的外れな催眠チート ~面倒臭がりが召喚されました~

山田 武

下水道を歩こう



 入国審査など容易く突破。
 念のためマチスから降りての入国ではあるが、門兵に魔法を使い不信感はゼロとなる。

 フラフラと道を彷徨い、適当な食事処で朝食を頂いておく。

 宗教国だからか、血が出る素材を使った料理は出なかったが……まあ、それでもパンやスープがあったので気にしない。

「美味しいですね、主」

「そうだな。こういう物ばっかりだから、逆に旨くしようと工夫したのかもな」

「人の文化というのも、なかなかに捨てがたいものです」

 俺独りでの旅だと、いろいろと働かなければいけなくなる。
 なので今回は護衛役として、人化したマチスを連れてきた。

 ……本当は単独での行動を考えていたんだが、粘られて抵抗するのが面倒になったから受け入れた。

 実際、居てくれれば楽だしな。

「面白くなったら……」

「承知しております。主が聖堂に侵入した後は、単独で情報収集を行う予定です」

「……えっと、思いだせないがうちの娘スパイもどこかにいると思う。何かあったら、あの単語で接触を取ってくれ」

「畏まりました」

 ちなみにだがマチス、人化した姿はナイスイケメンである……チッ。

 自身の鱗を作り変えただのと言っていた服などの衣装、そのすべてがちょうどいい感じでマチスに似合っているのが妙に腹が立つ。

 ドラゴンだよな、しかもダンジョン生まれの箱入り息子(?)だよな。
 なのにどうして、そんなに洒落乙になれんだよ。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 聖堂への入り方、そこに苦労している。
 強欲な聖者共は警戒心が人一倍強いのか、中を鉄壁の要塞並みに堅固な守りで警備していたよ。

 なので未だにマチスと共に、入る方法を考えている。

「……最終的には、もうマチスで突っ込む以外の方法を浮かべる気がない。早めにいいアイデアを見つけないとな」

「この国に入ってから、少し体が優れませんので。あまり得策ではないかと」

「結界が張ってあるからな。それも、とびっきり魔物が嫌がる」

 さすが神聖国、そんな結界があるとはな。
 一部が欠けた魔法知識スキルには、そんな情報無かったんだが。

 ……これもまた、楽をするための試練だ。
 それを見つければ、一生安定の生活をできるかもしれない。

「いちおうこっちで、聖属性耐性は付与してある。まあ、しばらくすれば慣れるだろう」

「申し訳ありません。主に迷惑をかけてしまい。……やはり、早く進化せねば」

「気長にやれ」

 魔物は進化する、それは地球の皆さんもご存知の常識だ。
 この世界の魔物もまた、何か条件を満たすことで進化できるらしい。

 まあ、魔龍であるマチスが進化するのは、だいぶ後の話だろうけど。


 ……今さら思ったのだが、うちの娘スパイはどうやって中に入ったんだろうか。
 やはり信仰心を持っていたからこそ、認められたのか?

 そんなことを今、国の地下に走る下水道を歩きながら考える。

 正攻法で挑んでもいいアイデアが浮かばなかったので、面倒に感じて下水道からアタックする策に出た。

 臭いは嗅覚を遮断すればどうとでもなるので、俺独りならば問題ない。
 そう、すでにマチスとは別行動中である。

「敬虔な信者も聖人も、みんな排泄はするんだよな。うんうん、そういう神聖な何かを夢見ている奴らにこれを見せたら面白そうだ。悪夢として見せてみるか」

 だがまあ、路地裏に捨ててあるとかじゃないだけマシだと思う。
 しっかりと水道の設備が整っている、これだけでもよくできた方だ。

 地球でも川に流すだけなら古代からやれているし、まして魔法がある世界だ……考えればできることか。

「『検索』……ん? ああ、これか。人工だとこうなるのか」

 いちおう目的地は把握していたのが、念のため再チェック。

 改めて位置情報を確認してみると、聖堂の辺りには巨大な空洞と無数の人(?)がいるとの情報を確認する。

 うん、『(?)』が付いている時点で、人かどうかが判明していない者、すなわち人造人間であると決まった……人造人間、なんか急にバトル物になったイメージが。

「うわぁ、なんだよこの迷宮的に入り組んだ道は……って、脱出口か。聖者様がたは先を読んでいらっしゃると。偉いですねー」

 下水道と繋がらない、もう一本の道を今さら発見した。
 まあ、こっちは誰か居る部屋と繋がっていたのでどうせ通れないんだけど。

 あとで使うもよし、使わずに封じておくもよしだな。



 そうして独り言を呟いて進んでいたが、近くに魔物の反応を見つけた。

『ウォオオ!』

「……アンデッドか」

 神聖国なのにアンデッド。
 しかも司祭みたいな恰好をしているし、この国に入ってからよく見ているアクセサリー(十字架)も身に着けている。

『ナゼ、ナゼコンナコトニ! ワタシハ、タダコノクニヲヨクシヨウトシタダケナノ二』

「……あっそ。『白の矢』、『──』」

『グォオオオ!』

 取り出した弓に、神聖魔法を籠めた矢を番えて放つ。
 アンデッドは苦しむようにもがき、苦悩するように蠢く。

「……やれやれ、面倒事を背負い込んだな」

 まあ、予想はしていたんだが。
 自分たちの言う通りにならない──つまり真面目な──者は、地下に殺して廃棄しているということだろう。

 下水道の中に、まだまだ大量の衣服が見て取れるし。

『オォ! カミヨ、ナンジノゴカゴヲ──』

「そんなものに祈るな。俺が直接送ってやるからさ」

 アンデッドに変化が起きるまで、俺はただひたすら矢を射続けた。


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