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58話 『モナルッポ・スピアーズ・ミルトリス』の存在値は……


 58話 『モナルッポ・スピアーズ・ミルトリス』の存在値は……

「兄上のような偉大な次期大王の出がらしとして生まれて、俺も辛いのです。どうせ、俺のような無能が何をしたところで、結果は同じなのですから、俺のことは、どうか、『いないもの』としてあつかっていただきたく思っております」

「くっ……無様な……それでも、私の弟か……っ! 貴様のような無能と同じ血を引いているかと思うと、吐き気すらおぼえる!」

 そう言い捨てて、
 兄は、モナルッポの自室から出ていった。

 兄がいなくなり、静かになった自室で、
 モナルッポは、

「くく」

 軽く笑みを浮かべつつ、
 心の中で、

(兄上……あなたには感謝していますよ。あなたがいるおかげで、いつも、非常に動きやすい)

 兄に対する感謝の言葉を並べる。

(おかげで、誰にも警戒されることなく、国の業務に縛られることもなく、世界の死角に潜み、自由に、牙とツメを研ぐことができる……)

 能ある鷹は爪を隠す。
 獲物を確実にハントするための極意。


 『獲物(世界)』を狙う身としては、『警戒されていない状況』がもっとも好ましい。


 また、『自分を磨くための時間』を確保するためにも、
 『余計な仕事』が回ってこないポジションにいることが重要。
 大事なことは、『未来』のために、どれだけ適切な布石を打てるか。

 ――ちなみに、『モナルッポ・スピアーズ・ミルトリス』の存在値は783。
 タイマンならエルメスにも勝てるだけの実力が、モナルッポにはある。

 北大陸において、彼の実力は、堂々のナンバーツー。
 無敵の勇者ドーキガン・ザナルキアさえいなければ、ぶっちぎりの最強。

(……ドーキガン・ザナルキアが世界の王を目指していた場合、なんとしてでも排斥しなければいけなかったが、あいつは、王に興味がない)

 ドーキガン・ザナルキアとは、何度か対話したことがある。
 ドーキガンは、非常に聡明で優秀で強靭な男だが、
 しかし、『権力に対する欲望』が極めて希薄である。

(ドーキガンは有能な『剣』だ。友好的な関係を築いておいて、南大陸に対する抑止力として、便利に使っておけばいい)

 昔のモナルッポは、ドーキガンを強く警戒していた。
 『どうやって殺そうか』と、そんなことばかり考えていた時期がある。

 モナルッポの目標は『世界の王』になること。
 北も南も含めた『完全なる命の王』になること。
 自分には『それだけの価値がある』と信じていた。
 だが、ドーキガン・ザナルキアの存在を知ったことで、
 彼は、激しい嫉妬と警戒心を心に抱いた。

 しかし、実際に、ドーキガンと会ってみて、
 彼の内面を知ったことで、そのどちらもが薄らいだ。


『ドーキガン・ザナルキア。君は王になりたいとは思わないのかい?』
『ボクは、ただ、絶望を裂く一振りの剣であればいい』
『欲のない男だね。絶対的支配者になれば、すべてが手に入る。君には、その絶対的支配者になれるだけの資質があるというのに』
『支配者には、君がなればいい……と、ボクは考えています。あなたにはそれだけの資質がありますから』
『……は、はは。何を言っているんだ。俺は、優秀な兄の出がらしにすぎないというのに』
『フェイクオーラに自信があるようですが、ボクのセブンスアイをごまかせるレベルではありませんね』

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