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53話 本当の後悔。


 53話 本当の後悔。

 ウムルは、どんどん強化されている。
 ――現時点で、すでに、だいぶ強化されているはずなのに、
 ゼノリカは、まだ、ウムルを殺し続けている。

「さ、30号も殺されたか……いや、すごいな。私を一体殺すだけでも大変だというのに、本当に、よく頑張る」

 本気で感嘆している口調でそういうウムル。
 30号まで殺されるとは本当に思っていなかった。

「――ただ、30号を殺すまでの間に、天下のメンツが数人死んだな。目に見えて消耗しているし、普通に動きが鈍くなってきている」

 ウムルはべらぼうに強い。
 そんな、バカみたいに強いウムルと、
 ずっと、全力の闘いを強いられて、
 疲れないわけがないのである。

 ウムルのような化け物を、30体も倒したのだから、
 当然、全員、疲労困憊で満身創痍。

 天下の面々はとっくに限界を超えている。
 九華の面々も、
 『ガチで命がかかった連戦』での疲労の度合いがえぐいことを、
 ここで、正式に理解した。

 天上の面々は、『10秒ルーム』というイカれたトレーニングルームで地獄の鍛錬を続けてきた。
 正直、10秒ルーム以上の地獄がリアルで起こることは、そうそうないと思っていた。
 P型はエグかったが、ああいう化け物は、出現したとしても『1体だろう』と、どこかで、絶望を甘く見積もっていた。

 ――次の相手である『31号』が軽い準備運動をしているのを尻目に、
 バロールが、ボソっと、

「もっと、10秒ルームで訓練しておけばよかった」

 心底からの後悔を口にした。
 かつて、バロールは、10秒ルームで、『バロールがタイマンでギリギリ倒せるレベルの敵』を連続で19万体ほど倒したところでギブアップし、周囲の家族から、『根性が足りない』とバカにされたことがある。
 P型戦以降、より自分に厳しく訓練を始めたバロールは、
 P型戦以前の記録を大幅に超えて、50万体以上を倒せるようになった。
 ド正面から神の輝きを知って、
 より深く、より強くなろうと、必死にもがいてきたバロール。
 常人の目からすれば、
 完全にサイコパスとしか思えないほど、
 狂気的な研鑽を積んできたバロール。

 けれど、今、そんなバロールが思っていることは、

「足りなかった……全部……もっとやっておけばよかった……」

 後悔。
 自分が許せないという怒り。

 それが、バロールだけの感情ではなく、
 ほかの面々も同様のことを思っている。

 100万体のウムルという、ふざけた敵を前にしたことで、
 ゼノリカの面々は、絶望を『ナメていた』ということに気づく。

 ――『誰よりも努力に努力を重ねた者』しかゼノリカには所属できない。
 百済や楽連や九華という組織に属する者は、
 常人の視点だと、イカれた努力家連中。

 ――けど、『その程度』では足りなかった。
 本当の絶望を対処しようと思えば、
 もっと、もっと、もっと、必要だった。

 本気で絶望を殺したいのであれば、
 具体的にいうと、
 センエースぐらい、頑張る必要があった。


 ――31号が、全身に魔力とオーラを充満させながら、

「嘆いているヒマがあるなら、もっと、私を殺すことに没頭したらどうだ? 貴様ら、まだ、私を30体しか倒していないのだぞ。あと、残り『999970』体以上残っているんだぞ。確かに、30体殺したのはすごいんだが……もし『殺しきること』が目標だとしたら、没頭の度合いが足りないんじゃないか?」


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