センエース~経験値12000倍のチートを持つ俺が200億年修行した結果~(コミカライズ版の続きはBOOTHにて販売予定)

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62話 うぬぼれるなよ、虫ケラ……


 62話 うぬぼれるなよ、虫ケラ……

「ああぁ! いぃいい! 一分だ!! いや、10秒でいい! 私の全部を捧げる! 最後の10秒以外はすべて持っていっていい! だから! 自殺する余力を! この恐怖から逃れる力を!!」


 闘うためではなく、
 逃げるためだけに、
 バグは、絶死のアリア・ギアスに飛びこんだ。

 真っ赤なオーラに包まれるバグを見て、
 ソンキーは、

「狩る気満々の俺を前にしていながら、望みどおりに安楽死ができるとでも? はっ……うぬぼれるなよ、虫ケラ……」

 遥かなる高みから、
 声を降らせる。
 払わせる余地も与えない。

 今、この瞬間のバグは、
 限界まで積んだ『極限の状態』にある。

 たった十秒だけのエンペラータイム。
 『暴利な絶死』を積むことで辿り着いた、最後のゆらめき。

 ロウソクのように、この、最後の瞬間だけは、
 限界を遥かに超えた炎をたぎらせている。

 バグの魂魄は、強く、強く、強く、燃えていた。

 ありとあらゆる全てを飲み込んで完成したバグが、
 全てを捨てて稼いだ、最後の十秒。

 ――なのに、

「ひぃいいいい!!」

 許されたのは、
 無様な悲鳴だけ。

 苦痛と恐怖だけが世界に響いて、

 そして、
 ソンキーは、両手を合わせた。

 祈っているわけではない。
 彼の上に、神はいない。

 だから、これは、


「――【弧虚炉(こころ) 天螺(あまら) 終焉加速】――」


 感謝。
 辿り着く要因になってくれたことに対する、ほんの少しの祝福。
 つまりは、食事前の『いただきます』と同義。


「――ぎぃいいぁあああああああああああああっ――」


 バグの魂魄は、短時間という永遠の中で、
 凶悪な激痛に染まりながら、
 いつしか、極限まで小さく収束された。
 形を失うほどのコンパクト化を受けてから、
 その揺らぎは、スゥと音もなく、
 ソンキーの核へと収まった。

 シンと静かになって、

 ゆったりとした時間が流れてから、

 ――ソンキーは、天を仰ぐ。




「お互い、ずいぶんと、遠いところまで来たな……なあ、センエース」




 心が理解したんだ。

 ――きっと、『やつ』も、同じ場所に辿り着いているのだろう。

 ソンキーは、
 己の深部を、もう一段階、統一させつつ、

「本当に、イラつくド変態だ……」

 やわらかく微笑んで、そうつぶやいた。

 あの時の闘いで、手加減を受けたとは思わない。
 あの闘いは、互いの『位置』を探り合った、本物の死闘。
 居場所を求め会った修羅の対話。

 それでも、
 イラつきは収まらず、
 だから、

「次、会った時は、必ず、堂々と、真正面から、お前の全てを超えてみせる……俺の目標は、何も変わらない。お前を超えて、本物の最強を求める。そのためにも、俺は、これからも、決死の覚悟を積んでいく」

 宣言する。
 自分に対する誓い。
 決して立ち止まらないという、覚悟のウルティマ・ギアス。



「……ソンキー、あんたが今後どうしようが、どうでもええけど……とりあえず、あの二人は返してもらうで」



 奥から響く声を受けて、
 ソンキーは、

「ふぁ~あ」

 小さなアクビを一つはさんでから、

「好きにしろ。どうでもいい」

 そう言って、魂魄の奥へと沈んでいった。

 器の表層に出たトウシとウラスケ。

 表に出ると同時、

「「もうええやろ」」

 同時に、互いを拒絶して、
 もとの二人に分かれる。

 ソンキーを内包したトウシと、
 メルクリウスを駆るウラスケ。

 別れた直後、
 ウラスケは、自身の身に起こった変革に気付き、

「おい、トウシ……ぼくの『権限』、かえせや」

「残念ながら、自由に移し替える事は出来んみたいやで……お前は、既に、ウルティマ・ギアスの管轄下にある」



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