『経験値12000倍』のチートを持つ俺が、200億年修行した結果……
19話 命の重さをはかる天秤。
19話 命の重さをはかる天秤。
「全力で時間を稼ぎ、必死に方法を考えている……というのが、手に取るように分かる。あまりにみっともない姿だ」
的確に言い当てられて、思わずピタっと黙ってしまうピーツ。
そんなピーツに、
亜サイゾーは続けて言う。
「ここで、もう一つ、貴様の『心を乱す道』を用意しよう。このガキが死んだら、貴様は助かる」
「……は?」
「携帯ドラゴンの所有権は与えないが、ここから脱出する許可は与える。簡単に言うと、貴様は、この赤子が死にさえすれば、のうのうと生きながらえる事ができるという事だ」
「……」
「もう一つ言っておこう。このガキの魂魄は、最終的にパラミシ・アジ・ダハーカに喰わせる。パラミシ・アジ・ダハーカは最高クラスの邪龍。『最高クラスの邪龍に飲み込まれる』ということの意味をシッカリと想像しろ。それすなわち、このガキは、深い闇の底で、永遠に苦しむ事になるということだ」
ようするに、『ミシャが、クソ貴族に対して行った』ような、
多大な『地獄の苦痛』を与え続ける空間に放り込むと言っているのだ。
『邪』の属性を持つとは、そういう意味も含む。
※ ミシャが故郷で奪った多くの命は、センエースによって『魂の救済』を得ている。
その際にセンエースが払った代償はハンパじゃない。
センエースが、ミシャの重荷を背負ったとは、そういう意味で――
「3分間待ってやる。意味のないおしゃべりで時間を稼ごうとしなくていいから、とにかく考えろ。思考放棄したければ好きにしろ。このガキを見殺しにして生きながらえる。それも一つの手だ」
「…………………………」
「あと2分55秒」
無慈悲に過ぎていく時間の中で、
「は、はは……助かった……そのガキが死ねば、俺は助かるんだ。はは、ラッキー。なんだよ、楽勝じゃねぇか……よかったぁ……は、はは……」
などと言いつつ、
ピーツは、眠っている赤子に視線を向けて、
「俺の助けなんて、期待すんなよ……俺は、別に、救いのヒーローってワケじゃねぇんだから……」
ブツブツ言いながら、
油汗をダラダラと流し、
「俺はヒーローじゃない……救えない命があるのなんて、当り前……ここだけじゃなく、今も、どこかで、命は壊れている……お前の小さな命は、そんな大多数の中の一つってだけ……そんだけ……」
誰だって、一目で分かる高次の葛藤。
フル回転しすぎて、今にも煙が出そうになっているピーツの頭。
「俺じゃあ、助けられない……何も出来ない……だから……つまり……」
グルグル、
ギリギリと、
「無理だから……俺じゃあ……だって……どうしろってんだよ……いや、だから無理で……だから、その……ようするに、不幸は、ここだけで起こっている『特別』じゃなくて、世界中の……どこでも……だから……」
脳内の軋む音が聞こえてきそう。
そんな中、
「ここ以外のどこかでも、不幸が起きている……かどうか……なんて……」
ピーツは、
「知ったことかぁああ……」
ボソっと、
「目の前の……小さな命の一つくらい……『出来ることなら』って……『それぐらいなら』って……そう考える、このクソみたいな偽善を……ハナから一々否定していって……それで……何になるんだ……」
ギリギリと奥歯をかみしめて、
「くだらねぇ! 意味がねぇ! 無価値! ――そうじゃねぇんだ! 本質がどうとか、真理がどうとか、マジでくだらねぇ! 俺が今、やらなきゃいけねぇことは! この、クソしょうもねぇ『偽善』を! どうすれば昇華できるか! そんだけぇえ! だから、考えろ! 思いつけ! 頼む!」
髪を振りみだして、
頭をガシガシとかいて、
「なにか! なんでもいい! なにかぁああ!」
と、そこで、
「きゅい!」
すでに『亜サイゾーにシバかれた際のダメージ』が完全回復している携帯ドラゴンが声を出した。
正直なところ、『声をかけてきたのかどうか』の判別はつかない。
だが、携帯ドラゴンは、まっすぐな目でピーツを見て声をだした。
それは事実。
ピーツは、携帯ドラゴンの目をまっすぐに見つめて、
「なにかないか! お前に! 何か特別な機能とか! た、たとえばぁ!」
携帯ドラゴンをガシっと掴んで、
目と鼻の先で、
「俺がスマホでやっていた携帯ドラゴンのデータを! お前にインストールするとかぁ!」
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