センエース~経験値12000倍のチートを持つ俺が200億年修行した結果~(コミカライズ版の続きはBOOTHにて販売予定)

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73話 降参の意味。

 73話 降参の意味。

 静かに、敗北を宣言したダギー。

 その直後、
 二人の闘いを見学していた空間外の面々が凍り付いた。

 あまりにも予想外の結末に、
 一瞬、脳みそがマヒしてしまったようで、
 シーンと、耳をつくほどの静寂がおとずれた。

 しかし、その静寂は長く続かず、
 五秒後、
 まるで、当然のように、
 空間外の面々は、一気にザワついた。

「降参した……?」
「聞き間違い?」
「いや、ダギーは、降参したわ。間違いなく」
「なにを考えて……」
「主人の大金がかかっているということが、わかっていないのか?」

 当然の疑問が飛び交う。
 そんな中、
 ダギーの主人である『全宮アギト』が、眉間にしわを寄せて、

「ダギィイイッッッ!」

 怒りを込めて、ダギーの名前を叫んだ。
 むろん、怒声を浴びせてストレスを解消するのが目的ではない。
 その怒りに込められているのは、敗北の撤回要請。

 もちろん、ダギーはそれを理解している。
 主人の意図を理解しようと努めるのも剣の仕事。

 しかし、
 ダギーは、

「――撤回はできません。もうしわけございません」

 そう言って頭を下げるばかりで、
 決して、自分の『降参』発言を取り消そうとはしなかった。

 そのかたくなな態度を受けて、
 今のダギーに対して『言葉は通じない』と理解したアギトは、
 亜空間の中へと飛び込み、
 荒々しくダギーの胸倉をつかみあげ、

「ふざけるなよ、貴様……このギャンブルに、いったい、いくらの金がかかっていると思っている! 600億だ! 600億だぞ!!」

 とめどなくあふれる怒り。
 これまで従順だった飼い犬に手をかまれたことが、心底信じられないという表情。

「貴様の人生40回分の金だ! わかるか! おい! わかっているのか! 貴様は、かなりの高給取りの方だが、そんな貴様の人生40回分の金だぞ! 一万円札をトイレットペーパー代わりに使える私でも、さすがに、看過できない金額だ!」

 正式に全宮家を継げば『つかえるようになる金のケタ』が変わってくるため、数百億程度の損失は、そこまで大きな問題ではなくなる。
 だが、現状のアギトにとって、『数百億』という単位は、
 絶対に、失うわけにはいかない数値。

 ハッキリ言って、現状のアギトは、テラから『全てを借りている立場』である。
 支配領域と運用費を与えられている『だけ』の立場。
 個人資産は、与えられた金を使って得た利益。

 『勤勉で優秀で貪欲なアギト』は、
 『異常行動ばかりとっているロコ』と違って、
 たくさんの資産を得ている。

 『真の金持ち』にとっての『金』は、
 『金を増やすための武器』。
 資産を増やすための虎の子。
 いわば、『世界』という戦場で戦うための弾丸。
 『支配者としての闘い』で使わなければいけない実弾である。

 そして、支配者は、金を増やし続けなければいけない。
 それが『王』――『人の上に立つ者』の宿命であり義務であり責任。

 ゆえに!
 当然『資産の運用方法』はすでに、キッチリカッチリ決まっている。
 ここで『600億を失う』というコトは、
 『既に動き出しているいくつかのプロジェクトの破綻』を意味する。
 ありえない。



「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなぁあああ! この賭けにおいて、こっちの負けはありえないんだよぉおおお! 金の問題もそうだが、『私の剣』が『ガキ』相手に降参などしていいわけがない! 貴様なら、そんなことはわかっているはずだ! なのに、なぜ、たやすく降参を口にした。答えろ、我が剣、ダギー・ランソルット!!」


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