センエース~経験値12000倍のチートを持つ俺が200億年修行した結果~(コミカライズ版の続きはBOOTHにて販売予定)

閃幽零×祝@自作したセンエースの漫画版(12話以降)をBOOTHで販売中

最終回 押し切られるセンエース。


 最終回 押し切られるセンエース。


 この女、ものすげぇグイグイくる……

 『俺のことを勘違いしているヤツ』が『いま以上に増える』のはガチでしんどいので、どうにか、ご勘弁(かんべん)いただけないかと、必死に断(ことわ)っているのだが、
 しかし、アダムは、折れずに、グイグイくる。

 俺たちは、不毛な『会話のラリー』を繰(く)り返した。
 俺が何を言っても、アダムは絶対にひかなかった。
 もう、目が狂気的だった。
 完全にラリっているヤツの目だった。

 『絶対に、俺からは離れない』という強い意志を感じる。

 だから、結局、

「あー……もういいよ……わかったよ……」

 俺の心は折れてしまった。
 これが戦闘だったら、俺は死んでいた。

 シモベにすることを認めたと同時、
 アダムは、目を輝かせて、

「恐悦至極(きょうえつしごく)に存(ぞん)じますぅうう!!」

 と、おでこを地面にめり込まさんばかりの勢いで土下座しながら、
 歓喜(かんき)の声をあげた。

 アダムに続いて、
 マリとアルブムとアポロの三人も、
 俺のことを、尊いとか、すごいとか、
 異常なほど持ち上げてくる。

 何度でも言うけど、お前らを助けたの、俺じゃないから。
 さっきのやべぇ局面(きょくめん)をどうにかしたのは、セイバーだから。
 俺、なんもしてないのに、そんな持ち上げられても、恥ずかしいだけなんだよ。

 と、俺が反抗すると、
 酒神が、

「そのセイバーというのは、お兄(にぃ)の力なんでちゅよね?」

 と、そんなことを言い出した。

 いやぁ……俺の力……じゃない……かな……

 なんて思っていると、
 頭の中にセイバーの声がひびいた。

(俺はお前の力だ。今後、永遠に、俺は、お前の中で、お前の力として存在し続ける)

 マジでか……
 お前、なんで、そんな、かたくなに、力を貸してくれるんだ?

(力を貸しているんじゃない。俺は、お前の力なんだ。たとえば『お前の心臓』は、お前を生かすために頑張って毎日ドクドクしているが、それは、『お前に力を貸している』のとは違うだろ? 自分を生かすためにやっている。俺も同じだ)

 よく分からんけど、
 とにかく、こいつは、一応、俺の力らしい……

 そのむねを、酒神に伝えると、

「じゃあ、お兄が褒(ほ)められるのは、別におかしなことじゃないんじゃないでちゅか?」

 なんてことを言い出した。

 俺が、うーん……と、うなっていると、
 そこで、それまで黙っていた『魔王ユズ』が、

「……セン様。このたびは、あの鬼畜女から助けていただき、本当に感謝いたします」

 などと、感謝の言葉をなげかけてきた。
 もう、その手の言葉はお腹いっぱいだったので、

「もういい! もういいから! お前を助けようとしたんじゃないから! 酒神たちは一応、関係性があるから、普通に助けようとは思っていたけど、お前のことは、ガチの『ついで』だから! だから、ほんと、もういいから!」

 強い剣幕(けんまく)で言ってやると、
 『魔王ユズ』は、

「わ、わかりました……でも、一つだけ。これだけは、どうか、聞き届けていただきたいのです」

 そう言って、片膝をつき、

「あなた様に、この国の王になっていただきたい。私を遥(はる)かに超越(ちょうえつ)した力と、『高潔な魂』を持つあなた様こそ、魔王にふさわしい」

 などと、俺に、面倒事(めんどうごと)を押し付けようとしてきやがった。
 なんでもかんでも、『高潔』って言えばすむと思うなよ。
 てか、そもそも高潔ってなんだよ。
 定義(ていぎ)を教えてくれや。

「王とか、やりたくねぇんだよ。お前がやってろ」

「王にふさわしいのは、間違いなくあなた様のほうで――」

「ふさわしいかどうかの話はしてねぇ。やる気のないヤツにやらせようとすんなと言っている。どんな経緯(けいい)があったにせよ、今のお前は魔王なんだろうが。責任を簡単に放棄(ほうき)しようとするんじゃねぇ」

「……っ」

「お前のことなんざ、よく知らんが……お前が、この国の民を思って、必死に頑張ろうとしていることだけはよくわかった。そういうヤツこそ上に立つべきだというのが俺の考え方。これからも、この国のために、血ヘドを吐(は)きながら頑張れ。それがお前の責任だ。投げ出すな」

「……かしこまりました……あなた様と比べれば、はなはだ役者不足ではございますが……あなた様ほどの方には『もっと大きな仕事』があることでしょうし、私は、この国の魔王として、精一杯、頑張っていこうと思います」

 ……よかった……どうにか、回避(かいひ)することに成功した。
 魔王なんて、ようするに『学級委員長』みたいなもんじゃねぇか。
 そんなダルいこと、やってられるか。

 俺は、最強になるために頑張りたいんだ。
 『他人の世話』なんかしているヒマはねぇんだよ。
 ナメんじゃねぇぞ、ったく。

 なんて思っていると、
 また、アルブムとマリとアダムの3人が、
 俺のことを『真に民のことを考えている、真なる王』などと持ち上げてきた。

 もう、ほんと、勘弁(かんべん)してくれ!

 妄想(もうそう)するのはやめて、ちゃんと生(なま)の俺を見ろ! 
 俺は、存在値2で、性根(しょうね)が腐(くさ)っている、ただのボッチだ!

 『根性(こんじょう)』だけは、それなりに自信があるが、それ以外はなんもない!
 『ちょっと不死身』だから、『肉壁』ぐらいはできるだろうが、
 それ以外は、ガチで何もできないただのカス!

 一ミリも尊くねぇし、
 『高潔な魂』なんてのも持っちゃいねぇ!
 そういう名前のプラチナスペシャルをもっているが、
 あんなもん、ただのエラーだろ、どうせ。


 誤解されるの、マジで辛い。
 誰か、俺の事をちゃんと見てくれ!


 と、俺が、心の中で叫んだ時、
 酒神が、

「……お兄(にぃ)、命がけで助けてくれて、本当に感謝していまちゅ。ヘブンズキャノンも、絶対的主人公補正も失って、それでも、折れることなく、歯をむき出しにして、あのバカ女と対峙(たいじ)していたお兄の姿は、間違いなくヒーローのソレでちた。尊いとか、尊くないとか、そういうのはいったん、置いておいて、オイちゃんは、お兄のことを、心の底から、最高のヒーローだと思っていまちゅよ」

 そんなことを言った。

 ……
 ……

 ……なんか知らんが、涙が出ていた。
 あまりにみっともなかったから、俺は顔をそむける。

 ――ちゃんと見てくれていた。
 そう思うと、どうしても、我慢できなかった。
 俺は、奥歯をかみしめて、どうにか、無様な涙を押し込めると、
 酒神に視線を向けて、

「もらったものを返しただけだよ」

 と、厨二くさい感じでそう答える。
 もっと、カッコいい言葉で返したかったが、
 今の俺には、これが精いっぱい。

 ダサい男だ。
 話にならない。
 俺は、本当にダメな男だ。

 ――だからこそ、俺は、もっと、頑張ろうと思う。
 『尊い』という言葉は、今の俺には、ただの『重たい荷物』でしかない。

 けど、いろいろと経験したことで、
 『その重たい荷物を背負えるぐらい大きくなりたい』とは思えた。

 今の俺は、ただの『性根が腐ったザコのボッチ』だが、
 『成長の余地』は無限にある。

 これから必死に頑張って、
 蝉原を馬車馬(ばしゃうま)のように働かせて、
 俺が願う『理想の世界』を実現させようと思う。



 すべての戦争を駆逐(くちく)してやる。
 すべての絶望をころしてやる。



 『善良な人』が幸せになれる世界にしてやる。
 すべての悪を一掃(いっそう)した世界にかえてやる。

 誰もが『輝く明日』を求めて毎日を幸福に過ごせる。
 そんな理想の世界を実現させてやる。

 本当に実現できるかどうかは知らん。
 重要なのは、やるかどうかだ。

 俺は最後の最後まで、あがき続けるぞ。
 俺の根性と、あきらめの悪さをナメるなよ。


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