異世界の名のもとに!!

クロル

第10話 仕掛けと姉と口論と

 見た。




 白い部屋。病院の様なところ。どこかわからないこの場所は、しかし嫌な感じがする。
 瞬間痛みが走る。どこから? 全身から。
痛い痛い痛い痛い…
 肩…腹…頭…目…指…脚…………
「あぁぁああぁあぁ」
「痛い痛い…」




「っは……」
 どうやら眠っていたようだ。
「悪夢からの目覚めはきついなぁ」
 と、ため息をつき、顔を上げた。
 ここは何処? と言いたくなる場所に居た。見渡す限りだと牢獄の様なところだ。
 長細い鉄製の棒を見つけた。先端が曲がっていて何かを引っかけられそうな感じだ。そして、その棒を使えと言わんばかりの横に長い長方形の穴があった。
大抵こういうのは、奥に鍵があったりする。
……案の定、鍵があった。それを牢の鍵穴にさすと……よし、開いたぞ!
 そのあと脱出ゲームの様な仕掛けを幾つか解いて階段の前にたどり着いた。
「上から陽の光らしきものが見える」
 そう言葉を捨て、階段を上った。
「ここは……掃除の依頼を受けた館じゃないか」
 再び周りを見渡した。
 あ、そういやスリッパを履いていたんだ。謎解きに集中してて足下見ていなかった……この館は土足厳禁で、掃除の時もスリッパだったな。今思い出した。この歳で忘れっぽいのか……はぁ。
 いまいち、状況が呑み込めないんだが。
クルは何処だろう、探すか。そしてボクは歩み始めた。
 ホールに出た。左に玄関が見え、右には二階に上がる階段が見えるな。紅い絨毯が良い雰囲気を出していると、今さらながら感じる。
「クル居るか~?」
 返事はない、場所を変えるか。
 二階に上がると正面にドアがあった。左右には廊下が続いている。手始めに正面のドアを開けた。……あれ、掃除って一階しかしていなかったか? ……記憶が曖昧だな。
 広い部屋だな。奥に扉がある。あと、ピアノが端に置いてあるが、普通ピアノって一階に置くものじゃないか? 重さの関係上。まぁ珍しくは無いのかな。そう考えながら奥の扉に向かった。
 ギィィィ。扉は音をたてながら開いた。
 そこには、ベッドに寝転がった少女らしき人物が居る。
「ん~。あら、もう来たの?」
 そう言って、ベッドから起き上がって来た。
そして立ち上がろうとし、
「悪いけどそこにある服取ってくれない?」
 そう言われたので近くのテーブルに置いてあった服を手渡した。
「ありがと」
 一呼吸おいて言った。
「案外早かったのね」
「さっきの脱出ゲーム的な仕掛けですか?」
「そう。ただ単に外に出すのはつまらないでしょ?」
 つまらない…か。
ということは、牢にボクを入れたのはこの人か?
いやしかし、この人は初めて見る顔だ。……もはや聞くしかないかな。
「牢にボクを入れたのはあなたですか?」
「いいえ、私ではないわ」
 そして、やれやれといった顔で続けた。
「あなたを牢に入れたのはあなたのよく知る人物よ」
 よく知る人物か……。
そんな人は美鈴かクルぐらいだが……。
美鈴は今日はボクの近くにいないから、クルか?
そういや、ボクは途中で眠気に襲われ、その場に倒れたっけ。その時に聞こえたクルの声からすると、犯人はクルになるか。…怖っ
「あら、答えは出たみたいね」
 と、微笑んだ。
「クル?」
「だいせいかーい!」
 やけにテンション高いな、どうした。
「でも、それだとクルがそういうことする娘になるんだが」
「あの子はそういう娘よ」
「…それはどういう」
 ボクがそういうと、その少女?は立ち上がりこう言った。
「私、あの子の姉よ? 知らなかったのね」
 そう言って笑顔を見せた。 
 いや、納得がいった。クルがやけに楽しそうだったこと、依頼を既に決めていたこと。そして何より、怪しすぎだった。若干わかっていたような気がするが、まぁいいか。
「クルのお姉さんですか、これまた意外な人にあったなぁ」
 そうそうと手を合わせ
「まだ、私の名前を言っていなかったわね」
 そういや聞いていなかった。
「私は、アルミス・ヴァイライト・ディクリート。クルの姉にして、この館の主。そして吸血鬼よ」
「えっ」
 そうだったのか、全然気づかなかった。
これは盲点だった。
そう、驚いているボクにアルミスは言った。
「どう?驚いたでしょ」
 そうか、吸血鬼に会えちゃったのか。ゲームやアニメじゃよく観ていたが、現実で見ることになるとは。しかも話しちゃったよ。……歓喜!!
「……でも、やっぱり吸血鬼なんて嫌いでしょ」
 そう言って、ベッドに座った。
やはり迫害なんかを受けるのかな。
「ボクは吸血鬼好きですよ。大好きなぐらいです!」
 と、励ましと自分の趣味を合わせた言葉だ。
「あら、プロポーズかしら?」
「いや、違うかな」
「あら残念、だけどありがと。励ましてくれるなんて優しいのね」
 アルミスは笑顔になった。けど、優しいって言われるのは不思議に感じる。
「いえいえ、ボクは優しくないですよ。ただ単に吸血鬼好きなだけです」
「ふふっ、面白いのね。クルから話はよく聞いたけれど、そういうことなのね。クルが一目惚れするのもわかるわ」
 よくわからないが、何か納得してる様子だ。
「それはそうと、クルを探しているのでしょ?」
 そうだった。
「クルは今、この館にいないわ。あなたを牢に閉じ込めた後、嬉しそうに外に出ていったわ。何か買いに行ったのかもね」
 外に買い物か。それにしても監禁しようとした感じか? ……ヤンデレかよ
「ヤンデレかよ」
 あ、口に出ていた。
「そうかもね」
 と、微笑み そう言った。
「迎えに行って上げた方が良さそうよ」
「どうしたんですか?」
 丸くて大きな水晶体を覗いているアルミスに近寄って、水晶に目をやった。
そこには、美鈴とクルが口喧嘩している様子が映っている。これは止めた方が良さそうだな。
「それでは、ボクはこれでお暇させていただきます。いろいろとありがとうございました」
 挨拶を終わらせ、部屋を出ようとドアノブに手をかけた。
「あ、待って」
「なにか?」
 そう言って後ろを振り返った。
「クル達を宥めたら、3人でこの館に来なさい。いいわね?」
「は、はい。わかりました」
 掃除の続きかな。それとも他に何かあるのかな。
「あと、敬語は禁止よ。いい?」
「は、はい」
 あ。ボクの返答に頬を膨らませ、怒っている表情をつくっている。
「う、うん」
 先程の返答に改めて答えた。
「それでよし。じゃあ、テレポートしてあげるからそこに立って」
 そう言って、床に指を指した。
「ここでいいの?」
「そうそう」
「じゃあ、頼むわね。行ってらっしゃい」
 そう言って、呪文らしき言葉を喋っている。
目の前に光が生じ、ボクは眩しさで目を瞑る。


 気づけば、路地に居た。
「だから、どうして二人で行ったのかを聞いているんです!」
 美鈴の声だ。案外近かったな。
「私はお兄様と二人でクエストに行きたかったのです!」
 こりゃ、ひどくならない内に止めるか。
何となく気配を殺し、美鈴の後ろに立った。
「お兄様は、今いないって言っているんです!……あ」
 どうやらクルはボクに気づいたようだ。そりゃ気づくか。
「どうして居ないんですか!」
 クルはボクの方を指差した。美鈴に知らせているのだろう。
美鈴は指差す方向を向いた。
「お、お兄ちゃん!?」
「居たね。ここに」
 ボクはそう言った。
「お兄ちゃん!いったい何処に行っていたのですか?!」
「あぁ、少し…ね」 
「……お、お兄様。どうしてここに」
 一呼吸おいて二人に説明した。
「ボクとクルは依頼で館の掃除に行っていたんだ。……まぁ、そこでいろいろあってクルのお姉さんに会ったんだ。それからここに来たって感じかな」
「ざっくりしすぎですよ、お兄ちゃん!」
「まぁ、いいじゃないか」
 美鈴と話していると、クルが事を察してボクに言った。
「ごめんなさい…」
「謝るなら最初からしない」
 クルがションボリしていた。
「まぁ、楽しかったからいいよ」
「お兄様。…やっぱり好きです!愛しています!付き合ってください!結婚してください!!」
「はいはい。暴走するんじゃね~ぞ」
「流さないでください!」
 そう会話していると、美鈴が割って入った。
「お兄ちゃんは私のものです。渡しません。クルなんかに渡しません。絶対に…」
「まぁまぁ落ち着いて。これからクルの姉、アルミスに会いに行くんだから」



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