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23話 一石を投じる。


 23話 一石を投じる。

「また、神級のモンスターが登場したら、その時に、討伐部隊を派遣するか否かを考えたらいい」

「それでは遅いかもしれないでしょう。殺し合いにおいては、先手を取った方が、常に、圧倒的有利。ヤオヨロズの迷宮で、もし、何か異変が起きているのであれば、先んじて、原因を調べておいた方がいい」

「前提を、もっと明確にしたいところ。私の意見を言わせてもらえれば、そもそも、本当に神級だったのかも怪しいところだ。死羅腑を騙っているだけのソウルリッチの可能性もゼロではないのでは?」

「私は『その線がかたい』と思っていますよ。いくら、フェイトファミリー出身とはいえ、10歳以下のガキ二匹に討伐されるような雑魚ですからね」

「10つ星冒険者チーム覇剣が手も足も出なかったのだから、ソウルリッチではないだろう」

「いやいや、わかりませんよ。覇剣のたるみ方はひどいものですからねぇ」


 会議が躍り出す。
 それぞれの意見がぶつかりあう。

 この場は、
 『本気で国のことを考えている者』、
 『自分の身がセーフティであれば、それでいい者』、
 『考えるのが面倒くさい者』、
 『嫌いな相手を貶めることが出来ればそれでいい者』、
 『自分より上位者の意見に合わせているだけの者』、
 ――などと言った具合で、様々な考えを持つ者が集まっている。

 騒音で満たされた場を見つめながら、
 そこで、皇帝ラピッド・ヘルファイア・ソルウィングは、

「さすがにソウルリッチではないだろう。しかし、本当に死羅腑だったのか……そこに関しては、私も懐疑的な部分がある。神級のモンスターなど、そうそうお目にかかれるものではないからな。死羅腑を名乗っているだけのワイズマンだった可能性も――」

 と、そう、意見を述べようとしたところで、





「――常識的な連中では、『この私の高み』を、理解することなどできないであろうな」





 一瞬で、場の空気がピンと張り詰めた。
 おぞましい気配。

 皇帝は、すぐさま、

(……空間系の魔法……閉じ込められた……膨大な魔力……大問題……即座に対処を………っ)

 現状を把握すると同時、
 魔力の発生源を発見しようと、感知系の魔法を使った。

 探す必要はなかった。
 脅威は、すぐ目の前に出現した。
 円卓のど真ん中に、黒い霧が集まっていく。

 その黒い霧は、コンマ数秒程度の極めて短い時間でシルエットを形成すると、

「人の王よ。貴様程度では、神を理解することなど、とうてい出来ないだろう」

 死羅腑の突然の登場に、
 皇帝は、一瞬だけ気圧されたものの、
 しかし、『自分は皇帝である』という誇りと、
 『配下に囲まれている』という現状が、
 皇帝の心を、通常よりも強くする。

 『人の心』や『態度』というものは、周囲環境によって大きく変化する。

 よっぽど特異なメンタルを有していない限り、
 一兵卒というポジションにいるときは一兵卒の心構え、
 皇帝というポジションにいるときは皇帝の心構えになるもの。

 ゆえに、皇帝は、不遜に笑う。
 もし、内心、ビビっていたとしても、それを隠して不敵に敵を睥睨(へいげい)する。


「ふん……魔物の神よ。貴様程度では、人類の頂点たる『皇帝の力』を理解することなど、とうていできないだろう」


 あえて、シンクロしていく。
 ラピッド・ヘルファイア・ソルウィングは、皇帝としての矜持を見せつける。


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