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36話 仲裁とカマトト。


 36話 仲裁とカマトト。

 爆音が聞こえて、
 ウラスケは、バっと上空に視線を移した。

 そこでは、

「お、おいおい……」

 黒いオーラを纏った高瀬ナナノと、
 同じく、
 禍々しいオーラを纏った繭村アスカが、
 空を駆けながら、バッキバキに殺し合っていた。

「……屋上で話し合うどころか、屋上を飛びだして殴り合っとるやないかい……」

 ボソっと、くだらない事を口にしてから、
 ウラスケは、背中に、剣の翼を召喚して、グワっと飛びあがる。

「ちょっと、待て! ストップ! ケンカ、やめろ!」

 ウラスケの声が耳に届くと、二人は、
 動きを止めて、下から飛んでくるウラスケに視線を向けた。

 ウラスケは、彼女達と同じ高度まで飛ぶと、
 そこで停止して、彼女達を見渡し、

「よし、まずは落ちつけ。そして、状況を整理しよう。えーっと……まったく、わけが分からんのやけど……とりあえず、さっきの一瞬だけでも、君ら二人が、ただのか弱い女子でないことは理解できた。かなり驚いたけど……まあ、ぼくも、普通やない力を持っとるわけで……だから、まあ、それはそれとして、その先の話し合いをしよう。……まず、えっと……なんで、殴りあっとんの?」

 その問いに答えたのは、ナナノで、

「この女が気に入らないから」

 そのスパっとした物言いに、
 ウラスケは、

「ぉ、おう」

 としか言えなかった。

 気まずい空気の中、
 次は、アスカが、

「田中くん、助けて。……ナナノが……急に、襲ってきて……だから、私は、仕方なく、応戦しているだけで……」

 と言った。
 その発言を受けて、ナナノが、分かりやすく顔をゆがめた。
 ギリっと奥歯をかみしめて、

「このアマ……」

 怒りをあらわにする。
 ナナノは、すぐさま、

「先に手を出してきたのは――」

 と、反論しようとしたが、
 その言葉を、ウラスケはいっさい聞いておらず、
 ウラスケは、いぶかしげな顔で、アスカの目をジっと見つめていた。

「なに? どうしたの?」

 アスカが、そうたずねると、
 ウラスケは、バリバリに警戒心を見せながら、



「お前、誰や……繭村ちゃうやろ」



 そう言った。
 疑問符すらつかない問い。

「……」

 シンと、空気が止まった。
 数秒の沈黙を経てから、
 アスカがボソっと、

「なぜ、そう思うの?」

「いや、見たら分かる……雰囲気が全然ちゃう……具体的に言うと……魂の色が違う……」

「……変な事を言わないで。私は――」

 反論しようとしたアスカに、
 ウラスケは、強い視線と言葉で、

「ナメんなよ」

 と、言い切りつつ、
 召喚した剣の切っ先を、彼女の鼻先につきつけた。

 それを受けて、アスカは、面倒臭そうに視線を外すと、

「……まあ、別にいいけれど」

 そうつぶやいてから、
 パチンと指を鳴らした。

 すると、

「っっ?!」

 ウラスケの全身がビリっと痺れて、指一本動かすことができなくなった。
 ウラスケは、

「ぐ……ぬぃい……」

 全力で抵抗するが、まったくの無駄。
 そんなウラスケの無駄な抵抗を鼻で笑いながら、
 アスカが言う。

「どっちみち、繭村アスカの魂は、私が握っている。となれば、あんたは、私の言う事を聞くしかない。そうでしょ?」

 イヤな笑顔でそう問いかけてくるアスカ。
 続けて、

「さて、田中ウラスケとの正式な契約は後にするとして……」

 アスカはそう言いながら、ナナノを睨みつける。

「まずは、あなたの捕食からね」



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