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36話 クソども。


 36話 クソども。

 ここは、アブライの屋敷。

 その日、グリド王国の侯爵令嬢『トワネ』は、
 グリド王国の第一王子『バッパー』と婚約したことを、
 アブライ・ファミリーのボス『アブライ』に報告しにきていた。

「トワネ様、ご婚約、まことにおめでとうございます」
「ありがとう。あなた達には、今までたくさんお世話になったけれど、これからは、もっと、頻繁に連絡を取り合っていくことになると思うから、今後ともよろしくね」

 十数名の構成員に囲まれたラウンジで、
 二人は、和やかに会話をしている。

 『アブライ・ファミリー』と『グリド王国の上層部』は裏でガッツリと繋がっている。
 というより、もはや、アブライ・ファミリーは、グリド王国の正式な暗部組織と言っても過言ではない。

 トワネのように、『人間をペットにするのが大好き』という特殊な趣味を持つ貴族にとって、『裏社会』に精通している『アブライ・ファミリー』は、大事な情報源であり、貴重な協力者。
 もちろん、その見返りとして、トワネも、彼らに、貴族としての力を提供する。
 腹黒同士、ウィンウィンの関係を気づいている。

「ココ、あなたも、私の婚約が決まって嬉しい?」

 そう言いながら、トワネは、自分の足元で四つん這いになっている少女の頭をなでた。
 この少女――『ココ』は、トワネのペットで、
 アブライ・ファミリーが、他国から誘拐してきた下位貴族の娘。

「……わん」

 それしか口にすることを許されていないココは、死んだ目で返事をする。
 すでに心は折れている。
 ココには、希望も未来もない。
 ただ、トワネのペットして遊ばれて、トワネが飽きたら殺される。

「もっと、嬉しそうに、返事しろよ、駄犬!!」

 そう叫びながら、
 トワネは、ココの頭を踏みつけた。

 額を地面に打ち付けて血が流れる。

「う、ぅう……い、痛いぃ……」

 うめき声をあげるココに、
 トワネは、

「……『わん』以外は、口にするなと言っているだろ、いつもぉお!」

 ヒステリックに、怒鳴りつけながら、
 何度も、何度も、ココを蹴りつける。

 そんな彼女に、アブライは、優雅にブランデーをまわしながら、

「まだ飽きていないのなら、殺さないでくださいよ。貴族のガキを調達するのは、本当に骨が折れるんですから」

 と、そこで、トワネは、ニィっと、嗜虐心いっぱいの顔で微笑んで、

「ねぇ、アブライ。ココの父親と母親はどうしたんだっけ?」

 と、言うと、それまで力なく蹴られていただけのココが、ピクっと反応をしめした。

 アブライは、やれやれといった顔で、

「誘拐するときに見つかってしまったので、どっちも殺しましたよ。下位とは言え、他国の貴族ですから、後始末が本当に大変でした。出来れば、二度とごめんです。なので、そのガキは、大事にしてください」

「はいはい、わかっているわよ」

 そう言いながら、ココの頭を、トワネは、足でぐりぐりと地面におしつける。

 ココは、怒りと悲しみで一杯になっていた。
 心が完全に壊れてしまいそうな、
 そんな痛みの中で、

「……たす……けて……」

 ボソっと、つい、そうつぶやいてしまった。
 誰も助けてくれないのは知っている。
 しかし、口にせずにはいられなかった。

 ――と、その時、


「ずいぶんと楽しそうなことをしているじゃないか、カス共」


 『黒髪のナイト』が現れて、

「てめぇらの全部が不愉快で仕方ないから、とりあえず、いったん、ボコボコにさせてもらう。話はそれからだ」

 大胆に、そんなことを言い放った。


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