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33話 繭村アスカの穢れ。


 33話 繭村アスカの穢れ。

(しかし、このアホは、どうして、こうもくだらん事しか喋られへんのやろうか……そうしてアホをさらし続けるより、黙っといた方が、社会にとってまだ有益やと思うんやけど……)


 などと、イライラしつつも、
 友人との談笑を続ける、忍耐力の塊ウラスケ。

 と、その時、
 まだ一限目の開始まで数分残っているところで、
 アスカが席を立って、教室を出た。
 それを横目に、
 ウラスケは、

「ションベン、いってくる」
「時間、大丈夫? 一時間目の山口、遅刻したらうるさいよ」
「問題ない。ゴチャゴチャ言ってきたら、渾身のアッパーカットをぶちこんで、ケツアゴにしたる」
「さすが、タナカッマン。ぼくらにはできないことを平然とやってのける。そこにしびれる、あこがれる」
「まだ実際にはやってへんから、しびれられても困るけどな」

 くだらない会話を終わらせてから、ウラスケは、
 ソっと、静かに、彼女の後ろをついていく。

 二人の距離が、絶妙に近づいたところで、
 アスカが、

「御手洗いまでついてくる気?」

「……ぼくは変態やない」

 そう前を置いてから、

「すぐに動ける範囲にはおるから、なんかあったら、大声出せよ」

「……うん」

 『女子トイレに入っていく美少女を見送る』という、変態ストーカー的な行動を取りながらも、しっかりと周囲を警戒しているウラスケ。



 ――アスカは、
 ウラスケの視界から外れたところで、

「はぁぁぁ……」

 と、深い溜息をついて、
 目の前にある鏡をジっと見つめた。

 登校途中で交わした『ウラスケとの会話』を思い出しながら、

「ひどい顔……かわいくない……吐きそう……」

 ボソっとそうつぶやいた。

 アスカは、自分の顔を『ブス』だとは認識していない。
 『ある程度、整っている』と自覚している。

 繭村アスカは、『完璧な美形』ではない。
 しかし、『パーツの組み合わせ』が『絶妙』であるため、ある種の神秘的なオーラが出ている。
 つまりは、激烈な人気が出るタイプのアイドル顔。
 全方位に幅広く好まれる顔ではないが、特定の層からは、熱烈に支持される恵まれたルックス。
 そのことを、彼女はキチンと自覚している。
 ――けれど、

「なんで、私は……こんな微妙な……」

 ギリっと奥歯をかみしめながら、そうつぶやく。
 『なぜ自分は神様のオーダーメイド』ではないのだろう、という贅沢な悩み。
 『こんなハンパな美少女ではなく、完璧な美少女だったらよかったのに』という、『ルックスに不具合を抱えている層』が耳にすれば、確定で『殺意まったなし』のふざけた悩みにさいなまれる。

「……ムカつく……イライラする……」

 贅沢だろうが、なんだろうが、
 当人にとって、悩みは悩み。

 人は悩む生き物。
 どれだけ恵まれていようと、絶対に、『何かしら』には悩む、難儀な生物。

「ナナノ……いやな女……」

 高瀬ナナノの顔を思い出すたびに、心がズンと重くなった。
 表情に、どんどん影がさす。

 ウラスケも言っていた通り、ナナノは、『マイナスがない美形』。
 ようするには、ド直球の美少女。

 『女性が憧れる顔ランキング』で全パーツ最上位が取れる、神のオーダーメイド。

「なんで、あの女だけ……あんな……」

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