センエース~経験値12000倍のチートを持つ俺が200億年修行した結果~(コミカライズ版の続きはBOOTHにて販売予定)
22話 『バカ王子』地獄サイド(5)。
22話 『バカ王子』地獄サイド(5)。
マルファイは、所詮、ただのナイトでしかない。
センとは違い、飛びぬけた力は持っていない。
ただ、そこらの一般人よりもだいぶ我慢強く、バルディのワガママに耐えられる稀有な存在だったので重宝されていた。
バルディからすれば、
『すでに飽きがきていたサロメ』よりも、
『つかえる男であるマルファイ』の方が、
総合的な価値としては高かった。
だから、
「……うぐっ……」
殺すのを躊躇してしまった。
本来であれば、一撃で首を飛ばすことができたが、
バルディは、マルファイの腕を切りつけるだけにとどめた。
「マルファイ……お前の気持ちはわかった。剣をおさめろ。まだ許してやる。この温情を理解しろ。お前は――」
「バルディ……」
マルファイは、
血走った目で、バルディをにらみつけ、
「貴様は、あの世で、サロメに会えないぞ……貴様がいく地獄に、サロメはいない。地獄に堕ちた貴様を笑い飛ばしながら、私達は……天国で愛し合うんだ……」
最後にそう言い捨てると、
全身のオーラと魔力を、全て剣に注ぎ込み、
人生最高の一撃を放った。
『生涯をかけた一撃』は、『バルディが知っているマルフォイの一撃』とはケタが違った。
だから、バルディは、つい、完璧に反応してしまった。
正確無比なカウンターで、マルファイの首を切り飛ばしたバルディ。
「……っっ!!! サロ……メ……いま……いくから……」
バタリと倒れこむ、マルファイの体。
宙に浮かんでいた首が、ポトリと地面におちる。
もう言葉は発せられない。
マルファイは完全に死んでしまった。
「……どうして、こうなった……」
ボソっと、バルディは、そうつぶやく。
力強く剣を振ってしまったことで、肩が痛む。
腰もいたい。
目もかすむ。
「……どうして……こんなことに……」
壁にもたれかかり、ずるずると、滑り落ちるようにして座り込む。
部屋に転がっているマルファイとサロメの死体を見ながら、
「……私は……幸せになるはずだったのに……」
ノコを切り捨ててからというもの、
バルディの人生はずっと、急な坂道を転がり落ちているよう。
「疫病神は、サロメではない……」
バルディの中で、ぐつぐつと、黒い感情が沸き上がってくる。
「ノコ・ドローグ……あのバカ女こそが疫病神……あの『異常性格者のチンチクリン』とかかわったせいで、私の完璧な人生がくるった」
老化による『体の痛み』を、一時的に忘れるほどの強い怒り。
ノコに対する理不尽な怒りだけで一杯になる。
バルディは反省したりしない。
いつだって、悪いのは自分ではなく、自分以外の誰か。
「殺す……殺す……殺す、殺す、殺す、殺す、殺す……」
暗い部屋で一人、
二つの死体を眺めながら、
ぶつぶつと、殺意を口にしていると、
そこで、
「で、殿下……どうなさいました?!」
もう一人のナイトが部屋に入ってきて、そう叫んだ。
彼は、マルファイと同じポジションにいるバルディ付きのナイト『フォック』。
「そこの二人は不倫をしていた……だから殺した……何か文句があるか?」
殺気のこもった目でそう言うと、
フォックは冷や汗を浮かべて、
「い、いえ! 殿下に文句など、なにも!」
「こいつらの処理はお前に任せる。いいな」
「はっ! かしこまりました!」
「それと……グリド王国とサロワール王国に、ノコ討伐の協力を要請しろ」
近隣に存在する『その二つの国』は、
表向きは友好国という扱いだが、
実際のところは、ほとんどリブレイの属国のようなもの。
強く命令すれば、動かざるをえない。
「あと、冒険者や、周囲の野盗なんかにも、ノコ討伐の命令を出せ」
使えるコマを全て動かそうとするバルディ。
憤怒を狂気に変えて暴走する。
「……ノコ……世界中がお前の敵だ……全方位から命を狙われる不安と恐怖の中で、とことん苦しんでから、死ね……」
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