的外れな催眠チート ~面倒臭がりが召喚されました~

山田 武

部屋に上がり込もう



「ただいまー」

「……本人が来るとはな」

 アポも無しに王城に乗り込んでも、全然気にされなくなった今日この頃。
 もちろん、謁見をしているかどうかは確認しているんだけどな。

「当代の魔王は召喚術に長けた魔王だった」

「なるほど、それでは避けておいた方がよいな。以降はどうする?」

「悪魔使いだ。どうしようもないだろ、そっちのメイドさんに任せたらどうだ?」

「──すぐに手配しましょう」

 俺の監視も務めた、例のメイド。
 視ようとしたステータスも偽装だったし、もう考えるのも面倒なくらい相性の悪い相手なので操ろうとは思わない。

 ……ただ、この国に関する面倒事の押しつけぐらいは構わないだろう。

 こちらもこちらで、奴隷たちにそういったことをさせているのだから、その分の派遣料ぐらいは頂かないとな。

「当然ですが、発案者であるイム様にもご助力願いますよ」

「……あっ、はい」

 まあ、全責任を負わなかっただけでもよしとするか。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 普段なら、真っ直ぐに屋敷に帰って自堕落な時間を過ごすのだが……メイドから仕事を頼まれてしまったため、それもできなくなってしまう。

 目的地の部屋に辿り着くと、ノックをしてから入室する。

「少し待──」

「…………」

 ここは第三王女の私室──当の本人はお着替え中だった。
 うん、部屋にいちいち立って待つのも面倒だったからな。

「な、なぁ……!」

 ベッドの上に座ろうと思ったが、触った感触がそこまでよくなかったので止めておく。
 空間魔法を使って台座を宙に浮かべ、そこに敷いた布団の上に寝そべる。

「よぉ、久しぶりだな」

「……殺していい?」

「いや、死にたくない」

 顔を真っ赤にし、怒りに狂う第三王女。
 何に怒っているのかよく分からないが、さすがに殺すという選択肢はないだろう。

「女の肌を見て、それに何も思ってない」

「いや、ちゃんと思ったぞ……ずいぶんと肌が白いなって」

「……そういうことじゃない」

「あとはそんな肌だし、もう少し外に出ればいいのにとか思ったな」

 プルプルと震える第三王女。
 その拳は強く握り締められており、今にも振りかざしそうだ。

「……もういい。来た理由は?」

「盗聴対策に結界を張りに来た。これは、あのメイドが俺に指示してきたことだ」

「リディアが……」

「リディア? まあ、とにかくそんなわけで外部に情報が漏れないように、する下準備を俺がやるってことになった」

 あのメイドが『リディア』なのだろうか?
 これは覚えておいた方がいいな──悪魔的にも某神隠し映画的にも、名前は相手を縛る手段として最適だし。

 メイドの名前を脳に刻み込み、それから結界の構築を始める。

「“結界空間”、“付与空間”。はい、これでおしまい」

「……お姉さまたちの部屋にも行くの?」

「いや、別に。というか、アイツらの所に行くの、なんか嫌だ」

「わ、私はいいの?」

 まあ、一番恐怖を刻んでいるしな。
 俺が相手の五感を奪うこともできる、そのことを知っている彼女であれば脅すことである程度楽ができるだろう。

「一番信用できるからな」

「……全然、信用できていない顔です」

「そうか? まあ、たしかに王城ならどこでもできることを、わざわざお前の部屋でやるぐらいだしな」

「そうなの?」

 空間魔法は展開する場所をしっかり把握できていれば、どこで使用しても魔力さえあれば発動可能だ。

 俺は知覚系スキルを魔物や人からコピーしまくっているので、一秒もかからずにそれができるんだよ。

「ただ、お前の父親が娘の一人ぐらいに構えと言ったからな。一番安全な、お前の所に来たわけだ」

「……安全?」

「戦闘能力皆無だしな」

「…………鍛えます」

 いや、鍛えなくていいから。
 外交担当として、その手腕だけを磨いてくれれば充分だ。

「と、いうわけでおしゃべりといこうか。なあ、第三王女。お前って、初めて会ったときと話し方全然違うよな」

「……別に、隠していたつもりはない。最初のは外向きの話し方」

「そうか? じゃあ、自分の姉たちにも俺に今話すような口調で話すのか?」

「だいたいは」

 特段、話したい内容があるわけではない。
 当たり障りのない、プロフィールにでも書かれるような質問をするだけだ。

「第三王女──」

「フレイア、そう呼んで」

「いや、覚えるのが面倒だ。肩書きだけ覚えた方が楽だろ」

「呼んで」

 今の俺は宙に浮いているため、睨み付けてもただの上目遣いにしかならない。
 ……まあ、北欧神話の女神の名前と関連付ければ別にいいんだけど。

「偶然に感謝するんだな、フレイア」

「だから、フレイア……えっ?」

「お前の名前を覚える気はないが、俺の世界にはフレイアって女神の神話があるんだ。俺はただ、お前の顔を見てその女神の名前を呼ぶだけだ」

「……今は、それでいい」

 納得していただけたようで何より。
 俺が妥協してやるなど、なかなかないレアな現象だと思ってほしい。

「イ、イム。そのフレイアって女神様はどういうお方なの?」

「……訊きたいのか?」

「うん、知りたい」

 そういうことなので、俺は覚えている限りフレイアを──性に奔放であった女神のやった……ヤったとされる話を語った。

 同じ名前を持つ第三王女だが、どうやらまだまだ初心な少女だったようだ。


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