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28話 世界一の天才ノコ・ドローグ。


 28話 世界一の天才ノコ・ドローグ。

 バーっと、自分の考えを口にしてから、
 レンドは、ノコの目をジっと見つめて、

「それで、どうする?」

 そんなレンドからの問いかけに、
 ノコは、わずかも考えることなく、
 首を横に振って、

「むりね。あたし、お金もっていないから」

「もってねぇってこたぁねぇだろ。侯爵令嬢様なんだからよぉ。というか、ドローグ家は、薬関連の商売で、かなり儲けていたはずだろ? 経済について詳しくはねぇが、あんたの家がボロ儲けしているって話ぐらいは聞いている」

「お金の大半は、道路や病院なんかのインフラ、教会や学校なんかの福祉関連、あと孤児院への寄付に使ってしまったもの。『事業を継続するためのお金』以外は残していないわ」

 疫病が蔓延する前から、ノコは、国のために頑張っていた。
 ノコは、特定の病を治せるだけではなく、『医療関連』の様々な『優れた才能』を有していた。
 そのなかでも特に優れていた『薬物系に属する特殊な才能』を生かして、『高品質・低価格の薬』を世に広め、その収益を、社会的弱者救済と社会基盤向上のために全ブッパした。

 おかげで、リブレイの国内総生産は飛躍的に向上し、
 西大陸随一の大国となったのである。

「もしかして、その辺のお金を、王族が出しているとでも思っていたの? あの人たちは、そんなことしないわよ。クズとバカばっかりなんだから。あたしが頑張って国を支えていたことなんか知らず、『なんだか知らないけど、すべてがうまく行っている』なんて勘違いしている本物のバカども。存在値と戦闘力の高さは認めるけど、それ以外は本当に何もない空っぽのクズ連中。それがリブレイの王族」

 ノコ・ドローグは、いわゆる『天才』である。
 この世界は、『学力テスト』などのような番付けが行われる世界ではないため、
 ノコの頭脳が、世界的に見て、どのランクに位置するのか把握する手段はない。
 ――が、仮に、全国一斉知能テストなどが行われた場合、
 ノコは、ぶっちぎりで世界一位を取る。
 そういうレベルの天才なのである。

「金を出して、知恵を貸して、若さまで差し出して、そうやって国を支えてやったのに、あのバカ王子は、そのあたしをゴミみたいに捨てた。『最低限、事業を継続するために残していた財産』も、たぶん、今頃、テキトーな理由をつけて徴収されているでしょうね。ほんと、面白い話だわ。笑えないという点をのぞけばね」

 医療関連の優れた魔法的才能と、
 純粋に高スペックな頭脳と、
 ありえないレベルの優しい心を持つ、
 稀代の天才少女。

 そんなノコ・ドローグを失ったリブレイ王国が、
 今後、いったい、どうなってしまうのか、見物である。

「……ノコ・ドローグ。あんたが稀代の聖女なのは知っていたが……そこまで徹底していたとは、さすがに思わなかったな……」

 レンドは、右手で頭を抱えて、

「じゃあ、あんたとは交渉するだけ無駄ってことか。少なくとも、金に関しては」

「そのとおりよ。まあ、金があったとしても、あなたたちに払う気はないけどね。大事なお金を、そんなもったいないことに使うわけないじゃない。5000万テスあったら、どれだけの人を救えると思っているの?」


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