的外れな催眠チート ~面倒臭がりが召喚されました~
直談判されよう
──権力者の『善処する』、それすなわち責任の放棄なり。
なぜか頭に過ぎった言葉である。
まあ、理由なら目の前にあるんだが……。
「お前って、バカだったの?」
「んだとっ!」
「ああいい、別に答えなくても。朝っぱらから人の家を叩いて入り込もうとして、メイドに捕まって家の主の下まで連れて来られた、哀れな姫様の話なんて聞きたくない」
「~~~~!」
パパッと纏めれば、そんな感じだ。
眠らせた第二王女だったが、二日もすればスッキリしたらしく俺の屋敷に強行突破を仕掛けようとしていたらしい。
優秀なメイド兼奴隷たちがそれを未然に組み伏せて防ぎ、武装解除までしてくれた。
「というか、朝からお前らもご苦労なことだな。わざわざ早起きとか、脳の異常を疑いたくなるよ」
「イム様のため、力を振るうのがわたくしたちの生き甲斐ですので」
「……ああ、そうなの? そうか」
そんな必要も甲斐もないが、やってくれるのであればそれでも構わない。
俺の固有スキル【催眠魔法】でそういう意識を作ることはできるが、この場合はこちらではなくもう一つのスキル──【停導士】が力を発揮したのかもしれないな。
「とりあえず事情を訊いてやるから、終わったらさっさと城に戻れよ」
「ふざけんなっ! オレだって、テメェなんかよりもっと会いてぇ奴がいる! けど、ダメなんだよ……今はテメェにしか、頼むことができねぇ」
「知らんよ……と言いたいところだが、それだと話をするモチベーションも無くなるか。まあ、好きに話していけ。ああ、そこのお姫様にも飲み物をくれてやれ」
「畏まりました」
アテラ(憶えた)に用事を伝えて部屋から出すと、その間に言っておかなければならないことを告げておく。
「先に言うが、ここの奴隷たちは自分たちから仕えることを志願した奴らだ。嫌ならここから解放しているし、そうでなくてもある程度の自由は与えている」
「……分かってるよ。オレを捕まえた奴らの目を見れば」
「ふーん。まあ、一々揉め事を起こさないならそれでいいや。俺自身が迷惑を被ったわけでもないし、うちの奴隷が練習の時間を減らされたと内心で思うだけだ」
俺も俺で、惰眠を貪る時間を奪われたわけだが……妹に命令されるためだけに起きる時間に比べれば、少しはマシであろう。
「──飲み物をお持ちしました」
アテラが部屋に戻ってくる。
奴隷のことを気遣うつもりはないが、日本人として労働三法ぐらいはしっかり守ってやるつもりだ。
けど、それがバレて一度面倒なことになったし……こうしてこっそりと話をした。
「さて、これを俺が飲み終わるまでがお前の話す時間だ。止めたいなら、手が止まるほどに面白い話をしてみろよ」
「……ったよ」
朝の報道番組よりは、楽しいストーリーを期待してはいるが……どうせ無理だろうな。
◆ □ ◆ □ ◆
『姉である聖人に、人のことを気遣いすぎる妹のために、何かがしたい』
結局、第二王女の話はそんな感じだった。
わざわざ細かいストーリーを気にする必要もないし、聞いた数十分がたった数十文字で纏められるほどに簡単だったので全部聴いてみたんだがな。
──物凄くシスコンだった。
やれ姉がこれをこうして凄いだの、やれ妹はここがこうだから可愛いだの、のろけ話を聞かされるとはこういったことなのか、というのを実感できた数十分だ。
「──これで、オレの話は全部だ」
「はい、ご苦労様。じゃあ、もう出ていっていいぞ」
「なっ!」
「俺がこれを聞いて、何かすると言った話を一度でもしたか? いやいや、そんな面倒なこと誓うわけないだろ。だいたい、お前が何かしたいのに俺を巻き込むなよ。俺はあの有名な【勇者】様じゃないんだぞ」
もちろんユウキであれば、協力するよとのたまって活動し、その間にこの第二王女を惚の字にすることなど容易かろう。
どうせなら、俺に向けて罵倒を放ち続ける第三王女もどうにかしてくれないかな?
「まあいいや、仮に俺が何かをしてやろうと思ったことにしよう。それでお前は何を俺にやらせるんだ?」
「──しい」
「ん?」
「力が欲しい! 異世界人と居れば、強くなれるんだろ!? なあ、頼むよ……あの二人にできることをしてぇんだ!」
ここでおさらい。
全異世界人共通のチートの一つに、魔石の確定ドロップを挙げたことがある。
その他にも、この世界の人から見るとチートだと思えることがあって──
成長・熟練速度向上&経験値増加
スキル版の(成長速度向上)と(経験値増加)の二つを俺は所持しているが、この場合はそれと相乗して効果を発揮するからチート認定がされている。
対象は異世界人が意識して仲間に迎え入れている者……つまり、本来の所持者であるユウキのハーレムパーティーにでも入れば、現地人でも強くなれるというわけだ。
「言いたいことは分かった。お前は俺を利用して、強くなろうとしたわけだ」
「……そうだ」
「けど、分かってるよな? 異世界人が仲間と認識するためには、それなりの時間か経験が必要だってことは」
「フレイアは、テメェと会ってからずいぶん明るくなった」
……ん、何を言っているんだろう?
全然変わってないし、これっぽっちも養ってくれる気がなさそうだぞ。
だが、ここで話の骨を折ると面倒臭そうになりそうなのでとりあえず放置しておく。
「どんなことだってする! だから、大切な妹の幸せを守る力を! 大切な姉の平穏を守る力をオレにくれ! 遠くに居る【勇者】に頼る暇なんて……もうねぇんだよ!」
結局、ここに行き着いてしまう。
いったい、姉に何があるというんだ。
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