センエース~経験値12000倍のチートを持つ俺が200億年修行した結果~(コミカライズ版の続きはBOOTHにて販売予定)

閃幽零×祝@自作したセンエースの漫画版(12話以降)をBOOTHで販売中

1話 優しい令嬢と、最低な王子。


 1話 優しい令嬢と、最低な王子。

「ノコ・ドローグ。君のおかげで、流行り病は完全に収束した。それだけは感謝している。しかし、その報酬で男娼を買っていたという事実は見逃せない。君との婚約は当然破棄させてもらう」

 第一王子バルディの発言を受けて、
 ノコ・ドローグは奥歯をかみしめた。

 ノコは、今年で17。
 だが、見た目は80を超えた老婆。
 『美しかった金髪』は真っ白に染まっており、
 もともと華奢だった体は、枯れ葉のように細く脆く、
 小柄だった身長も、腰が曲がってより小さく見える。

「……殿下、あたしは男娼など買ってはいません……確かに、報酬をいただくことはありましたが、それらはすべて国のために――」

「言い訳は無用。……まったく、君はひどい女だよ。信じていたのに、こんな手ひどい裏切りを受けるとは、思ってもいなかった」

「聞いてください。あたしは――」

「……うるさいんだよ……」

 そうつぶやくと、
 バルディは剣を抜いて、
 ノコの心臓に突き刺した。

「ごふっ……」

 血を吐くノコの耳元で、
 バルディは、小さな声で、ボソっと、

「醜いババァと結婚なんかしてたまるか」

 本音を口にした。

 バタリと倒れこむノコを、
 虫けらを見るような目で見下すバルディ。


 ――と、そこで、





「あああああ! ノコ様ぁあああ!」





 倒れたノコに駆け寄ってくる一人の男。
 年齢は17ぐらい。
 名前はセンエース。
 職業は、ノコを守る騎士。
 『努力しているのが一目で分かる屈強な肉体』と、『純度の高い黒髪』が特徴的。

「ノコ様! ノコ様ぁあああ! ああああああああ!!」

 血を吐くノコを抱きしめて、
 自分が持っているポーションを、彼女の傷にふりかけるが、
 一向に傷が治らない。

 その様子を見ていたバルディが、

「――『国宝の妖剣』で切りつけたのだ。下賤(げせん)の者でも買えるような安いポーションでは話にならんよ」

 『国宝の妖剣』には、すさまじい『呪(じゅ)』がかけられている。
 そこらのポーションや回復魔法では話にならない。

「なんで! なんでぇ! なんでぇええええ! なんで、こんなことを!! 殿下だって! ノコ様に病気を治してもらったのに!!」

「だから、それは感謝していると言っている。しかし、私をあざむいて、男遊びをするような女は許せない」

「ノコ様は、疫病(えきびょう)が流行り出した5年前から、一日も休みをとることなく、寝る間も惜しんで、毎日、毎日、『病にかかった者』を救い続けてきた! あんたら王族が遊んでいる間も、ノコ様は必死に、国のために命を削って働いた!!」

 誰かの病気を治すたび、
 ノコは、どんどん老いていく。

 その姿を見続けたセンは、ある日、胸が苦しくなって、
 『どうして、そこまで出来るのですか?』と、つい聞いてしまった。
 ノコは、
 『若さしかない女よりも、あたしの方が美しいでしょう?』
 そう言って、笑ってみせた。

 センは思った。
 確かに、彼女こそ、世界で最も美しい。

「周りの貴族連中が、遊び惚けている間、ノコ様だけは、『苦しんでいる民衆』に寄り添っていた! この国のために……誰よりも頑張ってきたノコ様に……どうしてこんなマネができる!!」

「キーキー、わめくな、下等なサルが。騒いでいないで、そこのゴミを、さっさと死体処理場へ運べ。目障(めざわ)りだ」

 そこで、切れたセンは、
 腰の剣に手を伸ばした――が、
 その手を、ノコが、制止する。

「……セン……やめて……」

 まだ、かすかに息が残っていた。
 ダラダラと止まらない血を流している口で、

「……あなたは……死なないで……」

 死に際で、他人を心配できる彼女の姿を見て、
 センの心は壊れそうなほどに膨れ上がる。

 反射的に、彼女を抱きしめるセン。

「ノコ様……っ……ノコさまぁ……」

 あふれる涙で声がかれる。

「セン……ずっと……守ってくれて……ありがとう……」

「違う! 守ってくれたのは、あなただ! あなたが俺を病気から救ってくれた! 俺だけじゃない! 苦しむ人々を、あなたは! 自分の命を削って……っ!」

「センが……支えてくれたから……頑張れたの……それに……ヨボヨボになったあたしを……美しいと言ってくれた……嘘でも……嬉しかった……」

「本音です! あなたは世界で一番美しい!」

「……ありがとう……あなたに会えて……よかった……あたしは……幸せだったよ……」

 最後に、いつもの『優しい笑顔』を見せてから、



 ――ノコは息を引き取った。




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