的外れな催眠チート ~面倒臭がりが召喚されました~
一人を選ぼう
アッシーを呼んで王城に乗り上げた。
毎度のことながら『助けてッス』とほざくダメ亜竜には、ご褒美をプレゼントすることで張り切ってもらった。
呼ばれているのは俺で、誰が呼んだのかを理解している王城内部の関係者は、ただ不憫そうな目でこちらを見てくる。
……妹のパシリとして動いている時も、そういう目が多かった気がするな。
「──たのもー、帰っていいか?」
「いきなりだな。だが、聞くべきこととやるべきことがあるから駄目だ。聴いておいた方が身のためだぞ?」
「……はぁ、分かったよ」
侵入した王の間に、すでにスタンバイしているメイドのリディア。
勝てない相手には極力逆らわない主義なので、大人しく王様の話を聞いておく。
「うむ──結論から言えば、異世界人が原因の問題だ」
「……本当、クソだなアイツら」
「イムも含めて、異世界人は問題を引き起こしやすい。どこかの問題児は別として、ほぼ全員がヴァ―プルの儀式魔法によって本性を曝け出しやすくなっているからな」
「……面倒だからツッコまないぞ」
俺以外にも、たしか効いてなかったヤツがいたはずなので問題児は俺じゃないはず。
それとヴァ―プルの儀式魔法、たしか言うことを聞くだけでやる内容まで縛らないはずだし……悪いのはアイツら自身じゃん。
「目的地はオーニキ。商人たちが集まる都市なのだが……最近は異世界の技術に悩まされていてな。どうやら、経済に悪影響が起きているそうだ」
「ふぅん、そりゃあ大変そうだ」
「技術はすべてヴァ―プルに吸い上げられ、異世界人はそれに構わずアイデアだけを送り続ける……このままでは、金の天下がヴァ―プルのモノになってしまう」
「まあ、それは大変なことですわ! ……これでいいか?」
しっかりと驚いたリアクションをしたはずなんだが……どうやらお気に召さなかったみたいだ。
「……フレイアの声でそういったことを言うのは止めてくれ。で、できるなら、もっとこう……『パパ、大好き』など」
「──何を言っているの、父上?」
「フ、フレイア!?」
「あら、本物が帰ってきたわ……ああ、お帰りフレイア」
残念、お父さんの細やかな願いは叶う間もなく防がれてしまった。
ご本人が来たのなら、当の本人にやってもらうのが一番だしな。
「なんで、イムの方が速いの?」
「俺には便利な乗り物があるからな」
「そう……それより父上、先ほどのお言葉はどういうことですか?」
「うぐっ! そ、それは……」
さて、俺に関してはどうしようもないと理解しているフレイアは、視線をすぐに自分の父親に向けて凍えさせる。
だがそんな事情はお構いなし。
声を直した俺は、改めて話を聞く。
「それで、俺はそこに行けばいいのか?」
「う、うむ。だが、これは外交も兼ねてのことだ。誰か一人、娘を連れて行ってほしい」
「…………」
「なんだ、その目は?」
そう尋ねると、プイッと別の方向に顔を逸らすフレイア。
メイドは何故かフレイアと俺を見て笑っているが……本当、なんでなんだろうか?
「まあ、いいや。ここに来るまでに、誰と行くかは決めてある」
「! …………」
「ふむ、してそれは誰だ?」
そして、その名を告げる。
◆ □ ◆ □ ◆
空を飛んでのまったり移動したかったのだが、着地点が無いのと外交だという理由のせいで歩いていくハメになった。
百歩譲っても、空間属性の魔法かスキルを使えばよいものを……。
「……い」
「まったく、面倒な旅路だよ。やる気が無い奴にはそれなりのサービスを用意しておくのが相場だというのに」
「……おい」
「とりあえず、目的地までは寝ておくか。やることは済んだし、あとはどうでもいいや」
誰かが呼んでいる気がするが、暗示で必要だと思った声以外はシャットアウトしているはずなので気のせいだろう。
そう、あくまで同行者の声以外はしっかり遮断しているので──
「おい、話を聞けよ!」
「……なんだ、人の耳元でそんなに大声を出して。仮にも王女様だろ? ならもっと、お上品さを大切にするべきだ」
「わざわざテメェに敬語を使う必要なんてあるのか? って、そうじゃねぇ! どうしてずっと無視してやがった!」
咆える第二王女を適当に嗜めるのすら面倒だったので、そのまま無視……したかったのだが、体を強引にシェイクされてしまってはどうしようもない。
まあ、スキルの補正で体の器官は無事だし回復魔法である程度は治せる。
何より暗示を掛けているので、そこまで辛くはならない。
「はい、はい。もう、分かった、から。それで、何が、言いた、い?」
「──なんでオレなんだよ!? フレイアが行きたそうだっただろ!」
とりあえずシェイクから解放してもらったので、そのお礼に質問に答える……なんだかマッチポップ感がいたたまれないが。
「じゃあもし、俺がフレイアを連れていこうとしたら?」
「ぶん殴る!」
「じゃあもし、俺がお前の姉を連れていこうとしたら?」
「ぶん殴る!」
つまり、選択肢など最初から存在しなかったわけだ。
重度のシスコンである第一王女より、物理的に干渉してくる分、第二王女の方が面倒だと感じたのでこちらを連れてきた。
──そんなこんなで、俺と第二王女による旅が始まったってことで。
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