的外れな催眠チート ~面倒臭がりが召喚されました~
もしもを知る
「──素晴らしい! 素晴らしいよ! まさか廃棄されたはずの個体が、ここまでの強さになるとは!!」
「死を望んでいましたので……貴方たちの死は、絶対に無駄にしません」
「ふっ、良い実験になったよ。改良の余地を見つけることもできたし、君という優秀な個体を発見することができた。これからはもっと優秀な個体が作りだせそうだ」
屍と化した人工聖人たちが、メィリィの足元には転がっている。
メィリィはただそれを悲しい目で見つめ、研究者は愉快そうな声で高い笑いしていた。
血塗られた剣はポタポタと滴り、血の海を研究室の中へ広げていく。
輩を犠牲にしたその光景を、研究者は喜劇としか見ていない。
「これから?」
「ええ、そうですよ! 貴女を母体にするのも良い! 貴女の細胞を培養して生みだすのも良い! 元の聖女もそれなりに優秀な存在でしたが、今の貴女はそれをも超える!!」
「……お断りです」
「貴女の意見などどうでもいい! 私の目的のための犠牲となってください!」
研究者は近くにあったボタンに近寄ると、勢いよく手を叩きつけた。
すると研究所が激しく揺れ始め、研究室の奥からナニカの影が現れる。
「いるんですよもう一人! ぜーったいに貴女では倒せない最強の聖人が! 唯一の実験成功体! ──さぁ、『彼女を殺せ』!」
現れたのはメィリィと同じ年頃の少年。
聖人特有の白髪に爛々と紅玉のような瞳を輝かせている。
口からは唸るような声が漏れ、全身に外れた枷が取り付けられていた。
「彼が……成功体? 全身にくっついているあれらは何?」
「見て分からないのですか? 彼と同期で生みだされた人工聖人ですよ。彼は適合する可能性を秘めた器! 使えなくなった貴女を彼に組み込むも良し! 彼に貴女を組み込むのも良し! 優秀な個体となるでしょう!」
「……そう、彼も似た存在なんだね」
少年の全身には、慟哭を上げる人工聖人たちの顔が埋められている。
彼の体もまた、四肢の所々が別人の物を繋ぎ合わせた物であり、目に至っては人工的に埋め込まれた魔眼だ。
研究者が成功体という少年は、ただ実験に耐えうる強靭な肉体を持っているというだけの器──そこに精神性など必要としていないのだった。
メィリィはそんな少年を見て同情する。
(もし、私があの人に助けてもらってなかったら……その場合は死んでたんだけど。そうじゃなくて、もし助けてくれたのがこの研究者だったら逆だったのかな?)
イムによって救われたメィリィだが、その立場が目の前に居る少年であったならば。
そして、この場で哂う研究者が成功体として実験に組み込むのが自分自身であったならば……似た境遇に共感し、そう考える彼女。
(……けど、私はあの人に救われた。そんな仮定は必要ない。死んだみんなの分まで私は復讐を遂げる。相手が誰だろうと関係ない、みんなの死は私がすべて受け入れる!)
覚悟を決めたメィリィは、剣に聖気を再度籠める。
神聖な光が血染めの剣に宿り、汚れた血液さえも聖人の血であるということで、キラキラと光り輝く。
「「──“聖迅(剣)”」」
その言葉を引き金に戦闘が始まる。
魔力を行使した肉体強化、その速度で行われる超高速のぶつかり合い。
剣を振り回して闘うメィリィに対して、少年は手刀に聖気を籠めて何倍にも手の強度を高めている。
一撃一撃が必殺と成り得る威力を秘めているため、先ほど以上に空間へ衝撃が伝わる。
「はっ、ははっ、はははははっ! 素晴らしい、素晴らしいよ君は! まさか彼に比肩する実力を持っているとはね! 欲しい、君と彼を交えた新たな聖人! それはきっと新たな高みへ至る鍵となる!」
「……狂ってる」
「それが構わないさ! たとえ狂人となろうとも目的は達せられる! 『半殺しだ』! なんとしても母体として手に入れろ!」
「グォオオオ!」
命令を受けた少年は、より苛烈にメィリィへ攻撃を行う。
異常なまでの聖気が籠められた拳戟は、彼女の剣をやがて破壊する。
「君の剣はもう折れた! 終わりだ、君の負けなんだよ!」
「まだまだこれから──『ニーニャ』!」
メィリィが叫ぶと、体に変化が起きた。
瞳は蒼色へ表情は勝気に、肉体はより引き締まった拳闘家のようなものへ化す。
「よっしゃあ、ここからはアタシの出番!」
メィリィから主人格をニーニャに変え、戦闘を続行する。
少年と同様に、彼女もまた拳に聖気を纏わせるスタイルで闘っていく。
「アンタは威力、アタシは手数。避けれるアタシの方が有利に決まってるさ!」
これまで以上の速度でニーニャは動き、少年の拳を掻い潜り拳をぶつけていく。
反撃を行おうと少年も抵抗するが、軽やかなフットワークでニーニャはそれを躱す。
「精神の変化、それに伴う肉体の変質……面白いですね。貴女を生み出した者にぜひ会ってみたいものです」
「そりゃあ無理ってもんだ、アンタはこれから死を迎えるんだからね!」
「ッ! どうしたんだ、動くんだ1号!」
突然体を硬直させる少年。
ニーニャの基となった聖人は、拳闘家であり暗殺者としての才を持つ聖人だった。
その技術はクローンであるニーニャにも受け継がれ、今回使用される。
経絡というツボを突き、人体の活動を一時的に制止させたのだ。
「1号ね……名前も与えなかったアンタじゃ分からないさ。アタシらはあの男にある意味救われてる。しっかりとした名前もくれたしな。だからおまけ程度には働いてやるさ、友人を救ってくれた恩人だし」
動きを止めた少年の前で、ニーニャはゆっくりと聖気を練り上げ足に溜め込んでいく。
「今はこれが限界か──“浸透勁”!」
力強く床を踏み鳴らすと、全身を捻る二―ニャ。
脚から響く力の奔流を、捩じった体を使い掌へ流していく。
掌は少年の心臓へ押しつけられ、そのままそのエネルギーを流し込まれる。
「聖気の耐えられなければ毒になんだろ? いくら何人も溜め込んだコイツでも、さすがにアタシらの聖気すべてを突っ込んだ一撃は耐えられないよ」
「グゥオオオァアアアアア!」
獣じみた悲鳴が、少年の体に付いたすべての口から上がりだす。
体内で聖気が暴れ、与えられた再生力以上の勢いで破壊活動を行う。
「ば、馬鹿な……1号が負ける、だと……」
「次はアンタだよ、クソ研究者」
中指をビシッと伸ばし、ニーニャは研究者へそう告げる。
少年の体躯が地面に伏せたのは、それと同時の出来事だ。
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