異世界の名のもとに!!

クロル

第11話 家族入り

「歩きづらいんだけど」

「良いじゃないですか~」

 美鈴はそう言って離れようとしない。

どうも、ボクがクルと二人で出掛けたことが気に食わないらしい。仕方ないだろと言っても、まぁ美鈴の事だ。許しません、と返ってきた。

 今は、王都を出て森に入ったところか。

ある程度道は覚えている。と思っていたのだが、全然わからない。森の中の小道は憶えにくい。

「ねぇ、クル。良かったら道案内、もう一回お願い」

 ボクはそう言って後ろを振り返った。

ボクは先頭を歩いていて、横に美鈴がいる状態だ。

「お兄様のいじわる…」

「え、何か言った?」

 声が小さくて何か言ったのはわかったが、何て言ったのか聞き取れなかった。

「何でもないです!」

 少し機嫌が悪いのか。荒い口調だった。

「そ、そう」

ボクが返事をしたのと同時にクルが先導してくれた。

 森の深くまで歩いているが、木洩れ日が無くなることはなく、代わり映えのしない光景が続く。

森林浴には申し分ないが、道を憶えるには少し厳しい場所だ。

 そうこうしている内に屋敷の前まで来ていた。

しまった。また道を憶えるのを忘れていた。

次も道案内してもらわないと行けるかわからないぞ。でも、頼りっきりってのもダメか。まぁ、それを考えるのは後にして、入るとするか。

「クル、案内ありがとう」

 そう言って、ボクはドアを開け、中に入った。

すると、玄関先でアルミスが立っていた。

「お帰りなさい、あなた」

「…何その勘違いされそうな言い回し」

「あら、言い回しなんてしてないのだけど」

 事が拡大する予感がする。

「と、とりあえず話を進めるけど、ボク等を呼んだ理由って?」

 まずは話を変えよう。本題でもある話をすれば美鈴も…。そう思って横を見たら美鈴がぶつぶつと何か言っている。そして後ろでクルが妙な笑顔を作っている。あぁ、遅かったんですね。

「あなた達を私のお屋敷に招待したのよ」

「招待?」

 どういう事だろうか。やっぱり掃除やり直しとか。いや、流石に違うか。そう考えているボクにアルミスは言葉を紡いだ。

「えぇ、簡潔に言うと……私達の家族になってほしい」

 どうして急に?

という言葉が頭の中を駆け巡る。

そんなボクとはうって変わってクルは、恍惚な表情になっている。どうしたものか、何かめんどう事が先に見えた。

 美鈴はまだ何か言っている。話を聞いていたか心配だったボクは言った。

「美鈴? この屋敷で住む事になったけど、美鈴はそれで良いのか?」

 ボクの声に気づいたのか、美鈴はこっちを見た。

「私は構いません。お兄ちゃんが良いのであれば、私もその選択で良いのです。ですが…」

 うわぁ、なんかアルミスを睨んでる。完全に誤解しているな。

「そんな、敵ばかり作らないんだぞ美鈴。あと、さっきのは冗談だよ」

「いえ、さっきのは本気の目でした」

 美鈴って、なんか鋭い所あるような。って、さっきの冗談じゃなかったの!?

「ま、まぁ落ち着こうよ。大丈夫だから、ね?」

 特に考えて紡いだ言葉ではない。簡易的に言っていた。

 そうこうしていると、アルミスが美鈴に近づいて言った。

「すごいのね、あなた。人の心を見抜くなんて簡単じゃないのよ?」

 いや、否定の言葉がひとつたりとも無いのだが。ルート分岐でもするゲームのような何かかな。

「私は、お兄ちゃんの…。私にはお兄ちゃんが必要なので、姉妹揃ってお兄ちゃんを取ろうとしないでください!」

 いつもよりトーンを低くして言った。

美鈴の声には、少し焦っているような感じがした。何を焦っているのだろうか。そう思っていると

「あら、ごめんなさいね。私は別にあなたを独りにさせようなんて思ってないわ。…あなたなら私のこの言葉が嘘かどうかわかるでしょ?」

 アルミスはそう言って、美鈴の肩に触れた。

美鈴は顔を上げ、アルミスの顔を見た。

「私は、わた、しは。……ごめんなさい、少し誤解していました」

 美鈴が落ち着きを戻した。やっぱり不思議な感じがする。アルミスは。

「少しは私達を信用してくれた?」

 アルミスは笑顔で言う。

「……はい。でも、お兄ちゃんはあげません」

「あら、しっかりしているのね」





「壱曁はこの部屋を使って」

 話が終わり、ボクと美鈴を部屋に案内してもらった。もらったと言うよりかは、流れでという方が正しいか。

 ボクがドアを開けると宿に置いていたはずの機具が置いてあった。

「アルミス、わざわざ取りに行ったのか?」

「えぇ、でも宿の人に怪しまれたわ」

 でしょうね。そりゃ、客人の荷物を見ず知らずの人が取りに来たら怪しむ。というか、普通渡さないだろ。日本ならそんな警備のゆるいとこ人来ないぞ。しかし、ここは異世界だ。日本のルールは通らない。次は気をつけなければな。

「美鈴は壱曁の隣の部屋ね」

 そのアルミスの言葉に重なる早さで美鈴は言った。

「お兄ちゃんと同じ部屋にしてください!」

「美鈴、たまには一人でもいいだろ? 前はそうだったじゃないか」

「お兄ちゃん……。わかりました」

 ボクの言葉に美鈴はしょんぼりして隣の部屋に入っていった。

「ちゃんとお兄ちゃんやっているのね」

「そうですか?」

 ボクは部屋に入る前にアルミスに礼を言って部屋の扉を閉めた。





「…お兄様ぁ、お兄様ぁ」

「あの、クル? ドアを少し開けて覗くのやめよう?」

「へへへ」

 またもや恍惚の表情でこっちを見ているのを無視して、ボクは機器のセッティングに集中した。



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