無能力者の少年は、最凶を破る最強へと成り上がる~魔王、勇者、古代龍? そんなもの、俺の前じゃあ珍しくもねぇ~

異端の雀

11話 「皆に囲まれて」

「魂が離れません……」

 エリアーヌは、ため息をついた。
 いや、魂が離れないのは良いことなのである。
 しかし、この場合はあまり嬉しくないのだ。

「これでは、身体の衰えが進むばかりであるな……。
 やはり、薬をかけた方が良いのではないか?」

 魂が離れないが、身体の衰えは進む。
 そして、やはり薬をかけたいアルヴァス。

「まあ、落ち着いて下され、アルヴァス殿。
 ほら、少しずつ分離が始まっているらしいですぞ!」

 良く目を凝らすと、青い何かが、アインの身体を覆っていた。
 あれが、魂なのだろう。
 そして、それは少しずつ身体から離れていく。

「では旋風センプウ、始めて!」

「はい」

 エリアーヌが旋風に命令する。
 すると、アインの身体を覆うように透明な立方体が形成された。
 それは、全てにおいて完璧な。
 そして、美しい立方体。

「これより、魂を隔離します」

 旋風は、周りに宣言する。
 そして、立方体を小さくしていく。

「これでは、アインの身体が押し潰されてしまうのではないか!?
 心配である……」

「いや、対象をアイン様の魂に限定しております。
 なので、身体に作用することはまずあり得なく、隔離することで、魂の質を保ちます」

「うむ……。
 それでも心配なのだ……」
 
 アルヴァスは、どうも過保護らしい。
 心配性であるというか、古代龍らしくない思考である。
 こんなで、今までどうやって生きてきたのか、謎である。

 そして、その間にも立方体は小さくなる。
 やがて、魂は完全に身体から離れ、立方体に収まった。
 
「完了しました」

 立方体は、旋風の手に収まり、エリアーヌへと手渡される。
 それを、エリアーヌは慎重に受けとる。

「それでは風花、これを持っていて。
 くれぐれも、丁重に扱うのですよ?」

「はい」

 今度は、エリアーヌから風花へと手渡される。
 風花は、手と立方体の間にクッションを具現化する。
 そして、落とさぬように膝まづいて受け取った。

「では、ここからです。
 さあ、来ますよ」

 脱け殻となったアインを、彼らは注視する。
 
「さて、鬼が出るか、蛇が出るか……」

 アルヴァスが呟く。

「いや、死龍王カースドラゴンですけどね。
 そういう意味じゃ、蛇に近いのですかな」

 例えを、冷静に分析するセルケイ。
 こいつには、冗談が通じないらしい。
 本当に馬鹿である。

「でも、死龍王カースドラゴンの能力って本当に不明なんですよね。 
 数百年単位で生きているそうですけど、その姿を見た者はほとんどいないとか」

 エリアーヌは、死龍王カースドラゴンの能力について探りをいれる。
 知っている者が要るわけでもないので、特に意味はないが。

「我でさえ、一度しか見ておらんからなぁ」

 アルヴァスは、匂わす。

「え?
 一度でも見た事あるんですか?」

「ああ、以前我に不死アンデッド兵士・ソルジャーを大量に送って来たことがあってな。
 どうやら、我の事が嫌いだったようだ。
 その時、ご丁寧に自ら挨拶をしに来たのである。
 喧嘩を売った覚えはないが、面倒なので取り合えず壊滅させたのだ」

 面倒くさそうにアルヴァスは話すが、今回の来襲に関連がありそうだった。
 
「壊滅させた!?
 一体どうやって?」

 エリアーヌは、驚きのあまり大声を出す。
 
「結界に閉じ込めたのだ。
 中の魔力を吸い続け、それで結界を維持するという物でな。
 夢幻ファントム之繭・コクーンの知識を利用した魔法なのだがな!
 てっきり、消滅したかと思っていたのだが、執念深い奴よ」

「な、何と…。
 アルヴァス様の言うとおりだとするならば、死龍王カースドラゴンが生きてるはずは無いのですが、どうしたのでしょうか」

 この戦いの最善策にも思える魔法だが、死んでいないのなら意味がない。
 まずは、死なない理由を解明する必要があった。

「ア、アイン様の身体に!?」

 アインの身体を観察していた、セルケイが叫ぶ。
 どうしたものかと、エリアーヌらが身体を見ると……。

「こ、これは!」

 紫色の魔方陣が、アインの身体の上に刻まれていた。
 それは、アインの身体を覆うように広がっていく。

「旋風、隔離を!」

 エリアーヌが命ずると、返事をする間もなく旋風が能力を使用する。
 またもや透明な立方体が展開されるが、激しく能力と魔方陣が衝突する。

「くっ、強すぎます!
 これは、魔力で押されてる訳では無いようです!
 何か別の、重たい何かが……」

――――パリィィィィン。

 立方体は破壊され、再度魔方陣は広がり始める。

「待て、重たいだと?」

 アルヴァスが反応する。
 
「質量があったのか?
 それで、操られるような感覚はあったか?」

「え、ええ。
 それと、強い生への執着を感じました」

 フッとアルヴァスは鼻で笑った。
 スッキリしたような顔をして、息を吐く。

「なんだ、種が分かってしまえば、どうってことがないな。
 恐らく――――フンッ!」

 アルヴァスは手の平から、青い炎のような物を飛ばした。
 そして、魔方陣に正面から衝突する。
 すると、アインにまとわりついていた魔方陣が消滅した。
 いとも簡単に。

「え?
 何をしたんですか?」
 
 エリアーヌらは呆気にとられた。
 
「あれの正体は、魂だ。
 旋風がいなければ、気づけなかったであるぞ。
 なにせ、魔力には質量が無いのだからな」

「魂ですか?
 ですが、アイン様の魂はここにありますよ?」

 そう言って、風花が持っている正方形を指す。
 そして、風花はそれを、アルヴァスの前に提示する。

「違う、アインの魂ではない。
 あれは、死龍王カースドラゴンの魂だ」

「でも、魂は一つではないのですか?
 魂が複数あるなんて、聞いたことがないのですが……」

「物分かりが悪いな。
 これは、死龍王カースドラゴンの能力だ。
 魂を分割して、骸という依り代へと移す。
 そして、それは操られるのだ。
 ようやく分かったのだ!
 道理で、あの結界から逃れられた訳であるな」

 アルヴァスは、感心しているようだった。
 手を顎に当て、深くうなずいた。

「なるほど。
 では、魂はいつか無くなってしまうのではないですか?
 骸なんて直ぐに破壊されてしまいますし、魂は拡散してしまいます」

「それを含めて能力なんだろう。
 魂を分与体に移すが、肉体が消滅するとそれを回収するようなものだな。
 もしくは、回復するのだろう。
 でなければ、大量になど操れん」

 すると、エリアーヌは顔をしかめた。
 そして、セルケイが話に割り込む。
 
「それでは、勝算はあるのですか?
 一気に魂を破壊するしか無いでしょうが、どこかに身体を隠してあったら、永遠に死ぬことはありません」

 セルケイは、諦めたような口調でそう話すが、アルヴァスの目には希望の色しか無かった。
 笑みを浮かべ、楽しそうに。

「それは、我に任せろ。
 魂の繋がりを見ることぐらいは、我でも出来るからな」

 エリアーヌは暗い顔を上げ、アルヴァスに話しかける。
 その目には、涙が浮かんでいた。

「では、私達の戦力は全て村に注ぎます。
 よろしいですか?」

 アルヴァスの小さな手を握り、エリアーヌは願った。

「勿論だ。
 他にも作戦はあるからな」

 エリアーヌは、かつての命の恩人にまた助けられる事になる。
 よって、感謝の意は増すばかりである。

「では、アイン様の魂を戻しましょうぞ!」

 セルケイがアインの蘇生を急ぐ。
 段々と、アインの身体が冷たくなっていくのが感じられたから。
 慌ててエリアーヌは懐から薬を出す。

「まず、魂を戻すのです。
 旋風センプウお願いです!」

「はい!」

 旋風は、透明な立方体を出現させる。
 そして、あろうことか身体を隔離した。

「貴様、敵か!」

 アルヴァスが臨戦態勢をとるが、セルケイが押し止める。
 それで、仕方無いとばかりに手を引くアルヴァス。

「では、これより魂と身体を結び付けます」

 旋風は二つの立方体を空に浮かせる。
 すると、二つの立方体は互いに引き合って合体した。
 そして、一つの立方体となったが、身体の形に合わせて縮小していく。
 すると、アインの魂が身体にするりと入っていく。
 その瞬間、身体が淡く輝いた。

「おおっ!」

 思わず、アルヴァスは感嘆の息を漏らした。
 何とも幻想的である。

「完了しました。
 アイン様を解放します」

 アインの身体はゆっくりと下に下ろされ、地面に置かれる。

「これをかけて、終了です」

 エリアーヌは、カポッ!
 という音をたてて小瓶の蓋をあける。
 そして、それをアインに振りかける。 
 
 液体の薬は、空気に触れると粉末になり、アインの身体の上を舞う。
 まさに蘇生、これぞ蘇生。
 な感じだった。

「これで、処置は終了です。
 後は、目を覚ますまで待つだけです」

「ふうぅ……」

 取り敢えず一安心なアルヴァスであった。
 しかし、まだ生き返っている訳ではない。
 気を張り巡らしている必要があった。
 すると、アルヴァスは肩を叩かれた。

「アルヴァス殿、お願いがあるのですが……」

 セルケイだった。
 申し訳なさそうにお願いをする。

「何だ?」

「蘇生が完了しても、アイン様を絞め殺さないで下さい。
 ですので、抱き付き禁止です」

 思わず、アルヴァスの歯が浮いた。
 そして、わなわなと震える。

「仕方無いのであるな……」

 拳を固く結び、欲求に耐えることを決めるアルヴァス。
 それを見て、周りはほっとした。

「いっつぁぁ……」

 どうやらアインは、目を覚ましたようだ。
 ぼやける視界が鮮明にならないまま、頭を押さえて悶えている。

「なんだよ!?
 頭が割れそうだぁ!」

 地面に頭を打ち付け、頭をかきむしって痛みを和らげようとする。
 しかし、それはあまりにも無謀で……

「いてぇぇぇぇぇぇ!」

 痛みは止まることを知らなかった。

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