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91話 ゴキのヤマト。

 91話 ゴキのヤマト。

(すべての予定が狂った……ここから先は繊細にコトを運ばないと……)

 今後の予定について、ロコが修正案を頭の中で並べていく。
 そんな中、市街地を抜け、
 山道に入ったところで、


「――ん?」


 最初にロコが異変を感じ取った。


 続いて、ソウルさん、ヒジカ、オキの三名も気づく。
 ゲンは、異変に気付かなかったが、周囲のピリつきで、
 『これから何かが起こる』と理解した。

 ――その直後、
 車の前に、一人の『少年』が現れて、
 登場と同時、一瞬たりとも迷わず、
 車にむけて、拳を突き出した。

 凄まじい速度のおそろしく強力な一撃。
 超一流の達人じゃないと見逃しちゃうね――
 と、スマートな感想を頭に抱くよりもはやく、
 ソウルさんが、ロコとゲンを両脇に抱え、車の外へと飛び出す。
 コンマ数秒遅れて、ヒジカとオキも車から脱出。


 ドガァァッッ!!


 という豪快な爆発音が響く。
 大破した車――それを成した『少年』に意識を向けるロコ。

(……『あいつ』は……)

 知っている顔だった。
 両の手足がヒョロ長い、12~3歳くらいに見える非常に端正な顔つきの若い少年。
 切れ長の目で、病的に肌が白い。
 穏やかだが、しかし、隠しきれていない狂気がにじむ。

 その少年――
 裏の世界では、かなりの有名人。

(ゴキの……『ヤマト』……)

 車を破壊したヤマトは、
 ゆらり、ゆらりと、独特な歩幅で歩きながら、
 ロコたちに近づいてきつつ、


「……道を聞きたいんですけどぉ、よろしいですかぁ?」


 独特のテンポのしゃべり方で、そんなことを言った。
 その表情は、どこか虚ろで、
 どこを見ているかわからないラリった目をしている。

 異常な雰囲気。
 常人ではないと一目でわかる。

「あ、申し遅れました、私……えっとぉ……どうしようかな……じゃあ……『悪男(あくお)』と申すことにしまぁす。決して、ゴキのヤマトではありませんので、お間違いなきよう」

 ふざけた自己紹介を受けたロコは、
 魔力を高めつつ、

「あんたの名前なんてどうでもいい。……で、なんの用? なぜ、私を襲う? ……別に聞かなくてもわかるけど、一応、礼儀として、聞いておいてあげる」

「私は道を尋ねたいだけですよ、どこの誰だかわからないお嬢さぁん。決して、全宮アギト様から全宮ロコ様の抹殺依頼を受けた――などということはありませんので、お間違えなきよう」

「……」

 面倒くさそうな顔をするロコ。
 心の中で、

(完全に見誤ったわね……まさか、ゴキを使うほどキレるなんて……)

 ゴキは、最高クラスの戦力を誇っているが、
 ヤマトのような変人ばかりなので、非常に扱いづらい。

 全宮家の人間は、めったなことがない限り、ゴキを動かさない。

(ゴキを使うことさえいとわないほどの殺意……ソレほどの覚悟を、ゲンはアギトに抱かせた……)

 そこで、ロコは、ゲンをチラっと見る。

(あの慎重なアギトにゴキを使わせるほどの情動を抱かせた可能性……)

 想像以上に、ゲンの未来には可能性があった。

 ロコはバカではない。
 ちゃんと、『色々、諸々』を考えて、
 アギトを挑発していた。

 もちろん、ギリギリの瀬戸際交渉だった。
 ライン際ギリギリのスーパーインをせめていた。

 ラインを乗り越えるつもりはなかった。
 まだロコには力が足りない。
 革命の日はまだ遠い。

 今は『頭がおかしい妹』のポジションを保つべきだった。
 しかし、ゲンが想像以上だったせいで、すべてが狂った。

 ――結果、『最悪』に命を狙われることになった。

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