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21話 『バカ王子』地獄サイド(4)。


 21話 『バカ王子』地獄サイド(4)。

「……ノコの時とは違うんだ……殺す気は……本当になかった……私は悪くない……殺す気はなかった……」

 と、そこで、ドアが開いて、

「殿下?! 今の音は、いったい?!」

 と、マルファイが部屋に飛び込んできた。

 マルファイの目は、すぐさま、サロメの死体を発見する。
 流れている血、焦っているバルディの青い顔。
 状況はすぐに理解できた。

(さ……サロメ……)

 放心状態になっているマルファイに、
 バルディは、

「ふ、不可抗力だ……こいつが……事故で転んだんだ。今の私の体では、支えてやれなかった……わかるな、マルファイ」

 テキトーに、事故として処理しようとする。
 いつもであれば、ここで、マルファイは、黙ってうなずいて、
 バルディにとって都合がいいように後処理をしようと動き出すのだが、
 今回だけは勝手が違った。

「壁が壊れるぐらいの勢いで激突する……そんな転び方など、ありえるわけがない」

 いままでに聞いたことのない声だった。
 静かで、冷めていて、煮えている……そんな、
 複雑な感情が渦巻いている声。

 ――だが、焦っている今のバルディは、
 そんなマルファイの心に気づくことはなく、

「……そうだな。その辺は、また、ノコの時と同じように、うまいこと、言い訳を考えておけ」

 と、いつも通りのクソ王子らしい命令を下していく。

「……」

 マルファイは、動かない。
 心が、どんどん冷たくなっている。
 感情が煮えたぎっていく。


「なにをボーっとしている、マルファイ。さっさと行動しろ」


 バルディの命令を無視して、
 マルファイは、死体となったサロメに近づいて、
 彼女の頬に手をあてて、

「……すまない、サロメ……守ると……約束したのに……」

 などと、そんな不可解なことを言っているマルファイに、
 バルディは、いぶかしげな目を向けて、

「何を言っている、マルファイ」

 マルファイは、殺人鬼のような目で、バルディをにらみつけて、

「……バルディ……貴様を殺したあとで、一緒になると約束していた。サロメと私は……愛し合っていた」

「…………はぁ?」

 バルディは、マルファイの言葉を理解するのに、だいぶ時間をようした。
 まるで、脳が、『理解すること』を拒絶しているようだった。

「マルファイ……お前……」

「よくも、サロメを殺したな……バルディ……」

 ごうごうと、燃えるような怒りをもって、
 マルファイは、腰に携えている剣を抜いた。

 本物の殺気。
 その目は、まるで『なにがなんでも絶対に殺す』と叫んでいるよう。

「……ずっと我慢してきた……サロメと幸せになるために……だが、もう終わりだ……貴様を殺してから、私も、サロメの元へ行く」

 完全に我を忘れている。
 怒りで暴走しているマルファイ。

 往々にして、『感情に支配されている他者』を見ると、
 それに反比例するように、自分の心は落ち着いてくる。

 バルディは、状況を飲み込こんだ上で、
 自分の感情を冷静に整理して、

「……マルファイ……『サロメとのこと』は……許してやる……」

 バルディはクズだが、知能ゼロというわけではない。
 マルファイの様子と言葉から、おおよその事情は理解できた。

「もう、その女に情は残っていない。だから、仮に、お前が、サロメと浮気をしていたとしても……それは不問にしてやる。これだけの温情を与える相手はお前だけだ、マルファイ。私には、お前が必要だ。子供のころからずっと、よくしてやっただろう? そのことを想い出せ。おたがい、色々と、おもうところはあるだろうが、いったん、水に流して、これからも、私のナイトとして――」

「死ねよ……クソ野郎」

 そう言って、マルファイは、
 バルディに切りかかった。


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