センエース~経験値12000倍のチートを持つ俺が200億年修行した結果~(コミカライズ版の続きはBOOTHにて販売予定)
最終回 押し切られるセンエース。
最終回 押し切られるセンエース。
この女、ものすげぇグイグイくる……
『俺のことを勘違いしているヤツ』が『いま以上に増える』のはガチでしんどいので、どうにか、ご勘弁(かんべん)いただけないかと、必死に断(ことわ)っているのだが、
しかし、アダムは、折れずに、グイグイくる。
俺たちは、不毛な『会話のラリー』を繰(く)り返した。
俺が何を言っても、アダムは絶対にひかなかった。
もう、目が狂気的だった。
完全にラリっているヤツの目だった。
『絶対に、俺からは離れない』という強い意志を感じる。
だから、結局、
「あー……もういいよ……わかったよ……」
俺の心は折れてしまった。
これが戦闘だったら、俺は死んでいた。
シモベにすることを認めたと同時、
アダムは、目を輝かせて、
「恐悦至極(きょうえつしごく)に存(ぞん)じますぅうう!!」
と、おでこを地面にめり込まさんばかりの勢いで土下座しながら、
歓喜(かんき)の声をあげた。
アダムに続いて、
マリとアルブムとアポロの三人も、
俺のことを、尊いとか、すごいとか、
異常なほど持ち上げてくる。
何度でも言うけど、お前らを助けたの、俺じゃないから。
さっきのやべぇ局面(きょくめん)をどうにかしたのは、セイバーだから。
俺、なんもしてないのに、そんな持ち上げられても、恥ずかしいだけなんだよ。
と、俺が反抗すると、
酒神が、
「そのセイバーというのは、お兄(にぃ)の力なんでちゅよね?」
と、そんなことを言い出した。
いやぁ……俺の力……じゃない……かな……
なんて思っていると、
頭の中にセイバーの声がひびいた。
(俺はお前の力だ。今後、永遠に、俺は、お前の中で、お前の力として存在し続ける)
マジでか……
お前、なんで、そんな、かたくなに、力を貸してくれるんだ?
(力を貸しているんじゃない。俺は、お前の力なんだ。たとえば『お前の心臓』は、お前を生かすために頑張って毎日ドクドクしているが、それは、『お前に力を貸している』のとは違うだろ? 自分を生かすためにやっている。俺も同じだ)
よく分からんけど、
とにかく、こいつは、一応、俺の力らしい……
そのむねを、酒神に伝えると、
「じゃあ、お兄が褒(ほ)められるのは、別におかしなことじゃないんじゃないでちゅか?」
なんてことを言い出した。
俺が、うーん……と、うなっていると、
そこで、それまで黙っていた『魔王ユズ』が、
「……セン様。このたびは、あの鬼畜女から助けていただき、本当に感謝いたします」
などと、感謝の言葉をなげかけてきた。
もう、その手の言葉はお腹いっぱいだったので、
「もういい! もういいから! お前を助けようとしたんじゃないから! 酒神たちは一応、関係性があるから、普通に助けようとは思っていたけど、お前のことは、ガチの『ついで』だから! だから、ほんと、もういいから!」
強い剣幕(けんまく)で言ってやると、
『魔王ユズ』は、
「わ、わかりました……でも、一つだけ。これだけは、どうか、聞き届けていただきたいのです」
そう言って、片膝をつき、
「あなた様に、この国の王になっていただきたい。私を遥(はる)かに超越(ちょうえつ)した力と、『高潔な魂』を持つあなた様こそ、魔王にふさわしい」
などと、俺に、面倒事(めんどうごと)を押し付けようとしてきやがった。
なんでもかんでも、『高潔』って言えばすむと思うなよ。
てか、そもそも高潔ってなんだよ。
定義(ていぎ)を教えてくれや。
「王とか、やりたくねぇんだよ。お前がやってろ」
「王にふさわしいのは、間違いなくあなた様のほうで――」
「ふさわしいかどうかの話はしてねぇ。やる気のないヤツにやらせようとすんなと言っている。どんな経緯(けいい)があったにせよ、今のお前は魔王なんだろうが。責任を簡単に放棄(ほうき)しようとするんじゃねぇ」
「……っ」
「お前のことなんざ、よく知らんが……お前が、この国の民を思って、必死に頑張ろうとしていることだけはよくわかった。そういうヤツこそ上に立つべきだというのが俺の考え方。これからも、この国のために、血ヘドを吐(は)きながら頑張れ。それがお前の責任だ。投げ出すな」
「……かしこまりました……あなた様と比べれば、はなはだ役者不足ではございますが……あなた様ほどの方には『もっと大きな仕事』があることでしょうし、私は、この国の魔王として、精一杯、頑張っていこうと思います」
……よかった……どうにか、回避(かいひ)することに成功した。
魔王なんて、ようするに『学級委員長』みたいなもんじゃねぇか。
そんなダルいこと、やってられるか。
俺は、最強になるために頑張りたいんだ。
『他人の世話』なんかしているヒマはねぇんだよ。
ナメんじゃねぇぞ、ったく。
なんて思っていると、
また、アルブムとマリとアダムの3人が、
俺のことを『真に民のことを考えている、真なる王』などと持ち上げてきた。
もう、ほんと、勘弁(かんべん)してくれ!
妄想(もうそう)するのはやめて、ちゃんと生(なま)の俺を見ろ!
俺は、存在値2で、性根(しょうね)が腐(くさ)っている、ただのボッチだ!
『根性(こんじょう)』だけは、それなりに自信があるが、それ以外はなんもない!
『ちょっと不死身』だから、『肉壁』ぐらいはできるだろうが、
それ以外は、ガチで何もできないただのカス!
一ミリも尊くねぇし、
『高潔な魂』なんてのも持っちゃいねぇ!
そういう名前のプラチナスペシャルをもっているが、
あんなもん、ただのエラーだろ、どうせ。
誤解されるの、マジで辛い。
誰か、俺の事をちゃんと見てくれ!
と、俺が、心の中で叫んだ時、
酒神が、
「……お兄(にぃ)、命がけで助けてくれて、本当に感謝していまちゅ。ヘブンズキャノンも、絶対的主人公補正も失って、それでも、折れることなく、歯をむき出しにして、あのバカ女と対峙(たいじ)していたお兄の姿は、間違いなくヒーローのソレでちた。尊いとか、尊くないとか、そういうのはいったん、置いておいて、オイちゃんは、お兄のことを、心の底から、最高のヒーローだと思っていまちゅよ」
そんなことを言った。
……
……
……なんか知らんが、涙が出ていた。
あまりにみっともなかったから、俺は顔をそむける。
――ちゃんと見てくれていた。
そう思うと、どうしても、我慢できなかった。
俺は、奥歯をかみしめて、どうにか、無様な涙を押し込めると、
酒神に視線を向けて、
「もらったものを返しただけだよ」
と、厨二くさい感じでそう答える。
もっと、カッコいい言葉で返したかったが、
今の俺には、これが精いっぱい。
ダサい男だ。
話にならない。
俺は、本当にダメな男だ。
――だからこそ、俺は、もっと、頑張ろうと思う。
『尊い』という言葉は、今の俺には、ただの『重たい荷物』でしかない。
けど、いろいろと経験したことで、
『その重たい荷物を背負えるぐらい大きくなりたい』とは思えた。
今の俺は、ただの『性根が腐ったザコのボッチ』だが、
『成長の余地』は無限にある。
これから必死に頑張って、
蝉原を馬車馬(ばしゃうま)のように働かせて、
俺が願う『理想の世界』を実現させようと思う。
すべての戦争を駆逐(くちく)してやる。
すべての絶望をころしてやる。
『善良な人』が幸せになれる世界にしてやる。
すべての悪を一掃(いっそう)した世界にかえてやる。
誰もが『輝く明日』を求めて毎日を幸福に過ごせる。
そんな理想の世界を実現させてやる。
本当に実現できるかどうかは知らん。
重要なのは、やるかどうかだ。
俺は最後の最後まで、あがき続けるぞ。
俺の根性と、あきらめの悪さをナメるなよ。
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