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60話 女のプライド

 60話


 逆に、センから頼まれれば、
 実際のところ、シューリは、それがどんな困難な願いであれ、
 きっと『しょうがないでちゅねぇ』となんでも叶えてしまうだろう。


 事実、シューリは、センの『ゼノリカをどうにかしてほしい』という願いを叶えている。
 こんなこと、本来ならばありえない。
 シューリのプライドの高さは異常。
 本来ならば、どれだけ頼まれようが、現世のカス共の子守りなど、絶対にやるはずがない。
 『シューリにゼノリカを任せる』というのは、『ベジ○タにベビーシッターをやらせている』ようなもの。
 もし、セン以外の者がソレを願ったら、『ナメてんでちゅか?』と本気でブチギレで、そのクソみたいな願いをしてきたバカを瞬殺するだろう。
 だが、それがセンからの願いであれば、必死になって叶える。
 どれだけやりたくない事でも、それがセンの願いなら、シューリは必ず叶える。
 仮にシューリでは不可能な難事だったとしても、血ヘドを吐きながら死ぬ気で努力して、実行してみせようとするだろう。
 だが、自分からセンに『~~してほしい』は絶対に言えない。


 そんなみっともないマネは、プライドがゆるさない。






 ――しかし、アダムにそんなプライドはない。






 アダムならセンに余裕で言える。
 嬉々としておねだりできる。
 一ミリたりとも、それを恥だとは思わず、
 むしろ誇らしげに、全力で、センにおねだりができる。


(あたしから頼むというのはありえない……だが、アダムが勝手に望むのであれば、あとは受け入れるだけでいい)


 もし、アダムが、
 『自分とシューリにプロポーズをしてほしい』
 と願えば、それで完璧。


 あとは、自分が『アダムという存在を認める』か否か。
 問題はそれだけとなる。


 誰でもいいわけではない。
 認めている存在が、センに願うから成立しうるのだ。


 シューリは考える。
 アダムを認めるという選択肢がアリかナシか。


 もちろん、『イヤだ』という想いはある。
 ゴリゴリの独占欲が、全力で首を振っている。
 だが、
 シューリの中に在る『欲』は独占欲だけではないのだ。
 単純に、




(そこらのメスブタなら許せないが……アダムならば……)




 ジっと、アダムを観察してみる。
 頭に血がのぼっていて、ちゃんと見ていなかったが、


(美しい……)


 女だからといって、『女の美しさ』に何も感じないわけではない。
 というか、
 実は、
 じゃっかん、そっちの気があるシューリにとっては、


(好みか好みでないかで言えば……間違いなく……)


 そういう目で見て見れば、
 なんとそそる女だろうか。


 豊満な胸も、長い手足も、
 若干、幼さが残る顔つきも、何もかも、
 すべてが、


(……欲しいか、欲しくないかで言えば……)


 答えを出すまでもなかった。
 アダムは美しい。


 そして、才能もある。


 別に、『教え厨』という訳ではないが、しかし、やはり、アダムの才能は惹かれるものがある。
 鍛えてみたいと思う。
 その点に、少し意識を向けてみるだけで、磨きたいという感情がムクムクとわいてきた。


 誰にだってある。
 『極めてしまった世界』を持つ者であれば、新参者に、『教えたい』という欲。




 ――そんな当たり前の感情が、シューリの中にもある。




 考えてみれば、考えてみるほど、
 アダムは、シューリの『欲』を刺激していた。


 シューリにとって、アダムは、『後輩』として完璧。
 自分に羨望の眼差しを向けてくる、才能あふれた美少女。
 それが、最高のプラスアルファ(センに命令できる権利)まで背負っている。






 ――そこで、






「私は……貴様が憎い……それだけならば、まだ良かった……だが……」




 アダムが、ポロっと涙をこぼした。


 重たい悔しさと滲ませて、
 アダムは口を開く。


 アダムにだってプライドはある。
 シューリと同じものではないが、アダムにも、譲れないものが確かにあった。
 そして、今だって、それの守り方を忘れたわけじゃない。


 ――そのことを、シューリはようやく理解する。


 アダムは、











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