的外れな催眠チート ~面倒臭がりが召喚されました~

山田 武

お勉強に行こう



「……ほう、一番有名な宗教国? それならばフリューレ神聖国だろう」

 神聖、神が認めたとか神が降り立った地とかそういうことだろうか。

 この世界と元の世界で、神聖の定義が違うかもしれないので分からない……俺でも、神聖と付くスキルが手に入るぐらいだし。

「なるほど、それで場所は?」

「ここから東へ歩いて10日ほど。すべてが白塗りの壁が見えてくるだろう」

「アバウトですね」

「いくつか特徴を上げても良いが、イムならば白国とでも覚えていた方が楽であろう」

 まあ、正解だけどさ。
 現在俺は、王様と対談中だ。

 これからの予定を考えて、王様と話すのが一番手っ取り早かったのである。

「それで、白国がどうかしたのか?」

「いえ、それが……少しきな臭い話を耳に挟みましてね。何やら人を探しているとか」

「…………続けろ」

 知っているのか知らないのか、あの女が居ればどんなことでも分かるのでは? とも思うが、ここは言うべき場だと考え直して話を続けた。

「現在、もっとも癒しの力が高いと呼ばれる方が白国のトップ。では、それより優秀な回復を行える者がいると知れば? とある日を境に白国がそうした人物の居場所を求め始めていたのですが……それを見つけたらしく」

「ふむ……して、その者とは?」

「──【聖女】、と呼ばれし少女です」

 沈黙が部屋の中を支配する。
 小さな身動ぎの音が、この瞬間は大きく木霊してしまう。

 そんな中、王様はゆっくりと口を開き──

「さて、そろそろ普通に話すか」

「まったく、毎度ながら慣れないもんだな」

「いやはやすまない、何事にも順序というのが必要となるのだ」

「……さては、大切なお仕事をくださる優秀な部下がいたと見るぞ?」

 たとえば……あの女とか。

「すでにこちらでも情報は把握している。あの国は、元から神人や聖人に固執している狂信者の集まりだからな」

「神人、聖人のことか」

 単語だけ聞けば、いかにも強そうな人たちの総称だよな。

 神の血を継いでいるとか加護を持っているとか、特別な力を使えるとか……まあ、そういうのか。

「要は交配だ。より神聖な力を求め、嫌がる女を母体に使い、男は籠絡して種だけ集めていく。最近では、どこから技術を見つけてきたのか面倒なことをしているがな」

「……人造聖人を作る技術、だよな」

「そう、アイツらは強力な兵を手に入れた。まだ完璧ではないが、いずれヴァ―プルとこの大陸を二分するだろう」

 そりゃあ、聖女を複製できるだけでも最高のヒーラーを増産できるんだしな。

 ちなみにだが、とある場所で調べた情報には――【聖女】の全力は、死者を蘇らせるという伝説があった。

 それで兵士を何度でも使えば……うん、それこそ無限の戦力になるよな。

「【聖女】は今、ヴァ―プルの指示で大迷宮の攻略を行っている。それが終わるまで手を出さないと思っていたんだが……」

「ああ、そろそろ動きだすぞ」

「まったく、騒がしい国であろう。あらゆる国に手を伸ばし、地位と金を高めようと考える豚の掃き溜めだぞ」

 白国ってのも、いろいろとあるんだな。
 宗教なんて無宗教者である俺にはよく分からないが、この世界は神の存在が身近にあるみたいだし。

 第一、加護なんて存在がステータスに刻まれているんだから否定はできない。

 ただ、俺の考えていた全能の神とは異なるのだろう。 
 むしろ、そうなるために何かしら行動しており、その一つが加護の授与だと思われる。

「本題に入ろうか。イム、お前は白国に行って何がしたいんだ? ただ観光を、というわけではないだろう」

「そう、だな……少し勉学をしに行きたいんだよ。白国にはまず神について、それと──信仰魔法について」

  ◆   □   ◆   □   ◆

 今度は空の旅、理由は無いが普通の方法だと飽きるからな。

「さすが王様、こうもあっさり許可をくれるとは。だからあの国は楽なんだよ」

 俺の独断行動に、理解があるんです。
 適当に動いてもあの国に益が出るよう、すべての者を動かす賢王。

 しかも、特に極めて優秀なスキルを持つということでもなく、ただ人間離れした頭脳のみでそれを成しているのが驚きだ。

 ……ちょっと説明がしづらいが、ここでは特別なスキルを使わずに国を統治しているとだけ考えておいてくれ。

「すまないな、マチス。わざわざこんな時間に飛んでもらって」

《今の主ならば、自力で飛ぶこともできたのでは?》

「ん? いや、できるけどさ。自分で飛ぶのも面倒だったし、たまには目に見える頼み事がしたくなってさ……嫌だったか?」

《とんでもありません。主にご命令されることは、我らにとってとても名誉なことでございます》

 ……飛んでるけどな。

 それよりマチス、本気で言っているように聞こえてくる。
 俺、そこまで忠誠心を刻み込ませたってわけじゃないんだけどな。

 最初の召喚以降、マチスに何かしたってことは……そんなに無いんだが。 

「それに、目的地までは遠いからな。俺が自力で飛ぶよりマチスに頼んだ方が速い。余った時間は観光に使えるしな」

《……結局、観光なされるのですね》

「当然だ、どんな場所にも価値がある。価値があるからこそ村が町に、町が街に、そして都市、国となっていくんだ。いずれ無くなる・・・・・・・場所なんだし、早めに行っておいた方が楽しめるだろ?」

 無くなる、というよりは今とは変わってしまうが正しいか。
 どちらにせよ、今の掃き溜めとは異なる国に生まれ変わるだろう。

 俺たち異世界人、その中でもユウキみたいな奴が来た時点でアイツの物語にこの世界は組み込まれたんだ。

 そんな中、ヒロインの一人を浚ったら……やれやれ、変わる前に見ておきますか。


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