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32話 侵略戦争。

 32話 侵略戦争。

(数日前から各地で起こっている『奇妙な出来事』の『規模』と『程度』から鑑みるに……おそらく、転移したのは、この二人だけではない。数十人……あるいは、数百人という組織単位の異世界転移が行われたとみるのが妥当)

 庶民レベルでは、まだ、
 『違和感』程度にしか浸透していないが、
 五大家の情報網には、
 『各地で起きている異常』が、
 すでに、『明らかな不可思議』として取り上げられている。

 どのエリアも、全貌はまったく把握していないが、
 しかし、『何かが起きている』という事は察知している。

 ・行方不明になった複数人の要人。
 ・急激に上昇した景気。
 ・妙に高性能な身元不明者の台頭。
 ・荒らされている各地の遺跡や未開拓エリア。
 ・激減している一日の傷害系犯罪数。
 ・反比例して増加した大量の窃盗事件。

 ほかにも、無数に、
 『奇妙な出来事』が、
 『ここ数日の間』に、
 各所で確認されている。

(数百人単位の強大な力を持つ組織。それだけの組織が『今まで、バレることなく、裏に隠れていた』とは到底思えない……思えないというか、不可能。そんな荒唐無稽を念頭に物事を考えるよりも、むしろ、異世界から、『巨大組織』が転移してきた、と考えた方が、まだ、合理的と言える)

 そこで、ルルは、かつて読んだ『とある小説』のことを思い出す。

 『集団転移』を題材としているパニックホラー。
 『ゼノリカ』という超巨大組織が、
 この世界に転移してきて、
 全エリアに対して侵略戦争をしかけるというトンデモ小説。

 半年ほど前に、全宮学園の禁書庫で見つけた作品。
 非常に面白い内容だったため、
 今でも鮮明に覚えている。

 強大な力を持った三人の帝。
 そんな帝を支える五人の王。
 そして、忠実なる九つの華。

 優秀な支配者の下には、
 優秀な配下が集まる。

 『絶対の力を持った十七の神々』に付き従うのは、
 『数千という規模』の『怠け方を忘れたウサギ』たち。
 そのウサギたちの一人一人が、
 『五大家の血族に匹敵する超人』だというふざけた悪夢。

(ゼノリカほどメチャクチャな組織ではないだろうけれど……この二人の背後にある組織は、きっと強大。この世界に転移してきたのは、おそらく、数日前。……『現状』は、おおかた、各地に斥侯を送って内情を調査中ってところ……)

 あくまでも推測。
 その推測を裏付ける証拠は、さほどない。

 けれど、ルルは、自分の推測を前提として、
 思考を前に進めていく。

(この二人の裏にある組織が、もし、私の推測に近い規模だったとしたら……そう遠くない将来、この世界は、苦渋の選択を強いられる……)

 『侵略戦争』という言葉が頭をよぎった。

 これまでのような『生贄を選定する戦争ごっこ』ではなく、
 本物の『血で血を洗う地獄』を迎える可能性。

(もし、件(くだん)の組織が、ゼノリカのように『異世界侵略の経験者』だとしたら、『本物の戦争経験』に乏しい『この世界』は、間違いなく悲惨な目にあう。……もし、世界侵略の初手に『エリアBの掌握』が選ばれてしまえば、どうにか凌げたとしても、壊滅寸前まで追い込まれることは間違いない)

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