センエース~経験値12000倍のチートを持つ俺が200億年修行した結果~(コミカライズ版の続きはBOOTHにて販売予定)

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78話 2兆円。

 78話 2兆円。

「おやおや、全宮の次期当主ともあろう御方が、こんな小さな子供が怖いのですか?」

 けらけらと笑いながらそう言う。
 止まらない挑発。
 突き進み続ける嘲笑。

(ああ、このガキはダメだ……止まらない……誰もブレーキにはなれない……)

 理解すると、
 脳の奥が沸騰した。

 もう我慢の時間は終了。
 さすがにもう無理。

「……無意味な挑発でからかってくるのはやめろ! なんなんだ、貴様は! 本当にイライラするぅうう! もういい! わかった! 勝手に死ねぇ! このガキに降参を叫ばせて、自殺させてやる!!」

 そう叫ぶと、
 アギトは、拳にオーラを詰め込んで、

「うらぁあッッ!!!」

 ゲンの顔面に向かって、その拳をつきだした。

 避けるヒマなどなかった。
 ゲンの反応速度を大幅に超える速度。

「ぷげへっ!!」

 ガツンと顔面が歪んだ。
 脳天に響く痛み。

 吹っ飛ぶゲン。
 異空間の壁に激突して吐血。

 しかし、アギトは手を止めない。
 そのまま、壁にたたきつけるように、
 拳を何度も押し付ける。

「ぎゃぁああ! ぐぁああああ!」

 死にかけるたびに回復。
 高位の回復で、ゲンに気絶する余地すら与えない。

 ダギー以上の、完璧な手加減で、
 ゲンに、痛みをあたえ続ける。

 その途中で、



「――ゲン・フォース。貴様はバカじゃないっ!!」



 アギトは、殴る手を休め、

「だから、理解できるはずだ! 私の強さ、その深さが! ダギーすら比較にならない命の頂点! 完成された武力の最果て!! これが、次期全宮家当主の力だ!!」

 まっすぐに、ゲンの目を見て、

「貴様にチャンスをくれてやる。貴様の人生において、これ以上ない最大のチャンスだ。――お前の人生は、今日、大きく変わる」

「……げほっ……」

 血を吐きながら、ゲンは、アギトの目をじっと見る。
 アギトは、たんたんと、



「――『2兆円』くれてやる。おまえに。お前だけに」



 ぶっちぎった覚悟。
 というより、怒りによる暴挙。
 2兆というその振り切った数字は『絶対にへし折ってやる』という底意地の表明。

 アギトは、自身の熱に突き動かされて、

「今すぐに一括で払うことはできないが、貴様には、必ず、2兆という超々々々大金をくれてやる。これは、駆け引きでもハッタリでもない。必ず払ってやる。私の名にかけて、必ず!!」

 今は無理でも、当主になれば、それだけの金を動かすことも不可能ではない。
 とはいえ、2兆ともなれば、さすがに、ポンとだせる額ではない。
 ギリギリの『全』投資。
 瀬戸際。
 嘘偽りない『全て』を賭す覚悟。

 この『投資』の根底は、怒りによる暴挙。
 しかし、同時に、やはり、アギトの覚悟の表明でもある。

 『この光景』を、
 異空間の外にいる『家族』たちは、
 黙ってみていた。

 誰もが押し黙って、趨勢を見守っている。
 ソレは、アギトの覚悟に対する理解を示す静寂。
 そして全宮ロコが刻んだ『異質な恐怖』からの沈黙。

 『金を稼ぐだけ』なら商人でもできる。
 稼いだ金を世界のためにどう使うのか――そこが『王の資質』の見せどころ。

 アギトは『王』として、
 ここで『振り切った大金』という核を落とす決断を下した。

 その決断を、
 家族は、黙認した。

「2兆円。その価値が、その現実の重さが、お前にはわかるはずだ。お前はバカなガキではない。お前は非常に聡明で理知的。私はお前を評価する。だからお前に益を与える。金だけではない。地位もあたえる。お前は全てを手に入れる」

 と、そこで、ロコが、



「非常に素晴らしい提案だわ。自殺するのはやめるから、ゲン、降参しなさい。そして、2兆円と地位を、ありがたくもらっておきなさい」



 ニッコニコ笑いながらそう言った。


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