無能力者の少年は、最凶を破る最強へと成り上がる~魔王、勇者、古代龍? そんなもの、俺の前じゃあ珍しくもねぇ~

異端の雀

10話 「不思議な村」

 ああ、不思議な夢を見た。
 それは、不思議な世界で自分の過去を振り替えり……

「アイン、アイン!」

「あぁぁ……。
 何だ……よ」
                     、、
 まだ、寝ぼけているというか、夢を見ている気になっているアイン。
 目を擦り、辺りを見渡す。
 そこは、見たことの無い場所だった。
 木々が辺りに生えており、先程まで砂漠だった様子など微塵も感じさせない。
 そして、彼をエリアーヌやアルヴァス、セルケイらが囲んでいた。

「あ、中に入れたのか!」

 身体を起こして状況を理解する。
 どうやら、無事?
 中に入れたようだ。
 しかし、周りには村とおぼしきそれは無い。
 アインは、きょろきょろと首を振りながら、疑問を口にしようとする。

「村は一体…………ふぐぇ!?」

 しかし、それはアルヴァスによって遮られた。
 
「我輩、凄く心配したのであるぞ!
 良かったである!」

 目で捉えられぬほどの速さで、アインに抱きつく。
 見かけは幼児であるとはいえ、その正体は龍である。
 当然、抱き締める力は半端ではなく……。
 
「ちょっと待て!?
 痛い痛い痛い痛い痛い!
 ほんとに死ぬから!」

 アインの身体のあちこちが、悲鳴をあげている。
 メキメキ、バキバキ、ゴキゴキ。 
 凄まじい破壊音が彼の身体を伝い、鼓膜に直接響く。

「ふぅ、スッキリしたのだ」

 満足したのか、満面の笑顔でアインから離れるアルヴァス。
 その周りは、アルヴァスの包容力に――――いや、龍の片鱗に驚いた。
 あんな力で何かせがまれたら。
 何かキレられたら、人たまりも無いだろう。

「――――」

 アインは、気絶しながら痙攣していた。
 プルプル、プルプルと。
 顔は、かなりひきつっている。

「取り敢えず、良かったですね!
 アイン様がここに入ることが出来て」

「しかし、何故こんなに時間がかかったのだろうか?
 扉に触れるだけで、良かったはずなのだが」

「うーーん……。
 前にも同じようなことがありましたが、その方は……」

「確かテグスだったのではないか?」

「ええそうです。
 覚えてらしたのですね!
 さすがアルヴァス様です!」

 どうやら、バカ親子にだけ反応するらしい。
 ということは、理由は一つしかない。

「うむ、魔力容量が大きかったからだな。
 遺伝か知らないが、これまたえげつないのだ。
 我より多いなんて、数が知れておる。
 もしくは――アレの因子によるものか……」

 これは、強者故のデメリットと言うことか。
 メリットばかりではない、ということらしい。

「アイン殿、アイン殿ー!」

 セルケイはというと、必死にアインの身体を揺すり、意識の覚醒を促していた。
 段々、アインの生気が消えていってるのは気のせいか。
 顔も青白くなっていっているような。
 いや、気のせいではなく――――

「のわぁぁぁぁ!?
 アインが、口から泡を吐いておるぅぅ!」

 内臓が圧迫され、死にかけているのだろうか。
 アルヴァスは、流石に慌ててアインに駆け寄った。

「退けてください」

 エリアーヌは、おろおろと走り回っているアルヴァスと、アインを激しく揺さぶるセルケイに、よけるように言う。
 そして、純白の布で覆われた物を懐から取り出す。

「これは、私の姉から貰った薬です。
 これを振りかければ、たちまちアイン様は元気になるでしょう」

「では、直ぐに……」 

 アルヴァスが手を伸ばし、薬をエリアーヌから取ろうとする。
 しかし、エリアーヌは絹のような艶のある手で制止する。

「いえ、よろしいのでしょうか?
 死に近き体験をすれば、死龍王カースドラゴンに関する手掛かりを見付けられるかも知れません」

 慎重に、そして緊張感を持って問いをかける。

「そんな事言っていられるか!
 死んでしまったら、元も子も無いであろうが!」

 青筋を立てて、アルヴァスは怒鳴る。
 そして、エリアーヌから無理矢理に薬を奪い取ろうとする。

「いけません、アルヴァス殿!」

 それを止めようと、セルケイが二人の間に滑り込んだ。
 さっきまで、頭を下げまくっていた者と同一人物だとは思いもしないほどに、その目には真剣さと聡明さが表れていた。

「な、なぜお前らは邪魔をする!?
 アインが死んでしまっても良いと言うのか!」

「いや、違いますぞアルヴァス殿。
 何も、アイン殿に死ねと言ってる訳ではございません」

 そっと手を下ろし、アルヴァスを見つめるセルケイ。
 そして、アルヴァスの肩に手を乗せる。

「では、何だと言うのだ!」

 アルヴァスはセルケイの手を振り払い、ギリギリ胸ぐらを掴んだ。
 セルケイの胸元の毛が引っ張られ、真っ白な鳥肌があらわになる。
 だが、抵抗する素振りは見せない。

「私だって心苦しいのです。
 しかし、相手は古代龍ですよ?
 これと言った勝算がなければ、無理矢理にでもここを捨てるしかありません。
 そうしなければ、多くの命が失われるのです」

「それは……。
 だが、アインを放置する理由にはならないであろう!」

「そうです。
 しかし、それしか方法はありません。
 アイン様の魂が離れる瞬間、その魂を隔離して身体の様子を見ます。
 死龍王は、死体を操るようですから」

 なけなしの作戦であると、エリアーヌは語る。

「隔離する方法はあるのか?」

 アルヴァスは、それしか出来ないことを悟った。
 それで、詳細を聞いてみることにした。

「それは、私の配下達にやらせましょう。
 来なさい、旋風センプウ風花フウカよ」

 エリアーヌは、何も居ない虚空に向かって命令する。
 すると、つむじ風が巻き起こり、いつの間にか少年?と少女?が現れた。

「アルヴァス様、紹介致します。
 向かって右側が旋風センプウ、左側が風花フウカでございます」

 エリアーヌが名前を言うと、二人はそれぞれ頭を下げた。
 少年?の方は、エリアーヌと同じく黄緑の髪をしており、小さな短剣を腰に身に付けている。
 少女?の方は少し濃い緑色の髪で、弓を背につがえ、ぱっちりとした目が特徴である。

「それは良いが、どうやるのだ?」

 少年?は、自分からとばかりに、手をあげる。

「俺の能力は、『螺旋スパイラル之檻・クリーティカ
 対象の隔離、又は拘束が可能です」

 続けて、少女?が言う。

「そして、私の能力は、『具現化ダブリス
 想像イメージを魔力で具現化する事が出来ます」

「ふむ、申し分無いようであるが、死龍王に身体を盗られたりはしないのだな?
 もしそんな事になったならば、我は貴様らを許さんぞ」

 睨みを効かせ、周りを威圧するアルヴァス。
 その後ろには、溢れる殺気と赤く燃え上がるような怒りが見える。
 
「そんな事にはさせません。
 私が全責任を持ちましょう」

 セルケイがアルヴァスの前に立ち、そう言う。

「いいえ、そんな訳には……」

 エリアーヌらがセルケイに遠慮を示すが、セルケイは曲げるつもりはないらしい。
 エリアーヌの前に仁王立ちし、庇うように立っている。
 ここでも、族長クランとしての責任を感じているのだろう。
 馬鹿っぽいが、結構ちゃんとした奴なのである。

「これは、戦いです。
 我等の居場所を守るため。
 そして、多くの命を繋ぐための。
 絶対に負けてはならないのです。
 そして、その責任を持つのは、族長クランである私の役目でありましょう。
 一任下され、アルヴァス殿」

 セルケイはさっと頭を下げ、手を胸に当てる。
 そして、声をかけられるその時を待つ。

 アルヴァスは、セルケイを見つめる。
 そして、仕方無いとばかりにため息をついた。

「はぁ……。
 認めてやらんこともないが、先ずは力を示せ。
 実力を見てから、判断しよう」

「わ、わたしですか!?
 そんな、滅相もなく……」

 セルケイは下を向き、あせあせと手足を動かす。
 冷や汗を垂らし、動揺しているようだ。

「いいから、黙って力を示すのだ」

 嫌々ながら、アルヴァスに流されるがままに空へと翔んでいくセルケイ。

「ここら辺でよろしいでしょうかね?」

「ああ、早くするのだ。
 アインの容態は、一刻を争うのだからな」

 セルケイは、目を閉じて何やら念じ始めた。
 
「我の身体に流れし血は、気高く、強く、聡明である。
 我の魂に刻まれし能力は、『力之奔流ゼルエル
 故に、絶対なる王として君臨する者なり!」

 セルケイが身体を大きく広げると、背中に翼が二本生えた。
 それだけではなく、彼の筋肉が膨張する。
 
「何と……」

 あっという間に、背丈は元の倍ほどになる。
 その姿は、能力名の如く、力を身体全体で表しているようだった。

「さあ、いきますよ!」

 セルケイの声が合図となり、戦闘は始まった。
 まずは翼を羽ばたかせ、強風を送る。

「くっ、小賢しいぞ!」

 見事に、アルヴァスの視界を塞ぐことに成功した。
 そして、その間にアルヴァスの懐まで急接近する。

「ハッ!」

 セルケイは、拳を勢い良くアルヴァスに向けて放つ。
 風をきり、まさにその道の達人と言うべき速さで。
 
「甘いぞ!
 フンッ!」

 アルヴァスは、巨体の一撃を小さな身体でいとも簡単に受け止める。
 そして、次の一撃を塞ごうと、左肩に打撃を加える。
 
――――パンッ。

 気持ちの良い音が、空に響く。
 
「がぁっ、うぬぅ!」

 痛みを我慢し、左腕で速さだけを追求したパンチを、アルヴァスの顔に放つ。
 反射的にアルヴァスの手は顔に向かい……。

「しまっ――」

 時、すでに遅し。

――――ゴンッ。

 セルケイは、備えていた右腕で腹部を狙った。
 そして、その打撃は命中する。

「どうです……か?」

 身体を前傾にし、息を荒げるセルケイ。

「ふぅぅっ……。
 中々に重みがあるようだが――。
 隙だらけであるぞ!」

 アルヴァスは一瞬よろめき、頭を押さえた。
 しかし、それは一瞬である。
 勝ったと思い油断していたセルケイの顔面に、アルヴァスの渾身の打撃が食い込んだ。

「へぶうっ!?」

 巨体は、アルヴァスの一撃で軽々と吹っ飛ぶ。
 一回転、二回転、三回転と空中で回り続け、下に広がる森林に沈む。
 
――――ドォーンッ。

 遥か下にて地鳴りがし、砂煙が舞い上がった。
 そして、セルケイが上がってくる様子はない。

「ふっ、及第点だな。
 まだまだ、我には及ばないのであるぞ!」

 声高らかに勝利宣言をし、セルケイへの言葉も送る。
 だが、その顔は笑っており、実に幸せそうであった。
 久し振りに友にあったかのようで。

「そうだ、アイン!」

 あまりに戦闘に集中していたアルヴァスは、アインの事を忘れていた。
 
「アインが見ていたら、怒られていたであろうな……。
 危なかったのだ」

 いや、アインは見ていないのだが、エリアーヌ達が見ていた。
 本人は、大丈夫だと思っているようだが……。

「あんなに楽しそうに……。
 後で、アイン様に言うのです!」
 
 周りの目は、誤魔化せないのだ。

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