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80話 死を超越した苦痛。

 80話 死を超越した苦痛。


「目を覚ませ。まだ生きろ」

 その命令に、『紅院の魂』は忠実に従う。

「がはっ! ごほっ! ぅぅう……ぁあああ……痛いぃ……痛いぃいいいいっ!!」

 目を覚ました紅院は、
 全身を駆け巡る凶悪な激痛の中でもだえ苦しむ。

「鎮痛に関わる脳内麻薬(セロトニンとノルアドレナリン)をシャットアウトさせてもらった。貴様は、いま、死を超越した苦痛の中にいる」

「痛いぃいい! た、助けて! 誰か!! お願い!!」

 半狂乱で、反射的に、『誰かの救い』を求める紅院。
 そんな彼女に、
 ツァールは、

「救いなど求めても無駄だ。この空間は、完全に、私の支配下にある。誰も介入することは出来ない。貴様は、私が飽きるまで、ここで壊され続ける」

「ぅうう、ああああああっ!!」

 紅院は、痛みから解放されようと、
 自分で舌を噛み切った。

 しかし、

「――神の慈悲――」

 ツァールが、パチンと指を鳴らすと、
 かみちぎった舌だけもとに戻る。

「私の前で簡単に死ねるとでも? 認識が、まだまだ甘いな」

「……たす……けて……殺して……」

 極端な激痛の中で、
 紅院は、死に救いを求めた。
 けれど、それすら許されない。

 ツァールは嗜虐的な笑みを浮かべて、

「まだだ、まだ足りない。貴様には『本物の絶望』を教えてやる。貴様が『命の全て』を憎悪し、魂の全てが漆黒に飲み込まれるまで、私の暇つぶしは終わらない」

 そう言いながら、
 ツァールは、左手を、紅院に向けて、

「――『神のイタズラ』――」

 ふざけた魔法を使う。
 命をオモチャに出来る魔法。

 その結果、

「……ぅ、ぁあ、ああアアッ!」

 体がドロドロに腐っていく。
 全身を虫が這いまわっていく。

「アアアアアアアッッ!」

「贅沢だな、紅院美麗。貴様は、今、命の闇を、魂の絶望を、一身に背負っている」

「ガアアアッ! ゲアアッ! ギギギャァッ!」

「一つ、面白い伝説を教えてやろう。どうやら、別次元のどこかには、『今貴様が背負っている絶望』以上の『地獄』を『自ら背負う』と決めて戦い続け、『存在値1000×1万体』という膨大な質量の『不具合(バグ)』を処理してみせた神がいるそうだ。にわかには信じがたいが、『虚空の神』が嘘をつくとは思えないから、まあ真実なのだろう」

「ギギギッ……ゲゲ……ゲゲゲゲッ」

「命を壊す薬で自己を失い、しかし、それでも、運命を調律するため、最後の最後まで狂い続けた閃光。一度でいいから、会ってみたいものだ。おそらく、私の主である『虚空の神』とも渡り合えるアウターゴッドなのだろう」

「ギゲ……ギギギ……タスケテ……」

「かの閃光は、他者に助けを求めることなどなく、最後の最後まで、自分と向き合い続けたという。貴様も、その境地に届いてみないか? それだけの偉業を成してみれば、もしかしたら、人の身でも、アウターゴッドに昇華するという可能性も…………まあ、ないか。さすがに、それは無理だな。人がアウターゴッドになるのは流石に不可能」

「タス……ケテ……」

「……やれやれ。救いをもとめるばかりか。ほんのわずかな『命の気概』すら見せられないとは、情けない」

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