――いくぞ、蝉原。殺してやる」



 堂々と言い放つ。

 そんなテラスに、蝉原は、

「怖いねぇ」

 そう言いながら両手を広げる。

「さあ、見せてくれ、閃くん。すべての力を失い、完全絶望状態になった君が、ここから、何をどうするのか」

 ふざけたことを言い放つ蝉原に向かって、
 テラスは、握りしめた拳を、蝉原の腹部に向かって放つ。

 神の力も、オーラも魔力も失って、
 カスッカスの搾りかすになった拳。

 『8のカケラ』を手に入れて万全の状態になっている蝉原が、そんなものでダメージを受けるはずがない。
 実際、蝉原にとどいた拳は、蝉原の視点では、『腹に、ただ触れた』というだけ。
 まさしく、蚊が止まったようなもの。
 血を吸えない蚊は、ただの羽虫だ。

「ただ触れただけにしか感じない。それで、何かがどうにかなるとでも?」

「……」

「どうしたのかな? 閃くん……何か、とっておきがあるのなら見せてくれ」

 そんな蝉原の言葉に、
 テラスは、ニコっと、太陽のように微笑んで、
 蝉原の腹部に、拳をあてたまま、


「……私の全部を奉げる。これまでの全部を」

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