無能力者の少年は、最凶を破る最強へと成り上がる~魔王、勇者、古代龍? そんなもの、俺の前じゃあ珍しくもねぇ~

異端の雀

15話 「炎刀、紅(クレナイ)」

 今、俺の手には新たな武器が握られている。
 それは、炎刀エントウ・クレナイと名付けた刀。
 前の刀をベース吐息ブレスを再現した一品だ。
 名前は、勝手に付けたのだが。
 なんでこんな説明をしているかって?

「おおおおおお!
 出来たぁぁぁ!」

 出来ると思わなかったからである。
 結局、刀が燃えて終わりかなぁなんて思っていたのだが、想像以上の出来である。 
 元の刀と違う点は、刃の部分が緋色になっているところだろう。
 焔のように真っ赤な刀身は見かけ倒しではなく、物凄い熱気を放つ。
 今骨をかわしている最中だが、構わずに振るう。
 身体を一回転させるように、周りに斬撃を飛ばす。

――――ジャッ。

 空気が焦げる音と、空気が避ける音が同時に聞こえた。
 周りを見れば、自分の周りだけ骨が焼失していた。
 想像以上に効果があるようである。

「ハッ、ハッ、ハアアッ!」

 振り上げ、振り下ろし、そして、一見不可能かに思える体勢からの一文字切り。
 リズム良く、連続で見舞う。 
 何だか楽しくなり、もう一回、もう一回…………。

 気付けば、腐敗龍は殆ど居なくなっていた。
 そして、死龍王は愕然としていた。
 でかい竜は、ピクリとも動かない。
 命令式なのであろう。

「な、何でこんなことに……。
 開拓者、貴様は何故やって来るのだ」

「は?
 いや、開拓者ってものもこの間知ったばかりだし、そんなもの知らねぇよ。
 俺が聞きたいくらいだよ!」

 自分の聞かれた質問には答えないのに、質問をする死龍王。
 何なのか、この矛盾は。

「フッ…………フハハハハッ!
 自分の運命を知らぬと?
 それまた滑稽だ。
 もしかしたら、貴方なら打ち勝てるやも知れない」

「いや、お前何言ってんの?
 運命?
 そんなの関係無いだろ?
 今まで能力使ったこと無かったんだし。
 それより、打ち勝つって何にだよ?」

 死龍王は、骨をカタカタと揺らし、のらりくらりと質問をさける。
 
「そこまで知りたいのなら、竜の墓場に来ればいい!
 私が嫌いなのはアインその人ではなく、開拓者だ」

 意味の分からない事を話し出す死龍王。
 死にそうだからって、命乞いとかあり得な……。
 戦場に出た以上は、死ぬ覚悟だろうが!
 
 そして、デカイ竜を分解しだした。
 
「では、いつか会うその時まで!」

「逃げるのかよ!」

 慌てて追いかけようとするが、これまた沸いてきた腐敗龍に塞がれる。
 中には、新参と思える者もいる。
 違いと言えば、骨の色か。
 朽ちて茶色くなっているものではなく、血の色が付着して赤いのだ。
 多分、逃走用に残しておいたのだろう。
 
「私を追いかけるより、村に戻った方がよろしいのでは?」

 どこから聞こえるのかも分からない声が、忠告をしてくる。
 それは死龍王の声なのだが、どことなく態度が先程と変わっているような気がする。
 それは、先程の言葉と関係があるのだろうか。
 俺=開拓者だと思っていたのだが…………。
 
「何でだよ?」

「それは、戻ってからのお楽しみです。
 唯一助言できるのは、貴方の望む結果では無いということだけですな。
 それでは、帰りますから」

「ちょ、ちょっと!?」
 
 撤退を始める腐敗龍ら。
 あいつめ、色々な謎を残して去っていきやがった。
 これだと、竜の墓場とやらに行くしかないじゃないか。

 それより、村に何があるんだろうか?
 良いもんじゃあ無いだろうし、要らないプレゼントだろう。
 時間もなさそうなので、分身体を回収してから村に向かって飛びながら考える。
 
「――――まさか、挟み撃ちか!?」

 気付いて村の場所を探すが、一人では村に入ることが出来ないのを思い出した。
 どうすれば良いのか……。
 いや、こういう時こそ核に聞こう。

(核、村に入りたいからルシオに繋いでくれ)

《はい、ルシオと接続中――――》

《完了、切り替えます》

(おい、ルシオ?
 エリアーヌに頼んで、村の入り口を開けてくれ!)

《それどころじゃ無いんですよ!
 次から次へと猪狂族オークが沸いてきて…………ってこいつ、邪魔をするな!
 ふぅ…………。
 そんなことなので、エリアーヌさんがどこにいるか分かりません。
 なので、豚狂族オークが入ってきてる結界の亀裂を探して、そこから入ってください!
 じゃあ、失礼します》

「やっぱり、そんなことか……」
  
 だが、聖域の結界が破られるとは。
 これは非常事態と言えるだろう。
 しかし、結界の亀裂を見つけるというのは辛い。
 そもそも、どの程度の範囲なのかも理解していないのに、無理があるだろう。

 そんなことを思っていたら、空間把握に何か引っ掛かった。

「ん?
 あれは何だ?」

 見れば、数キロにも及ぶ緑の川のような物が出来ていた。
 それは、よくよく見ると蟻のようにうごめいている。
 近づくにつれて、それは大きくなっていき――――

「うわっ!?
 あれが猪狂族オークか?」

 顔は猪のようであり、立派な牙が二本生えている。
 そして、身体は緑色であり、姿形は人に似ている。
 身に付けているのは、麻で出来た腰巻きだけである。
 中にはメスだろうものもいるが、オスとさして変わらない気がする。
 違うのは、胸元に麻の布を巻いているか否か。
 持っているのは、棍棒や斧。
 いずれも、近接武器のみだ。 
 かなり攻撃的に見える。
 
「あれを辿れば、亀裂が見つかるんじゃないか?」

 これは名案だ!
 とばかりにスピードをあげて猪狂族オークの群れを追う。
 下にいる猪狂族オークが時々上を見上げるが、届かないことを分かっているのだろう。
 なにもしてこない。
 いや、斧なんかを投げてきたらやり返しに行くので問題はないが。

 そして、翔び始めてしばらくして、群れが消えていく場所を見つけた。
 
「あそこか……」

 空中に、人一人入れるか入れないかぐらいの大穴があった。
 その向こう側には、鳥獣族ウィンデンの村が見える。
 おそらく、あそこであろう。
 猪狂族オークが続々と穴になだれ込んでいく。
 少し上からその光景を眺め、中に入る手段を考える。

「邪魔だが、むやみに刀を使って穴が閉じたら困るな。
 だからと言って、他には方法が無いし……。
 仕方無い、徒手空拳で行くことにするか」

 袖をまくり、軽く身体を伸ばした。
 ずっと空中にいたので、身体が鈍っているかも知れないからだ。
 そして、核に命令する。

(殴っても痛くない、手袋を用意してくれ)
 
 アインがイメージしたのは、農作業に使う手袋だ。
 最適化すれば、かなり良いものとなるはずだ。

《完了。
 実行します》

 おっと、はいかいいえさえも聞かれなくなった。
 いや、実行するので構わないのだが、何だか寂しい。
 友達が減ってしまった気分である。

 そして、手の周りには魔方陣が展開された。
 服の時と、同じである。
 謎の煙がもくもくと出てくる。

「ゴホッ、ゴホッ。 
 もうちょっと排出量抑えてくれないかな……」

 視界が確保できなく、息をすると鼻に入る。
 ひんやりとするので、咳が出る。

 そんな中、ぼけーっとしてると煙が晴れてきた。

「おお!
 中々良いな!」

 手には、これまた薄い布で出来た手袋がはめられていた。
 茶色を基調としたデザインで、間接部分には灰色の生地が幾重にも重ねられている。
 試しに手を開いたり、握ったりする。

「違和感が全然無いし、これなら大丈夫そうだ!」

 気圧で具合が悪くならないように、ゆっくりと地面に降りる。

「「グァァオ?」」

 すると、猪狂族オークが一斉にこちらを向く。
 なんか、はずかしいんですけど……。
 見ないで?
 ね?

 なんて聞いてくれる訳がない。
 目を爛々と輝かせ、こちらに走ってきた。

「来んなよ!」

 迫り来る猪狂族オークに慣れない打撃を繰り出すが、中々効いているようだ。
 相手に触れた瞬間、衝撃波が敵を貫通するのだ。
 一発で気絶するか、血を吹き出して倒れる。
 酷い光景だが、正当防衛なのだから仕方があるまい。

「ギャイッ!?
 ギョギャア、ギィギェア!」

 気持ち悪い声を出しているが、無視して穴へと進む。
 途中斧を振りかぶってくる奴が居たが、足を引っ掻けると斧を手から滑らせて、頭上に投げ上げて転んだ。
 そして、頭上にあった斧が落下し、頭を砕く。

「うわぁ……」

 やっぱり、こういうグロテスクなのは苦手だ。
 打撃系の武器は使わないようにしよう、と心に決めた。

 そうやってしばらく殴っているのだが、手に痛みは無い。
 かなり高性能のようだ。
 
「ギョギャア!」

 学習能力が無いのか、仲間がやられても我先にと殴りかかってくる。
 全て軽くいなしているのだが、何やら規則性を感じた。

 死んだ仲間の身体を喰らっているのだ。
 それも、喰った猪狂族オークは少しでかくなっている。
 おそらくだが、身体に残った魔力を食っているのだろう。
 本当に下品な奴等だ。

 そして、メスの猪狂族オークを殴り飛ばすと、亀裂が見えた。

「やっとか!」

 駆け足でそこへ行くと、空間の歪みのような物が見える。
 そこだけ、景色が不安定なのだ。
 掘っ建て小屋が写ったり、畑が写ったり。
 地面を見ると、ひしゃげた猪狂族オークの頭や粉々になった斧が散乱していた。
 
「変なタイミングで入ったら、身体が引き裂かれるのか?
 だとしたら、周期を見ないと……」

 全く面倒なことだ。
 そして、亀裂を観察した結果、景色が変わるのは五秒に一度ほどと分かった。
 勿論、猪狂族オークを殴りながらであるが。

「よし、覚悟決めるぞ!」

 この法則に確信を持ち、亀裂に飛び込む。
 すると、身体に激痛が走った。
 身体の両側から引っ張られているような痛みが続く。

「うっがぁ!?」

 それも長くは続かなかった。
 急に地面が見えたと思うと、大地にキスをさせられた。

「うぶっ!?」

 後転する形で足が回ると、ブリッジの完成だ。
 身体が柔らかい訳でも無いので、腰の骨がビキッと音をたてた。

「いってぇ!」

 直ぐに横になり、腰をこする。
 特に意味が無いことは分かっているのだが、そうしてしまうのだ。
 亀裂から猪狂族オークが来るかもしれないので、一応道の端による。
 あんな重そうな身体で乗っかられたら、簡単にぺしゃんこになるからだ。
 後日、絵画として売られているのも困るしな。

「あたたた……」

 ゆっくりと立ち上がり、身体の調子を確認する。
 腰の痛みは治まらないが、我慢するしかないだろう。
 腕を回し、頭を回して……。
 他には以上が無いようだ。
 
「さてと、ルシオ達を探すかなぁ」

 辺りを見渡しながら走り回るが、オークの死体どころか、味方の姿さえない。
 焦って同じ道を辿るが、結果は変わらない。
 
「これは……?
 変な迷宮にでも迷い混んだのか?」

 そう呟くと、いつの間にか目の前に少女が現れた。

「変なものじゃあ無いけど、ここは迷宮だよ。
 君は、ここで死ぬんだよ!」

 少女は、にこやかに笑みを浮かべ、アインに死亡宣告をした。

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