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70話 検問所でも見事な演技が止まらないモナルッポ。


 70話 検問所でも見事な演技が止まらないモナルッポ。

(モンスターに、置き去りにされるとは……なんとも情けない話じゃないか……)

 心の中で、そうつぶやきながら、モナルッポは、行き交う人々の顔を確認する。
 印象の問題ではなく、事実として、この国に生きる民の方が、ミルスの民よりも表情が明るい。
 みな、今日よりもマシな明日がくることを信じている顔つき。

 明日を夢見ながら、大事な今日を謳歌する。
 ……誰もが、そうやって、必死に生きている。
 記号だけの存在など一人もいない。
 誰もが、寝て起きて働いてメシ食ってフロ入って、
 たまに遊んで、恋をして、ガキを産んで育てる。

 そうやって、命が繋がっていく。
 そうやって国はまわっていく。

(嫉妬に値する……しかし、今は、そんな感情にふりまわされている場合ではない……)

 自分を律しながら、
 モナルッポは、検問所へと足を運ぶ。

 数名ほど、並んでいたが、役人の手際がいいのか、
 それほど待たず、番兵に案内されるモナルッポとキッツ。

「はい、じゃ、そこ座って」

 指定された椅子に腰をかけるモナルッポ。
 トイメンには、こぎれいな格好をした役人風の男が椅子に腰をかけている。
 モナルッポは、『自分をここまで案内した番兵』と『目の前の役人風の男』を交互に見ながら、心の中で、

(ショヒデのような進化種とは違い、こいつらは魔人か……進化種は、まだモンスターだった頃の面影が残っているが……魔人は、ほぼ、完全に人間……)

 肌の色に若干の違いがあるだけ。
 それ以外の部分で違いを見つけるのはほぼ不可能。

「それじゃあ、私はここで」

 番兵がそう言いながら、検問所の外に出ていったタイミングで、
 役人風の男が、とくに前起きもなく、さっそく、

「身分証明書は?」

 と、言葉をなげかけてきたので、
 モナルッポは、ヘラヘラ顔で、

「あ、すいやせん、なんも持ってないです。俺、進化したばかりなんで。というわけで、どうしたらいいか教えてもらえます?」

 と、『何もわかっていない者』を演じると、
 役人風の男は、

「サードアイ」

 と詠唱しながら、目をこらして、モナルッポを見つめる。
 フェイクオーラに自信のあるモナルッポは、表情を一切変えずに、自分の鑑定が終わるのを静かに待った。

「……ああ、確かに、進化したばかりの魔人っぽいな……」

 ダルそうな態度でそう言いつつ、
 手元の書類に何かを記載しながら、

「お前、進化する前の記憶はあるか? もしあるなら、なんのモンスターだった? 見たところ鬼のようだが、種族名は分かるか?」

「豪覇鬼です。あ、ちなみに、うしろの女も同じです」

「豪覇鬼ね。『最上級モンスター』とは、なかなかの階級。幹部候補だな。……ん、というか、お前ら、まさか、同じタイミングで進化したのか?」

「いえいえ。もともと、俺の方が、だいぶ先に進化していまして……半年ぐらい前かなぁ……で、森の奥の方で、テキトーに生きていたんですが、豪覇鬼だった頃からの知り合いであるこいつも進化したんで、それをきっかけに、この国で厄介になろうかなぁ、と思いまして」


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