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17話 勇者の怒り

 17話 勇者の怒り


 カルの暴走は止まらなかった。
 放置していれば、世界はカルに支配されていた。
 実は、カルの国民以外にも、『カルに支配されていた方が良かった』などとぬかす者もいた。
 カルが統一国となれば、『少なくとも戦争はなくなる』と考えた者たち。
 そんな『尊厳を失い、帝国の家畜となる事を望む者』が増えていた。
 実際のところ、それが、一番の問題だった。




 世界は、精神的にも、カルに侵されかけていた。




 魔王国は、自ら率先して傷を負う事で、世界を救ったのだ。
 しかし、『そんな事は知ったこっちゃない』とばかりに、
 『戦争の中核は魔王国だったのだから、諸々の補填は魔王国の責任だ』と、どの国も魔王国から搾取しようと努めた(ちなみに、その最大の原因は、フーマーが、調停という名目で、カル大帝国の戦後利権を全て奪っていったから。フーマーには誰も文句が言えない。そのフラストレーションが魔王国に向かった。すべては繋がっている)。


 徹底して、ワリをくった魔王国。
 サミットで散々話し合い(という名のタカリ)が行われた結果、リーンは、他国の要求を全て飲んだ。
 二度と戦争を起こしたくないというリーンの願いを、この世界は食い物にした。






 ちょっとした裏話になるが、その事に誰が一番怒り狂ったか。
 もはや言うまでもないが、勇者ハルスである。






 ハルスは、食い物にされている魔王国をその手で殺して、この胸クソな理不尽を終わらせようとした。
 アホのリーンに統治されてさえいなければ、南大陸は、危ないモンスターの巣窟にもどる。




 ※ 魔王国からの搾取で多くの弱者が救われる――というのなら、まだ合理はあったが、実際のところはそうじゃない。
 奪われた資源は、より多く奪うための暴力装置に還元されるだけ。


 国が豊かになっても、弱者が食い物にされる現実に変化はない(アホほど豊かになった日本でも、『食い物にされている弱者の割合』は変わらなかった。それが世界の真実)。
 国が潤うことで、多少『食われ方の質』に変動は生じるかもしれないが、人間が人間のままであり続ける以上、弱者が食われるだけの世界に変化はない。
 『本当の意味』で『神の領域』に至る『システム』や『意志』がなければ、倫理的な完成には辿りつけない。
 人のままでは、『豊かさ』を履き違えて終わる。


 勇者は異世界の歴史書なんか見ずとも、『その摂理』が理解できた。
 だから、魔王国が搾取されている現状が、ゆるせなかった。
 やるせなかったと言ったほうが正確か。


 現実的な話、各国が魔王国から『搾取する』という行為は、
 各国の暴力装置を強化する結果にしかつながらない。


 軍が潤うということは、戦争の準備が整うということ。
 満たされない仮初かりそめの平和の表層で『力』だけが潤沢になれば、
 必ず誰かの背中が欲望に押されて、足りない『もっと』を求めだす。




 未成熟な『エックスの上位者』程度では、ゼノリカに属する『命の輝きに辿り着いた支配者達』のように、『有機的な高次の滅私=理想的な魂魄循環の中核(神)として世界に尽くす事』を求める事はない。


 未成熟な魂は、ただ、無為に欲する。
 それでは、絶対に満たされない。
 けれど、それでも、薄っぺらな欲望のおもむくままに、単一的な享楽を求め続ける。


 そうして、世界は、無機質に、戦争の規模だけを膨らませていく。
 穿った見方をすれば、供給源となった魔王国は、より大規模な戦争を教唆していると取る事もできなくはない。
 魔王国を放置することは、勇者の哲学的にありえなかった。


 だから、乗り込んだ。
 ――それが、すべての始まりだった。










 ――と、ここで、トーンの代表カバノンが、


「一国が独占すべきではない。うむ、正論だ。というよりも、こたびの揉め事の主犯であり実行犯でもあるラムドの権限を、共犯である魔王国が有している現状を改めなくてはいけないと思う」



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