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74話 判断ミス。

 74話 判断ミス。


「この賭けにおいて、こっちの負けはありえないんだよぉおおお! 『私の剣』が『ガキ』相手に降参などしていいわけがない! 貴様なら、そんなことはわかっているはずだ! なぜ、降参した。答えろ、我が剣、ダギー・ランソルット!!」


 鬼の形相でつめよってくるアギトに、
 ダギーは、
 ひどく淡々とした口調で、


「武を交わし合ったことで、アレは『何をしても折れない』と理解できたからです」


 まっすぐに、わずかもヨレることなく、
 芯のある言葉を並べていく。

「どれだけ痛めつけようと、どれだけの時間をかけようと、アレが降参を口にすることはないでしょう」

 そこで、ダギーは、アギトの目をジッとみつめ、

「おそれながら申し上げます。アレの提案を受けたことが『判断ミスだった』と言わざるをえません」

「……まさか、貴様……『ダギー・ランソルットが降参した』のは『全宮アギトのせい』だと言いたいのか?」

 呆れかえったような顔でそう言うアギトに、
 ダギーは、静かにうなずいて、

「まさしく」

「こ……殺されたいのか……貴様……」

 あまりに動揺しすぎて、声が震えていた。
 これは怒りの向こう側。

 『錯乱した飼い犬』に『手をかまれた』と思って動揺していたら、
 その犬は、続けて、ふてぶてしく、
 『俺がお前の手を噛んだのは、お前のせいだ』などとほざきやがった。

「貴様の代わりはそうそういない……貴様は非常に優秀な人材だ……しかし……」

 そこで、アギトは、アイテムボックスから剣を抜いて、
 その切っ先をダギーのノドに向けて、

「だからといって、何をしても許されるわけではない!!」

 この時、アギトは、自分が『正論』を口にしていると認識している。
 『間違ったことは言っていない』という強い認識。

 ――根本の話として、アギトには、
 『理不尽な上司にはなりたくない』という強い意志がある。

 『甘い王』になる気はないが、
 『不条理を喚くだけのクズ』にはなりたくないという想いが根底にある。

 クールに、スマートに、いつも大局をジっと見据えている。
 ――そんな『美しい王』にあこがれ、努力を積んできた男。

 だが、まったくうまくいかない。
 妹はシリアルサイコパスで、一番の配下はバカ犬で、
 自分はいつも、ありとあらゆることにイライラしていて、

(なんでこうなる……なぜ、うまくいかない……頑張ってきたのに……必死に、すべてを、ちゃんとやってきたのに……どうして……なんで……っ)

 憤りが募る。
 『自分』も『周り』も、
 すべてが『理想』とはかけ離れている。

 こんなはずじゃなかった。
 こんなクソみたいな人生になるはずじゃなかった。
 ――と、アギトは、絶望の底に沈む。

 全宮家という名家に生まれ、一定以上の才能も金も地位も名誉もありながら、
 しかし、いつも『イライラ』していて、その命はまったく満たされていない。

 全宮アギトの人生は、
 一般庶民の視点で言えば、
 すべてが完璧に思えるし、
 実際のところ、アギトは、ありとあらゆるものを持っているが、
 しかし、命は満たされない。



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