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90話 フラグON。

 90話 フラグON。

 家族会議が終了し、
 場所を移しての『それなりの規模の立食パーティー』が開かれた。
 非常にゴージャスな料理や酒の数々が並ぶ。
 しかし、当然、食事を楽しめる者は少なかった。

 ギスギスした空気が払拭されることはなく、盛り上がりにかけるまま、
 パーティーもお開きになった深夜、

 ――帰りの車の中で、

「ロコ様……大丈夫ですか?」

 もろもろに対して心配しているソウルさんに、
 ロコは、

「あまり大丈夫ではないわね」

 ガッツリと疲れの見える顔でそう言った。
 パーティーの時までは、いつもの『不敵な笑み』を浮かべていたが、
 この車に乗り込んで以降は、げっそりとした顔で天井を見つめているばかり。

「あまりにも想定外なことが起こりすぎたわ……」

 そう言いながら、チラッと、隣に座っているゲンに視線を向ける。

(……『コレ(ゲン)』の可能性を甘くみていた……あのバカ兄に、正面から『本気の殺意』を抱かせるほどの狂った資質……)

 アギトを『怒らせること』は予定通りだった。
 『過剰にイカれた妹』を『演じ』て、家族会議の場をかき乱す。
 そこまでは想定通り。

 あくまでも『将来起こす予定の革命』の『布石の一つ』として、
 『全宮ロコ』の異常性を家族に見せつけておくこと。
 そこに『実質的な意味』はなかったが、『ロコなりの意義』はあった。

 あえていうなら『宣戦布告の前フリ』ともいうべき行動。
 前フリに興じた理由は、実戦的な理由ではなく、なんというか、
 『ガキらしいちょっとした意地』であったり『抜けきれない精神的潔癖さ』であったり諸々。

(予定よりも随分と早く……『アギトの殺意』が許容量を超えてしまった……)

 一言で言えば、ヘイトコントロールをミスった。
 ゲンというイレギュラーのせいで、
 『ワナや爆弾を設置する前』に『討伐対象』が『怒り状態』になってしまった。

 正直、心の中では焦っていた。
 しかし、引くことはできなかった。

 全宮ロコは、クールに狂っていなければいけない。
 『イカれたところ』はいくら見せてもいいが『みっともないところ』だけは死んでも見せてはいけない。
 『とことん壊れたキ〇ガイ女』であり続けなければ、
 『革命の象徴』たりえない。

 つまりは、実のところ、
 きわめて政治的な境界線上で、
 ロコはあえいでいた。

 と、そこで、ソウルさんが、

「ロコ様。今日は、その……なぜ……あのような無茶を」

 含みのある質問をした。
 ソウルさんは、ロコの目的を理解しているわけではない。
 しかし、何も考えずに生きているバカではないので『ロコが何をしたがっているのか』を『ほんの少しだけ想像すること』くらいはできる。

 ゆえに、感じた違和感。
 今日のロコが『普段ならば超えない壁』を超えたことに対する不協和音。

 ロコは、ソウルさんの質問に対し、
 『テメェの息子のせいだろ』という言葉を飲み込みながら、
 数秒だけ悩んでから、

「気に入らないから……全部ね」

 窓の外を流れていく夜景を見ながら、
 けだるげに、そうつぶやいた。
 ロコの言葉は、ソウルさんが望んでいる回答ではなかった。
 だが、つきつめていけば、結局、そこにいきつく。

(すべての予定が狂った……ここから先は繊細にコトを運ばないと……慎重派のアギトのことだから、さすがに『今すぐ暗殺者を送り込んでくるような短絡的な真似』はしないと思うけど、近日中に、なんらかのアクションは起こしてくると思うから……まずは……)

 アギトの思考を計算しつつ、今後の予定について、修正案を頭の中で並べていく。
 そんな中、市街地を抜け、
 山道に入ったところで、


「――ん?」


 最初にロコが異変を感じ取った。

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