無能力者の少年は、最凶を破る最強へと成り上がる~魔王、勇者、古代龍? そんなもの、俺の前じゃあ珍しくもねぇ~

異端の雀

18話 「侵入」

 アルヴァスはまぶたを閉じて、アインの魂に干渉アクセスを試みる。
 
干渉アクセス出来たら、教えてくれ」

「うむ」

 アインもつられるようにまぶたを閉じる。
 そして、何か感じられないかを確かめる。
 手は使えないので、己の感覚に身を委ねて。
 
(真っ暗だ……。
 この中に、何があると言うんだ?)

 ただ一人、深い深い闇の中に取り残されるアイン。
 しかし、そこには何もない。
 アルヴァスが感じているはずの何かは、どんなものなのか。
 それを知ることは出来ない。

――――今のところは。

(もう少しであるぞ。
 よーく、神経を研ぎ澄ませるのだ)

 暗闇の中、アルヴァスの声が耳にこだまする。
 自分以外の誰かがそこにいる。
 それが分かっただけで、大分心が楽になる。

(言われなくても、さっきからやってるよ)

 口には出さずに、心の中で返答をする。
 感覚を研ぎ澄ませるためには、あまり五感に意識を向けてはならない。
 生きるために必要な、最低限の生存能力だけを身体に残す。
 それ以外は全てきたるべき時である、干渉アクセスされる瞬間を察知するために注ぐ。

(まだか……)

 今か今かとアルヴァスの干渉アクセスを待つ。
 自分から行けるのであればそれに越した事は無いが、何しろ身動きが取れない。
 暗闇の中(まぶたを閉じた状態)なので、わざわざ何も怪我のする必要が無い場所で危険を犯す事はない。

 少しながら興味があるので、そわそわしながら感覚を研ぎ澄ませていく。
 少し意識を戻せば、凄い速さで貧乏ゆすりをしていた。
 戻すべきでは無いのだろうが、足に違和感があったのだ。
 好奇心には勝てまい。

 そして、遂に暗闇の中にそれは現れた。

(ん、あれか?)

 手が触れられる範囲では無いものの、視界に薄ぼんやりと映るそれ。
 少しずつそれは、アインのもとに伸びてくる。
 
(あれ自体が生物…………ではないな。
 身体の一部か?)

 左右にぶれることなく、アインに向かって一直線に伸びるそれ。
 生物独特の温かみのようなものは感じられず、実直に命令に従うようである。
 温かみというのは、呼吸であったり血の循環といったものである。
 途中で休憩を挟むことはないし、規則的な動きのみをする。
 それには、生というものが無いかのようである。
 
 しかし、それは不意に停止した。
 前兆といったものは見てとることは出来なかったが、直後、アインの意識は唐突に覚醒する。

「アイン、感じ取れたか?」

 アルヴァスが顔を覗き込んで(下から見上げる形で)、アインのすねを蹴っていた。
 最初はただ目の前の光景に呆然としていたが、猛烈な痛みによって、無理矢理に現実に引き戻される。
 
「いったあぁ!?」

 じーーん……という痛みが足から上へ上ってくる。
 言葉にならない辛さにしばらくのたうち回っていたが、しばらくすると、それも治まってくる。
 ゆっくりと起き上がりながら、アルヴァスを睨む。

「うう……。
 何ですねを蹴るんだよ!」

 アルヴァスに、ぶちギレる。
 自分が古代龍だと分かっていないのだろうか?
 その力ですねを蹴られたら……。
 いい加減理解して欲しいものだ。

「いやぁ、教えろと言った割には全然気付かないのであるなぁと思って、何回くらいで気付くかなと試していたところであるのだ。
 それほど怒る事は無かろう?」

 目をうるうるとさせながら、無邪気な子供光線を発してくる。
 見た目だけを見ればまだ可愛いのだが、中身はかなり歳のいったおっさんである。
 吐き気だけではなく、あらぬ妄想(幼児アルヴァスが子供を襲う構図……)が頭に浮かぶ。

「アルヴァス様がそんなことをするはずは、多分……いや、ほとんど無いはず!」

 エリアーヌが俺の心を読んで、アルヴァスの援護をする。
 わざとらしく途中まで言いかけて完全否定をしない辺り、アルヴァスは信用されているのか、されていないのか微妙だ。
 少し可愛そうになり、同情もしたくなる。
 しかし、毎回こんなであるから、疲れることを見越して同情はしない。

「っと、俺に向かって伸びてきていたのは、アルヴァスがやったのか?」

「うむ。
 それを聞いてくるということは、アインは見る事が出来たのだな!
 アインに向けて伸ばしていたのは、我の意識だ。
 意識を相手の魂のそばまで持っていき、無理矢理に魂を繋ぐ。
 そして、一気に相手の所へと身体を持っていく。
 それが、バビューンだ!
 やってみろ!」

「……」

 アインは思わず頭を押さえた。
 古代龍には出来て当たり前だと言っていたが、かなり強引な方法だった。
 
「一つ間違えたら、肉体に戻れなくなったりしないよな?」

「今のところは無いな!」

 今のところはって……。
 そうなることは、絶対に無いとは言い切れないのか。
 だが、やるしかないのだ。
  
「はぁ……」

 ため息が出るが、その行動とは裏腹にアインの顔には笑みが張り付いていた。
 楽しいと感じているのだろう。
 仲間と一緒に何かを成すことは、誰にとっても楽しいものだから。
 特に、仲間と呼べる者がいなかったアインにとっては、なおさら楽しいのだろう。
  
「よし、続きを頼む」

 アインは、こっそり"空間把握"を使用する。
 無論、この状況で使用しても効果は無いのだが、適用範囲を変えれば良いだけの話。
 つまりのこと、意識だけの空間でも空間把握を発動させれば良いのだ。

(核、空間把握の適用範囲を拡大してくれ)

《はい。
 ――――完了。
 任意の形で適用範囲が拡大されました》

 これで大丈夫なはずである。
 今度こそ、自分には使用可能かを確かめる事が出来るはずだ。
 確認の意も込めて。 
 
「ではいくのである。
 今度は、魂を繋ぐところまでやるのだ」

 アインはこくりとうなずき、まぶたを閉じる。
 すると、先程では感じられなかった、光、音、匂いなどの感覚が、目を開けている時と同じように認識出来た。
 
(凄いな……。
 まるで違うぞ)

 全てが鮮明に映り、意識せずともその世界に飲み込まれていく。
 それは、二つの世界の境界線が曖昧になるほどだ。
 慌てて意識を戻して、ゆっくりと世界に浸っていく。

 ふと遠くを見れば、先程のアルヴァスのそれが動いていた。
 正体は不明だが、より理解を深めるために心の抵抗を弱めた。
 自分の心を晒すような、壁を取っ払った感じである。
 すると、それが近付くスピードは速くなる。
 
(俺からも近付けるのか?)

 心の中で、近付きたいと念ずる。
 すると、身体は動いていないのに、なぜか視界は前へと進んでいく。
 
(どうなってるんだ?)

 それだけではない。
 動かしている意識は無いのに、自然に腕がそれの方向に伸びる。
 アインは無意識に近付いてきたそれを掴む。
 すると、まばゆく発光しだす。

(ま、まぶしい……)

 目が焼ける程の白い光を放っているそれは、最早アインの目では捉えられなかった。
 意識の世界だと言うのに、思わずまぶたを閉じる。  
 それでも、光は紅く紅くまぶたの裏に映る。
 
(うっ、うう…………)

 やがて光がおさまったかと思い、目を開ける。
 そこには、アルヴァスがいた。
 そして、手には謎の感覚があった。
 自分の腕まで視線を落とせば、アルヴァスの腕がアインの手によって掴まれている。

(おわぁっ!?)

 アインが掴んだのは、アルヴァスの手だったのだ。
 驚きながら、慌てて手を離す。

(分かったであるか?)

(あ、ああ……)

 恐らく、アルヴァスの意識(腕)を掴んだ瞬間、魂が結び付けられたのだろう。
 距離が離れていれば、あのまま身体を持っていく事も可能であったはずだ。
 
(これでセルケイの所まで行けるよな?)

(うむ。
 しかし、一つ気を付けるべき事がある)

(何だ?)

(長い時間、意識の世界に居るな。
 今は我がいるから良いが、戻れなくなる可能性もあるのだ。
 くれぐれも注意せよ)

 アルヴァスが、珍しく険しい顔をして忠告してきた。
 それほど危ない事なのだろう。
 しっかりと心に留めておく。

(分かった。
 じゃあ、一度ここから出ていいか?)

(勿論であるぞ。
 それと、アイン。
 ここから出たら、一足先にそなただけでセルケイの所へと向かってくれまいか?
 エリアーヌにも教えねばならないのでな!)

(ああ)

 アインは、こくりとうなずく。

(それに…………。
 あやつとは、少々話さねばならぬことがあるのだ。
 迷惑をかけてすまんな)

 アルヴァスは、何やら神妙な面持ちでそう話す。
 先程誤魔化した事に関係があるのだろうか?
 
(謝ることは無い)
 
 詮索をせずに、話を受け流す。  
 それは、アインなりの気遣いだった。
 アルヴァスの顔を見て、真剣さを感じ取ったのだろう。  
  
(じゃあ、また後でな)

――――フッ。
 その言葉を最後にして、アインの意識はその世界から遠ざかる。

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