センエース~経験値12000倍のチートを持つ俺が200億年修行した結果~(コミカライズ版の続きはBOOTHにて販売予定)
・番外編 特別読み切り「正月プレイ」
特別読み切り「正月プレイ」
「思うんだが、シューリよ……お前は、最初に出会った頃が、一番、俺に対して敬意を表していて、それ以降は、徐々に、徐々に、俺のことを嫌いになっていっているよな?」
「な、な、な、なにをばかな! いったい、なにを根拠に、そんな、ば、ば、ばかなことを!!」
「……その120%の動揺が、何よりの証拠なんだが、それ以外にも、裁判所に現物として提出できる証拠は山のようにあるぞ」
和やかに会話をしているセンとシューリ。
ちなみに、今は神界深層の年始。
一年の始まりを一緒に祝うのが恒例になって、はや数百年。
基本的に、誕生日などの記念日は一緒になって祝うのが通例。
ただ、一日中、一緒にいるというわけではなく、
前回のクリスマスなどは、
前半はシューリと殺し合う半日を過ごし、
その後の半日をシューリと過ごした。
「一番最初に会ったころは、まだ、俺に対する態度が普通というか、ましな部類だった。けど、時間がたつにつれて、どんどんひどくなって、アポロギスを倒して以降ぐらいから、その流れが凶悪に加速した。そして、ゼノリカを頼んだぐらいから、もう、お前と俺の関係は終わったと言ってもいいぐらい悪化した」
センエースは事実を並べつつ、
おせち料理にはしを伸ばした。
ちなみに、このおせち料理は、
センとシューリが一緒になってつくったもの。
「正直、俺は、お前と関係改善を望んでいる。お前は俺の大事な師匠。できれば、仲良くやっていきたい。というわけで、俺に不満があるなら、遠慮せずに言ってほしい。改善できる部分があるなら、前向きに善処していく所存だ」
場所は、センが『シューリと過ごすためだけに創造した世界』の中心に建てられている一軒家。
一応、豪邸に分類されるが、
派手さはなく、
落ち着いた雰囲気の日本家屋。
畳が敷き詰められた居間のど真ん中。
堀りゴタツでぬくぬくしながら、
並んで、おせちに舌鼓。
「不満点なんか挙げだしたら、言い終わるまでに、200億ぐらいかかりまちゅ。なんで、オイちゃんが、お兄ごときに、そんなにも膨大な時間をかけなければいけないんでちゅか。いい加減にしてくだちゃい」
綺麗なハシ使いで、数の子をヒョイとつまむと、
当たり前のように、それを、センの口元にもっていく。
センも、また、当然のように、
アーンをうけいれ、
もぐもぐしてから、
「あのさぁ……これまで、何万回も言ってきたし、これからも、きっと、何億回と言っていくんだろうけど……俺、なんで、お前にそんなに嫌われてんの? 俺、けっこう、がんばったよ? どのぐらい頑張ったかというと、世界最強のラスボスであるアポロギスを倒したぐらい頑張ったよ? 普通は、『素敵、抱いて』のモードに突入するのが普通じゃないかね?」
「たかが、世界最強のラスボスを倒した程度で、世界一の究極超美少女であるオイちゃんに、アーンしてもらえると思うだなんて、夢を見るにもほどがありまちゅ」
「……」
シューリの言葉に対し、
センは、一瞬だけ何か言いたそうな顔をしたが、
しかし、ここはグっとこらえて、
「めちゃくちゃでかい豪褒美をよこせとは言わんけどさぁ……せめて、誘った時に、快く了承くらいしてもらいたいんだが? 毎回、毎回、何度も何度も断りやがって。鬱陶しくてしゃーねぇんだよ」
記念日、誕生日、正月、クリスマス、
などなど、そういう節目のたびに、
センは、シューリを誘っているわけだが、
シューリは、毎回、必ず断ってくる。
『なんで、オイちゃんほどの女神が、お兄みたいなチン○スのなりそこないと時間を過ごさないといけないんでちゅか。オイちゃんの中枢で、虫唾がパラパラを踊っていまちゅよ』
毎度、毎度、ものすごい勢いで断られるのだが、
しかし、それで折れて誘わなくなると、
おそろしいほど不機嫌になるので、
あきらめずに誘い続けなければいけない。
正直、センは『め、めんどくせぇ』と、
心底から思っているのだが、
惚れた弱みというのはあまりにも重たい十字架で、
センは、毎回、毎回、
平均5~6回ほど断られながら、
シューリと記念日を過ごしている。
「最終的には、一緒に過ごしてあげているんだから、文句をいわれる筋合いはありまちぇん。――それ、食べたいでちゅ」
そう言いながら、シューリは、黒豆を指さした。
センは、綺麗なハシ使いで、ヒョイっとつまんで、
シューリの口元にもっていく。
――そんなこんなで甘々な食事を終えると、
二人は、隣の部屋にうつる。
そこは、ふかふかのソファーが設置された洋室で、
最初にシューリがソファーに腰を掛けた
ポンポンと、シューリが、自分のふとももを叩いたのを確認してから、センは、シューリのふとももをまくらにしてゴロンと横になる。
シューリは、流れのまま、センの頭をなでながら、
「お兄の髪の毛、ガサガサで、キモいでちゅ。剃り上げてツルツルにしてもいいでちゅか?」
「あかんに決まっとるだろうが。スキンヘッドを悪いとは思っていないが、自分がなりたいとは一ミリも思っとらん」
「ちなみに、オイちゃんの髪は、こんなにサラサラでちゅよ」
と言いながら、シューリは、
ニュニュニュっと、髪の毛を、かなりのロング状態にまで伸ばす。
いつもは、肩までの長さだが、
今のシューリの髪は2メートルを超えている。
<i61200028835>
センは、その長い髪を撫でながら、
「おお……いつも思うけど、お前の髪、ほんとえぐいな……幼児の髪よりフワフワ、サラサラ……」
つやつやで、つるつるで、きめ細かく、
極上の輝きを放っているシューリのロングヘア。
「汚い手で、オイちゃんの髪に触らないでくだちゃい」
などと言いながら、
シューリは、毛先をつまんで、
センの顔で書初(かきぞ)めをはじめる。
サラサラァっと、5秒ほど習字にいそしんでから、
「さて、オイちゃんは、今、お兄の顔に、何と書いたでちょう! シンキングタイム!」
「今の感覚的に……おそらく、『愛してる』だな」
「ぶぶー。正解は、『ヘドで溺れそう』でちたぁ」
「人の顔面に、そんな辛タンすぎること、書かんでくれる?」
などと、
一通り、食後のまったりを終えてから、
「さて、と……ここらで、一ゲームいきまちょう」
と、シューリから勝負の提案が入った。
「勝ったら、相手に、好きなことを命令できるという条件でどうでちゅか? え、破格の条件すぎて泣きそう? まったく、お兄は、相変わらず、オイちゃんのこと、好きすぎるんだからぁ」
「なんも言っとらんがな、なんも言っとらんがな」
大事なことなので、二回言ってから、
「で? なんのゲームするんだ? まさか、無限将棋とか言わんだろうな。言っておくけど、俺、あれ、死ぬほど苦手だから、絶対にやらんぞ。決着つけようと思ったら年単位かかるし」
「オイちゃんがガチれば、秒で決着がつきまちゅよ。というか、このオイちゃんともあろうものが、お兄ごときと、『頭を使うテーブルゲーム』で遊ぶわけないじゃないでちゅか。オイちゃんは、幼卒相手に知的遊戯で勝負を挑むほど底意地悪くありまちぇん」
「お前の底意地は最悪だし、なにより、俺は幼卒じゃなく、中卒だ! もっといえば、高校中退だ! ここはかなり大事なところだから、絶対に忘れるな!」
「オイちゃんが、お兄のプロフィールを忘れることなんてありまちぇんよ! 身長体重略歴はもちろん、女の好みや、好きなカレーの味まで、ちゃんと完璧に把握していまちゅ!」
「全部わかった上で、俺を幼卒扱いしやがったのか! 本当に、どんだけ底意地わるいんだ、お前は!」
また、ダラダラとイチャついてから、
――シューリは、パチンと指を鳴らして、
その美しい手の中に、
『Tアイデンティティ(トランプ)』を召喚する。
「インディアンポーカーで勝負でちゅ」
そう言いながら、華麗にシャッフルして、
一枚選ぶと、センにだけ数字が見えるよう額に押し当てて、
Tアイデンティティを、センに渡す。
「無難なところだな」
そう言いながら、センは、
シューリから受け取ったTアイデンティティをシャッフルして、
一枚選んでから、シューリにだけ見えるよう額にカードをあてる。
センのカードの数字を見たシューリは、
「ああ、終わってまちゅねぇ。お兄は、ほんとに、運が悪いでちゅ」
「よく、その程度の知識で俺の師匠を語れるな。俺の運はよくも悪くもない。ここは、センエース検定の頻出問題だから忘れずに覚えておくように」
「オイちゃんと比べたら相対的に運が悪いと言わざるをえまちぇん」
「それ言い出したら、全員そうだけどな」
そういいながら、たがいにコール。
降りる理由がないので、サクっとゲームを進めていく。
結果は、エースと2で、シューリの勝ちだった。
「……あれ? もしかして、ラッキー・ニルヴァーナが発動してる? あ、お前、さては、Tアイデンティティをゴスペル化させてるな?」
「いや、普通に勝っただけでちゅよ。純粋にオイちゃんが勝って、お兄が負けた。そんだけでちゅ」
「そんなまっすぐな顔で言われたら、なんも言えんがな……」
「というわけで、罰ゲェェム! 闇の罰ゲェエム!」
「闇の罰ゲームは許容してねぇ。『普通に、やらされたらイヤなこと』ぐらいで勘弁してくれ」
「それでは、オイちゃんの足を舐めなちゃい」
そう言いながら、自分の太ももをトントンと叩くシューリ。
「……えぇ……」
と、しんどそうな顔をするセンに、
「まさか、神の王ともあろう男が、約束をたがえるわけじゃないでちゅよね。安価は絶対という、この世のコトワリに反してはいけまちぇん」
「安価スレこそ、闇のゲームだと思う」
などと、どうでもいい言葉を口にしてから、
センは、
「まあ、負けたしな」
「そう、負けまちたからね」
「じゃあ、しゃーねぇわな。敗北したのが事実である以上、俺も神として、腹をくくろう。神が約束を破るわけにはいかないからな。まったく、こんなゲームを受けるんじゃなかった。あー、あー、やれやれ、まったく」
と、丁寧に根気強い言い訳を口を並べ散らかしてから、
センは、シューリのふとももに、優しく口をつけた。
さすがに舐める勇気はなかったので、
そこまでの行為にとどめた。
鉄火場では勇気の化身になる男だが、
こういう場での彼はマスターチキン。
シューリは、じれったそうな顔をしているが、
これ以上の踏み込みができるようなら、
この二人はとっくに結婚している。
いまだ、『熟年夫婦以上、恋人未満』という、
謎の関係性を続けているこの二人に、
これ以上の展開などない。
これ以上の展開はない、と分かっているのだが、
しかし、そのことに対して怒りを覚えるよりも強く、
シューリは、ゾクゾクしていた。
神の王が、自分の体に口づけしている姿を見て、
シューリの中で、快楽物質が乱れ飛ぶ。
全身の全てが沸騰しているよう。
プラスの意味の鳥肌が全身に沸き立つ。
そんな彼女の交感神経の高まりを、
モロに触覚で感じ取ったセンは、
「こんなに鳥肌が立つほど嫌なら、無理して、足なめろとか言ってくるんじゃねぇ」
「オイちゃんは自分に厳しい探究者タイプなので、この状況になっても、もういっちょをぶち込んでいくんでちゅよ。というわけで、今度は、おいちゃんの鳥肌をなめなちゃい」
「ええかげんにせぇ」
と言いながら、センは、シューリの足に軽めのビンタをいれる。
決して痛みは出ないように調整しつつ。
なんだかんだ、センは、シューリのことが大好きなので、
決して『攻撃』は出来ない。
『本気の殺し合いをした場合にどっちが勝つか』という問いがあったさい、センがシューリに勝てる理由は一つもない。
なぜならば、どれだけの理由をつまれても、
センは、シューリに攻撃できないから。
『惚れた方が負け』を地でいくスタイル。
ただ、これは、逆も言えるため、
この戦闘に決着がつくことはない。
「さて、じゃあ次だ。もう一勝負。勝ち逃げは許さねぇ」
そう言いながら、Tアイデンティティをシャッフルする。
消化不良が表情に滲みでているシューリは、
当然、その勝負を受けた。
次の勝負では、
エースとクイーンで、センが勝利。
「はい、勝ちぃ! はっはぁ! どんなもんじゃい、ぼけぇ!」
「まあ、お兄の運は、良くも悪くもありまちぇんからねぇ。負けたあとは勝つという、極めて自然で平凡な収束が起きたって感じでちゅねぇ。ま、ようするに、面白みのない凡夫である、という、それだけの話」
「……どんな状況であれ、絶対に悪態を崩さない徹底ぶり。お前は、ほんとうに、アレだな。俺を不快にさせる天才であり、かつ、俺を不快にさせるためならどんな手間暇も惜しまない努力家だな。ほんと、毎回、聞いているけど、お前、なんで、そんなに俺のこと嫌いなん? 俺、お前に、結構、尽くしてきたよ? 日常生活においてもそうだけし、極限状態でも、お前のためにアポロギスを倒したりとかさぁ。こんだけ頑張ってくれている男なんざ、そうそういないよ? もっと大事にした方がいいと思うよ? その辺、どう思う? ん?」
「え? 今、なんて言ったんでちゅか? ちょっとボーっとしてて聞いていまちぇんでした。もう一回最初から、言ってもらっていいでちゅか?」
「……もういい……」
心底しんどそうな顔でためいきをつくセン。
そんなセンに、シューリは、追撃していく。
「最初に出会った頃が、一番、お兄に対して敬意を表していて、それ以降は、徐々に、徐々に、オイちゃんが、お兄のことを嫌いになっていっているのではないか、という疑問を投げかけられたことまでは覚えているんでちゅけど……」
「え、そんな序盤から話、聞いてなかったの? しっかり会話できていると思っていたけど、俺の気のせいだった感じ? 食事したり、顔に髪で落書きされたり、罰ゲームありで闇のゲームをしたり、色々あったけど、その間ずっと、ボーっとして、無意識のうちに対応していたの? もはや、逆に凄くて感心するよ」
そんなセンの文句をシカトして、
シューリは、満面の笑みで、
「大正解! オイちゃんは、お兄のことを、年々嫌いになっていまちゅ!」
「……ああ、そうすか。もう、どんだけ嫌いになってくれてもいいから、会話の流れだけは、常識的な範囲に収めてくれない?」
「で、インディアンポーカーに勝利したお兄は、オイちゃんに、どんないやらしい命令をする気でちゅか?」
「……ほんと、こいつと会話するのつかれる……」
と、本音をこぼしてから、
センは、
「お前には、これまで、散々屈辱を味わわされてきた。よって、お前には、屈辱をあたえる」
「ほう……いったい、オイちゃんに、どんなことをやらせる気でちゅか? ま、まさか、結婚しろとか言うつもりじゃないでちょうね! こ、この鬼畜! 外道! 人殺し! 邪神! 変態! 下劣! 閃太陽の息子!」
「……『閃太陽の息子』って重荷は、鬼畜や人殺しって侮蔑に匹敵するレッテルなのか……俺、生まれた時から背負っているハンデが酷すぎん?」
ため息交じりにそう言ってから、
「こんなショボいゲームで勝ったぐらいで、そこまで大それたことを望むほど、俺の常識的思考はバグってねぇ」
「ふむ。じゃあ、オイちゃんに何を望むんでちゅか?」
そこで、センは、創造系の魔法で『耳かき』をつくると、
「耳掃除してくれ。たまに、フッってやるのも忘れるな。それが醍醐味だからな」
「なんで、おいちゃんが、お兄の汚い耳を掃除しないといけないんでちゅか」
「勝負に負けたから」
「はぁあああああああああ」
と、全身全霊で『落胆』を表現するものの、
しかし、シューリは、
「仕方ないでちゅねぇ。敗北したのが事実である以上、オイちゃんもも女神として、腹をくくりまちゅ。女神が約束をやぶるわけにはいきまちぇんからね。まったく、こんなゲームを受けるんじゃありまちぇんでちた。あー、あー、やれやれ、まったくぅ」
お似合いのメンドくささを爆発させながら、
センの耳かきを開始した。
神の肉体なので、別に、耳の中が汚れていることはない。
だから、これは、掃除というよりは、ただの愛撫。
つまりは、ただの確認作業。
「きもちいいちゅか?」
「うん」
ただただ優しいだけの、穏やかな時間が流れていく。
コショコショと、耳の中を撫でられて、
センの脳内麻薬が暴走する。
ただ幸せなだけの時間を過ごしているセン。
深い幸せをかみしめながら、センは、
「シューリ、これまでずっとありがとう。今年もよろしく」
心から思ったことを口にした。
そのまっすぐな想いに対し、
シューリは、
一度、ニコっと、天使の笑みを浮かべてから、
「イヤでちゅ」
軽快に、そう答えた。
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