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32話 マフィアをボコボコにするセン。


 32話 マフィアをボコボコにするセン。

 ――その日、センは、『ノコの護衛』を、『クダラ(隊長、エキドナ)』と『魔導師団(隊長、ヒキーレ)』に任せて、単身、グリド王国に来ていた。

 大通りを行きかう人々の顔を見て、
 センは、

(いつも通り、民衆の顔が死んでいる……)

 グリド王国は、リブレイの半属国みたいな国。
 リブレイに『サイフのような扱い』をされており、
 あろうことか、グリドの貴族は、その重荷を民衆に丸ごと背負わせた。

 『平民は貴族の道具』。
 それが、この国でのあり方。
 当然、『革命を起こそうと立ち上がる者』もいたが、
 グリドに逆らうことは、リブレイに逆らうことにもつながるため、
 革命が成功することはない。

 グリドの民衆は、骨の髄までしゃぶりつくされ、死ぬまで搾取されつづける。
 だから、当然、死んだような顔で毎日を生きている。

 逃げようとしたものは殺される。
 逆らった者は殺される。

 ――この国は、平民にとって、まさに地獄。


「おい、そこの黒髪! ここは、アブライ・ファミリーの支配領域だ。まさか、タダで素通りできるなんて思ってねぇだろうな?」


 センが裏通りを進んでいると、
 その途中で、イカついチンピラに呼び止められた。

 アブライ・ファミリーは、グリド王国で最も力を持つマフィア。
 当然のように、裏で貴族と手を組んでいるため、
 殺人・強盗・強姦など、どんな悪事を働こうと、
 構成員が『国からのお咎め』を受けることはない。

 この国は、平民にとって、本当に生きづらい国なのである。

「死にたくなければ、とりあえず、有り金も、アイテムも全部おいていけ。黙って言うことを聞くなら、半殺しで許してやる」

「半殺しねぇ……お前ごときが、どうやって、俺を半殺しにするのか、聞かせてもらってもいいか?」

「あぁ?! なんだ、てめぇ! ナメた口ききやがって!」

 ちょっと煽られただけで、すぐに顔を真っ赤にしたチンピラ。
 チンピラは、ナイフを抜いて、
 センに切りかかってきた。

 ちなみに、このチンピラの存在値は100前後。
 一般人の存在値は、だいたい30~100なので、
 このチンピラは、かなり強い方。

 だが、世界最強であるセンと比べればハナクソみたいなもの。

 ――チンピラは、

「おらぁあああ!」

 と、気合を叫びながら、
 センの胸部にナイフをつきたてた。

 ズブリッと、センの体を切り裂くナイフ。
 その感触を楽しみながら、チンピラは、

「一発で終わりじゃねぇぞ!」

 と、叫びながら、ナイフを抜いて、もう一度、ナイフをセンに刺そうとする。
 が、そこで、

「お前は俺を殺そうとした。『脅し』でとどめることすらなく、躊躇なく、ナイフを俺につきたてた」

 そう言いながら、センは、チンピラが再度振り下ろしてきたナイフを素手でつかみ、
 治癒の魔法で、体を治しつつ、

「この意味がわかるか? お前は、もう、俺に何をされても文句を言えないってことだよ」

 そう宣言すると、
 まずは、チンピラの腕をヘシ折って、

「ぐぎゃっ!」

 ナイフを奪い取ると、手の中で、小さく握りつぶし、
 ポイと、その辺に捨ててから、
 左手で、チンピラの髪を掴み上げ、
 右手の拳を握りしめると、

「ぶげぇえ! おぇえ! ぐぇええ!」

 チンピラの顔面に向かって、何度も、何度も、拳をたたきつける。

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