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19話 『殺した方がいい危ういもの』を、身近に置いておくのも、また、風流。


 19話 『殺した方がいい危ういもの』を、身近に置いておくのも、また、風流。

 薄羽の生えたサソリみたいな虫は、ザンクの頭上に着地して、

「ギギ……」

 一度、鳴き声をもらしてから、スースーと、寝始めてしまった。

「……おいおい、ずいぶんと、かわいいやないかい……」

 ――などと、トチくるったことをほざくザンクさん。

 見た目は、だいぶキモい虫なのだが、
 しかし、こうして『懐かれた感じ』を出されると、
 悪くないと思ってしまう、人間の妙な心の機微。

 ちなみに、ザンクさんは、ゴキブリもクモもゲジゲジもサソリも苦手ではない。
 だから、頭にバグが乗っても、『かわいい』などと、呑気なことが言えているが、
 もし、虫が苦手な人だったら、近づかれた時点で、悲鳴をあげて卒倒しているだろう。
 そのぐらい、バグの見た目は、ちゃんとグロい。

「せっかくやし、名前をつけたろう……どうしようかな……んー、まあ、普通に、ザンバグとかでええかな」

 自分の名前を次代に継承していくスタイル。
 その辺に関しては、普通の感性。
 ザンクさんは、かなりイカれた人間だが、
 感性の全てがバグっているわけではない。

 ――と、そこで、
 それまで、黙って見ていたモナルッポが、

「お、おい……その虫はなんだ? モンスターか?」

 と、警戒しながら、そう言ったのに対し、
 ザンクは、ヘラヘラしながら、

「モンスター……ではないかなぁ。ただ、『これがなんやねん』という疑問に対しては、んー、明確な答えは、ザンクさんも、もってないなぁ……これ、なんやろうなぁ」

「……その虫からは、何か、イヤな気配がする。殺した方がいい」

「まあ、その意見には同意する……けど、『殺した方がエエ気がする危ういもん』を、身近に置いておくんも、また、風流やろ?」

「……何を言っているんだ、お前?」

「ああ、気にせんでええよ。ザンクさんは、気ままなおしゃべりをしとるだけやから。中身なんて、あってないようなもの……と思わせて、たまに、鋭いことも、ズバっと言ったりするから、やめられない、とまらない」

 などと、『ファントムなのかどうか』すら微妙な、
 奇抜すぎるトークでモナルッポを翻弄するザンク。

 そのままの流れで、ザンクは、
 自分の頭の上で寝ているバグの首根っこを掴み、
 自分の顔の前まで持ってくると、


「おい、起きろ、ザンバグ。これから、お前を使って、いろいろ実験していくで」


 声をかけると、
 ザンバグの目が、ギラっと光って、
 ブワっと飛び上がり、ザンクの前でホバリングをはじめた。

「おー、かなり、やる気があるみたいやな。かわいいやっちゃで」

 などと言いながら、ザンクは、ザンバグの頭をなでてから、

「ほな、まずは、お前と携帯ドラゴンの違いを確かめていこか。基本構成は、携帯ドラゴンと同じはずなんやけど……んー、同じことできるんかなぁ……出来て欲しいところやけどなぁ」

 そこから、ザンクは、『ザンバグ』に何が出来るのかを調べていった。

 ――結論から言うと、
 ザンバグは、膨大なマナを内包していたが、
 しかし、それだけで、特に、何か特別なことが出来るわけではなかった。


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