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38話 十人のアダム

 38話




 自分が何者だったかは、もはや忘れても構わないと思っているが、
 『ソレ』だけは、もう二度と忘れない――絶対に忘れてやらない。
 叩き込まれた、絶望の殺し方。
 ソレは、絶対のテスタメント。
 この上なく尊い主がくれた宝。
 だからこそ紡げるラプソディ。


(絶対に逃げない。何度死んでも、絶対に降りてやらない……私は、この女を……絶対に殺すっっ!)


 折れなかった理由――『殺され尽くす』という地獄を一度経験していたのも大きかった。
 もう、初見じゃない。
 それに、火力も足りていなかった。
 確かに凄まじい攻撃だったが、86000のアルファに潰された『あの時』と比べれば――正直、シューリの一撃は大した事がなかった。


 センは言った。
 自分とシューリの差。
 100点と90点。


 バカテス式(天井なし)のテストならともかく、上限カンストがある世界でなら、その意味合いは大きく変わってくる。


 実際のところ、それは、とてつもなく大きな差。
 満点を取れる者は、それ以上も可能。
 だが、90点はそこが頭。
 すなわち、90点と100点の差は、
 単なる10点の差ではなく、決定的で絶対的な差だった。




 確かに、シューリは強いが、
 センはそんな領域ではない。




 ゆえに、シューリ程度じゃ、センを知っているアダムの心は殺せない。
 『この程度で潰れる弱さ』とは、既に決別している。




 ――アダムの『想い』は、常に、無上の神と共にある。
 ――弱さも、諦め方も、あの御方が奪い去ってくれた。




「……シューリ・スピリット・アース……正直、貴様をナメていた。無限蘇生がなければ確実にここで死んでいた。……私は、また、主上様に救われた……」




 ボソっとそんな事をつぶやくアダムを睨みつけたまま、


 シューリは心の中で、


(無限蘇生……あれだけ殺し切っても生き返れるスキルなのか……ちっ、センの無限転生を媒体にしたとは聞いていたが……まさか、ここまでとは……完全に反則級の力……卑怯な……)


 『どの口が言ってんだ』と言いたくなるような事を考えていた。




 アダム(サイ)の無限蘇生。
 シューリは、決してナメてはいなかった。
 無限転生は、センが何をしても抗えなかったスキル。
 それを媒体にしたのであれば、当然強力だろうと。
 だからこそ、超オーバーキルになる攻撃を放った――が、まったく殺し切れなかった。


 現状、シューリは、表面上はニタニタ顔を維持しているが、
 内面では、ギリギリと奥歯をかみしめていて、




(アレで殺し切れないとなると……今のあたしでは、手段がない……)




 下手に対策させないよう、シューリは、初手から、最大火力を叩き込んだ。
 確実に一撃で終わらせようと、かなりの無茶をした。
 おかげで、いくつかの組織がオーバーヒートを起こしている。


 ――しかし、それでも殺せなかった。
 初見殺しでハメ殺そうとして、盛大に失敗した。
 さっきの一撃以上のダメージは出せないし、
 それどころか、しばらくは、まともにダメージが出る攻撃をする事すらできない。










「次は私の番だな」










 そう言って、アダムは、
 両手で印を作り、


「オーラドール・アバターラ」


 宣言と同時に出現する、九人のアバターラ。


 どれもが膨大な存在値を有しているアダムの化身。


 膨大なエネルギーを惜しみなく投入する事で、戦闘力はショボいが、しかし、九人全員、存在値10兆以上にまで高める事に成功した。




 おそろしい戦力。
 というか、これまでのシューリの常識から照らし合わせてみれば、あり得ない戦力。




 シューリのこめかみに、また冷たい汗が浮かんで、ツーっと流れた。


 シューリは理解していた。


(……『存在値の差』だけに頼ったド直球のアホ戦術……しかし、それは、彼我の差を解しているがゆえの一手)


 今のアダムでは、シューリ・スピリット・アースに小細工は通用しない。
 だから、ガムシャラに、マグレを狙う。
 アホくさいが、実は利にかなっている戦法。
 アダムがシューリを殺そうとするならば、それしかないという一手。


(……おそらく、センから、『無知の知(己が神闘を知らないという事を知っているという状態)』を教わったな……くっ……あのバカは、本当に余計な事しかしない……)


 『シューリよりも自分アダムの方が強い』とナメてかかってきてくれれば勝機はあった。


(その勘違いを維持させたまま、封印系のハメ殺しを決め、究極超神器を全投入して完全封印してしまう……そういう手段も取れたのに……)


 シューリのプラン。
 非常に単純。


 インディペンデントワールド等の特殊空間を創造し、その最奥に封じ込め、キラークイーンボックス等の箱系アイテムを複数投入して多重封印を決めて、アダムの存在を殺す。


 だが、当然、それを成すのは容易ではない。
 少なくとも、こんなバリバリ警戒されている状態で取れる手法ではない。


 シューリは、自分に対して包囲網を固めているアダムのアバターラを見渡した。


 曇りなきまなこで観察して、
 素直にゾっとした。


(た、たかがアバターラの一体一体が……おぞましい強さ……ふざけた存在値……もちろん、負けはしない……が……くっ……)




 十人のアダムが、一斉に、キっと、シューリをにらみつけ、


「正直、勝てる気はしない、が……引く訳にはいかない理由がある。シューリ・スピリット・アース……私は貴様を超える……その証明として、貴様を殺す!!」


(ナメるなよ、クソガキがぁ!)




 殺し合いは激化する。
 情けも容赦もなく、ただただ、互いを殺そうとする美少女二人。


 空間にきずを残していく二柱の異なる到達点。
 爆裂は熔けて、狂おしく弾けた。
 優美な死が破砕する。
 断絶のシンフォニー。
 シューリはともかく、アダムは、何もかもが、まだまだ不完全。
 あまりにもお粗末で彫塑ちょうそ的。
 けれど、だからこそ覚える、官能的な陶酔。
 色彩を超越した幻想は、まさに禁断の果実。
 世界を満たしていく儚さが、そこにはあった。




 どちらも鬼の形相。
 しかし、なんと、


 なんと、美しい光景か――









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