的外れな催眠チート ~面倒臭がりが召喚されました~
復讐を勧めよう
「よぉ、目が覚めたか?」
「……ん」
「なら充分だ。思い出しただろ?」
「ん、……ん」
震える体をギュッと腕で抑え、首を振る。
事実を事実として受け入れろ、そう暗示をかけた甲斐があったな。
「お前の友人は死に、生き残ったのはお前だけ。そしてあのままなら、お前は友人といっしょに死んでいた」
「っ!」
「何を驚いている、ここまでは全部起きたことの話だ。友の死を泣くのはいいが、それよりもすべきことがあるんじゃないか?」
「……なを、……ぶ……せな……と」
「成仏なんてさせなくていい。お前には、一つやってもらいたいことがあるんだ」
「? ……って、…………いこと?」
不思議そうな顔をする少女。
俺はスッと立ち上がり、辺り一面に広がる死体の山を指差して告げる。
「お前には、ここにいる全員の無念を晴らしてほしい……敵討ちってやつだ」
「……き?」
「俺がお前に力を授ける。それを使って、お前たちをこんな目に遭わせた奴らに、復讐するんだ」
「ふ……しゅう」
ゴクリと息を呑む。
見た目からして、そういう行為と無縁そうなヤツだもんな。
復讐するぐらいなら、自分の想いを胸に秘めて墓場まで持っていきそうな面倒臭そうな性格そうだし。
「無論、タダでとは言わない。どうだ、やれるか?」
「ふ、……しゅうは、……ます。で、で……ど、何…………せん」
「無償の復讐? それをして、お前に何が残るんだよ」
「わ、わ……は、あの……たちに、……られた。けど、……ャと……ナは、もっと……いこ……、させ……れ……た。だ……ら、……な人……ち──『野放しにできない』」
最後の部分だけ、くっきりはっきりとした意志を示す少女。
──作戦変更、面倒だから放置して見捨てようと思ったけど……案外面白そうだ。
「そうか……なら、今は眠れ。その間に、俺が力を授けておく」
「いえ、……たが……まです……つようは」
「やらせてくれ。それが、俺のためでもあると思って」
「……り……た。よ……く……いします」
意識を少しずつ弱くさせて、睡眠状態に落としていく。
同時に麻酔を使ったときのような状態にして、俺がナニをしても起きないようにする。
「まずは探すところから始めないと……あーあ、どうしてやる気になっちまったんだか」
理屈ではない、もともと理屈で生きる気がないから違っているだろう。
じゃあ本能か? と聞かれても、本能で考えるって意味が分からないから意味不明だ。
とりあえず俺は、使い捨ての玩具を思いのほか気に入ってしまったらしい。
だからシールを貼って、デコレーションをしようとしている。
「最初は全部突っ込めばいいと思ったけど、それだと壊れちゃうからな。ある程度制御できるようにして、セーフティー機能を付けておけば大丈夫か……嗚呼、面倒臭い」
そして死体の山を見て、ため息を吐く。
◆ □ ◆ □ ◆
その日、少女は不思議な男に救われる。
顔はよく見えず、どうやっても強く認識できない謎の男。
だけど記憶に深く刻まれていて、忘れることのできない変な人。
(強くなる……それって、どういう風に強くなるのかな?)
少女はもともと、我が強くない。
共に生活していた二人に引っ張られて生きてきたため、まだ自分を出すということをしたことがなかった。
そんな友人二人が亡くなり、思い出したくもない記憶に出てくる者たちがまだ生きていることに不快感を覚え……彼女は初めて、自らの強い意志で男に言葉を伝える。
しかし、そこで意志は途切れた。
以降の話は全て男が主導で進み、少女は男によって力を与えられることが決まる。
もともと強くなかったため、酷い目に遭ったことを考えると渡りに船なのだが、他者から優しくしてもらうという行為に慣れない少女は、今でもなぜか意識のある夢の中で悶々と悩んでいた。
──どんな風に強くなりてぇんだ?
(ニーニャちゃんみたいに、いつでも活発でいたいかな?)
──どんな風に強くなりたいの?
(ヒューナちゃんみたいに、変わらず明るくいたいかな?)
どこからか聞こえた問いに、少女は自身の胸の内を曝け出す。
彼女には二人の友人しかいなかった。
そして憧れた……あんな二人のように、いつか自分もなってみたいと。
──アタシたちみたいにねぇ。
──ふふふっ、それは嬉しいわね。
(……あれ?)
質問でも何でもない、ただの感想に少女は違和感を感じる。
どうしてあっさりと、そんな答えを出せたのか。
……いつも本音で話す二人の声に、それを聞かれたからだということに彼女は気づく。
(あっ、夢だからだね! ニーニャちゃん、ヒューナちゃん。夢の中でだけど、見ててよね! わたし、頑張って復讐してみる!)
──うーん……アタシからしてみりゃあ、リュフには復讐は似合わねぇぞ。
──本当にリュフに、人を殺すことができるのかしら。
(うっ、む、難しそう……だけど、あの人が力を授けてくれるみたいだし、夢の中で二人が見ててくれるなら大丈夫!)
少女──リュフがそう答えると、二人の声はため息交じりのものとなった。
あれ? と思う彼女だが、二人の声はそれに構わずこう告げる。
──やっぱり心配だ。あの男の話に乗っといて正解だった。
──リュフ、ワタクシたちもいっしょに責任を取ってあげるわ。
(え? どういうこと?)
──まっ、起きたら分かるさ。
──お休みなさい、リュフ。
(お、おやすみ……じゃなくて、本当にどういうこと!?)
いったい、何がどうなったのか……それを少女が知るのは、目が覚めてからのことだ。
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