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100話 イタズラな領域外の牢獄。


 100話 イタズラな領域外の牢獄。

「――『イタズラな領域外の牢獄』――」

 『極めて特異な魔法』を使うサイアジ。
 魔法と呼んでいいのか微妙な代物。
 スキルでもあるし、たんなる概念でもあるし、
 もろもろ、理解しがたい、領域外の一手。

 そんな、謎の技を使われた直後、
 ザンクは自身の身に起こった異変に気付く。

「……な、なんや……」

 心がザワザワする。
 気づけば、体が震えている。

「え、なにこれ……マジで……ぇ……」

 困惑しているザンクに、
 サイアジは、

「――『イタズラな領域外の牢獄』は、『脆さ』が暴走し、『弱さ』が浮き彫りになる世界。『心の強さ』を殺す世界。魂の『強さ』を絶対に許さない領域。ただただ、『それだけ』に特化した限定領域。あらがうことを許さない、『弱さ』を煮詰めた地獄」

 丁寧に、ザンクの心を削っていく。
 もちろん、親切で教えているわけではない。
 暴露を積んでいるだけでもない。

 心とは、『絶望の精度を正しく理解すること』で、より大きなダメージを受けるもの。
 『自分は、今、非常に苦しい状態にある』と理解していればいるほど、心というものは重い負荷を感じるもの。

 たとえ、『地獄』にいたとしても、それが『苦しいものである』と正しく理解していなければ、心は、たまに耐えてしまう。

 だから、サイアジは、丁寧に、丁寧に、
 『ザンクの現状』を、ザンクに教えていく。

「タナカ・イス・ザンク、貴様の心は、決して強くないが、しかし、プライドと底意地だけはなかなかのもの。その『拙(つたな)い見栄』を徹底的に殺す。綺麗に終われるなどと決して思うな。無様に泣きわめけ。悟ったような態度で、賢(さか)しら『死』を受け入れて、静かな最後を迎える――そんな『自己陶酔型の飾った死に様』など許さない。恐怖に震え、小便や糞尿を垂れ流しながら、命にすがりついて……そして死ね」

「……はぁ……はぁ……」

 ザンクは、思わず、その場に崩れ落ちる。
 どんどん、恐怖がこみあげてくる。

「貴様の自由意志は今日、確実に死ぬ。以降は、真・神帝陛下の歯車として馬車馬のように働いてもらう。貴様の存在価値は、それだけだ。それ以外のことなど、誰にも望まれてはいないし、それ以外を成せる力もないし、自由が許される価値もない」

 これまでのザンクは、『恐怖心』からも『自由だった』ところがある。
 レバーデインに殺された時も、
 恐怖の感情よりも、レバーデインに対する不快感が強かった。

 決して心が強いわけではないが、
 『賢者としてのプライド』だけは高いので、
 『自分の死ごときにおたおたしたくない』という、
 『強い見栄』に縛られている。

 いつも飄々(ひょうひょう)としていて、
 周囲を小バカにするように、ニタニタと微笑みながら、
 どこか冷めていて、俯瞰で世界を見つめていて、
 その気になれば、『なんでもできる』とタカをくくって、
 賢(さか)しらに、自由に……スマートに、クールに、
 命や世界と、適切な距離を保つ天才。


 ――そんなザンクの『見栄』を、サイアジは全力で否定する。


 その結果、

「うっ……うぅ……うぅううう……っ」

 ザンクの頭の中が、『死に対する恐怖』で埋め尽くされる。
 どうしても、抗えないほどの恐怖に包まれる。
 心がどんどん委縮していく。
 脳が小さくなっていく感覚。

 冷や汗があふれて、血が冷たい。
 重たい恐怖心が、とめどなくあふれて弾ける。

「……きしょい、きしょい、きしょい……なんやねん、これはぁ……うぅっ!」

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