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67話 本物! あれは北大陸の勇者! やばい! 下手を打ったら死ぬ!


 67話 本物! あれは北大陸の勇者! やばい! 下手を打ったら死ぬ!

 ドーキガンとゾメガに匹敵する力を持つのは『北大陸・北方の森を根城にしている聖龍王』ぐらい。
 その程度の噂ぐらいなら、最低限、社会情勢を勉強している者なら誰でも知っている。

(召喚士ポール。聞いたことがない。偽名? ……いや、というか、そもそも、陛下や勇者に匹敵する者など聞いたことがない……)

 それほどの実力者が存在するのであれば、
 ある程度、噂が広まっていないとおかしい。

(……こっちの心をへし折るための嘘である可能性が高い。もっと言えば、あの男が、本当に勇者であるかどうかも疑わしい……陛下級の魔法使いに『擬態』の魔法を使われれば、私では看破のしようがない)

 などと、カルシィが、悩んでいる間に、
 ゾメガが、
 バキバキと指の関節を鳴らしながら、

「紹介も済んだことだし、それでは、はじめようか」

 そう言うと、
 ゾメガは、一歩後ろに下がり、
 ドーキガンが、剣を抜きながら前に出た。

 そして、そんな二人の、ちょうど中間地点を陣取るモナルッポ。

 ――カルシィたちの覚悟が固まる前に、
 ドーキガンは、踏み込み足に力を込めた。

 決して本気ではないが、
 かなりの豪速で距離を詰めて、
 カルシィに剣を叩き込む。

 ギリギリのところ、
 反射で反応したカルシィ。
 自分の剣で、ドーキガンの剣を受け止めると、
 そこで、

(お、重たぁぁぁっっ!! な、なに、この鋭さっ! ただ速いだけでも、ただ強いだけでもない……っ)

 ドーキガンの剣を直接受けたことで、
 彼の『異質な強さ』を、すぐさま理解した。

 強者は強者を理解できる。
 カルシィは、ドーキガンの強さを理解できる程度には強者だった。

 吹っ飛ばされたカルシィは、
 姿勢を整えながら、

「本物! あれは北大陸の勇者! やばい! 下手を打ったら死ぬ!」

 今まで受けたことのない剣。
 その覇気を受けて、疑念が一瞬で吹き飛んだ。

 ――となると、

(あの、後ろにいる召喚士……まさか、本当に、勇者に匹敵する?! い、いや、さすがにそれはない! 勇者や陛下に匹敵する存在が、そんな、ポンポンいるわけがない!)

 カルシィの後ろで、
 センは、

(えげつない剣の鋭さ……間違いないな……あいつは本物……っ)

 心の中でつぶやきつつ、渋い顔で天を仰ぐ。

 センも、どこかで、『ニセモノではないか?』と疑っていた。
 ドーキガンのフリをしている『ゾメガの側近』の可能性を考慮していた。

 しかし、先ほどの、カルシィに対する一手を目の当たりにして、
 彼が、間違いなく、この世界で指折りの化け物であると理解する。

 センがそう理解したと同時、
 センを盾にするようにして、センの背後に隠れていたボーレが、

「ピンときたぞ、後輩」

 などと言いながら、センの背中をバシっと叩き、

「おそらく、あの勇者はニセモノだ。ゾメガ陛下は、俺達の心を折るために、勇者が参戦していると嘘をついたんだ。どうだ、俺の灰色の脳ミソは! うやまっていいぞ! こうべをたれて、つくばえ!」


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