催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~

山田 武

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 ヴァプール

 夜な夜な繰り広げられる会議、それは異世界人が居なくなった後も行われていた。

 国の重鎮たちが集い、提示報告を行う。
 その日もまた、皆が報告書を手に取って情報の交換をしていた。

 現在は、魔法使いの一人が書類を読み上げている。

「……そうか、やはり奴らの影響は凄まじいと言ったところか」

「はい、どの国にも何かしらの反応があります。伝承通り、大きな変化が生まれようとしていました」

「うむ、そうか」

 異世界人には特殊な力が備わっている。
 成長し易いことはもちろんのこと、他にもまだたくさんの力を有していた。

 ヴァプールはそれを最初から知り、有効に使うために異世界人を国の外に放つ。
 ……体に、見えざる首輪と鎖を絡めて。

「また、『浄化』も順調です。勇者たちの大迷宮はさすがにまだですが、一部の異世界人が小迷宮や中迷宮の制覇を果たし、財宝や遺産を手に入れたとのこと」

「必要なモノを回収しておけ、それと……勇者たちにはそろそろアレを渡してやれ。誘導も浸み込んだだろうし、耐性を持っていても取り返しはつかないだろうからな」

「ハッ! ただちに」

 魔法使いは自身の配下に指示をやり、王の命令を実行していく。
 この国に収められた伝説のアイテム、それらを解放して勇者たちに使わせるのだ。

「選別者たちは、念入りな仕込みが無ければ枷が外れるからな。こちらも苦労するわ」

「王に掛かれば、勇者など容易いでしょう」

「ふっ、それもそうだがな」

 選別者、特別な力を持つ異世界人の中でも特に優れた能力の持ち主。

 属性適正を必ず持つ異世界人の中で、それより強い系統外属性への適性を有する、属性適性の代わりに唯一スキルを有するなど、通常の異世界人よりずば抜けた存在であった。

 ヴァプールは召喚した異世界人の中から選別者を見つけ、魔法に対する耐性が低い内から思考の誘導を行う。

 少しずつ洗脳していき、やがて抵抗力が強くなっても完全に術中に嵌めることに成功したならば……計画は次の段階へ進行する。

「王よ。勇者たちへの対応はともかく、あの愚かな国たちへの対処を行いたいのですが」

「放っておけ、どちらも異世界人の中でもハズレを送っておいた。今回のことも、すべてあの第三王女が行ったのだろう。何でも特別なスキルを持っているらしく、その力であの修羅場を乗り切ったと報告があった」

「現れたとされる、黒い影に関しては?」

「魔物、それも上位種の類いだ。これをネタに戦争を吹っ掛けることも容易いが、今は放置しておくのが最適解だろう。アイツは何度も奇策を放ってくるが、周りに理解者がいないことが弱点だ」

 忌々しい男の姿を思い浮かべ、歯軋りを無意識で行う王。
 一瞬走った痛みによってそれを自覚し、冷静に魔道具でそれを癒して話を続ける。

「同盟を重ねて仲間を増やせば増やすほど、奴は孤独になっていく……こちらに攻め入る寸前で、あの異世界人を通じて反乱を起こさせればよいだろう」

「おおっ! さすが王でございます!」

 会議はまだ、始まったばかりである。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 そこは、誰もいない静かな草原。
 空で満天の星が輝く宵の世界。
 一人の少女が空を仰ぎ、淡々と口を動かしていた。

「この国では、異世界人の考えた品を大量に生産し、他国に送っています。全てが今までの魔道具とは異なる観点から作りだされた、異世界人との共作という売りで販売されていました」

「他の国々は突然介入してきた異世界人の魔道具を、必要以上に受け入れております。自分たちが赤字となって苦しもうとも、その商品が購入されるように、自身らがこれまで販売してきた物を奥に片付けてでも……」



 そこは、潮の風が薫る港町。
 そこに停泊した一隻の船の上で、一人の少年が同様に口を動かす。 

「異世界人の介入により、格段に漁獲量が向上しています。噂によると、異世界人は海を操るということになっていました。そのことに感謝し、異世界人専用の船を一隻造ろうと言う話も上がっています」

「ですが、その一方できな臭い話も出ていまして……この町から離れた場所で魚が獲れなくなった、波に不自然な変化が起こり始めたなど、異世界人がこの国にやって来てからの変化を現在詳細に調査中です」



 そこは暗い迷宮の中。
 足元に大量の魔物の死骸を並べ、女が一人言葉を綴る。

「こちらの迷宮に、アレはございません。全階層を虱潰しにしたのですが、有るのは財宝ばかりでした。魔物のレベルはそれなりでしたが、かと言って特別な個体が居るわけでもなく……ハッキリ言って、普通でした」

「ご命令通り最下層の迷宮核にアレを使用した後、撤退予定。また、連絡を送らせてください」



 そこは神聖な雰囲気を放つ礼拝堂。
 白い法衣に身を包んだ少女が、神に祈るように語る。

「この国では、異世界人の中にいるとされる【聖女】を手に入れようとしています。すでに居場所を掴んでいるそうですが、大手を振るって招けないようで……また、人造聖女や人造聖人を生みだそうともしています」

「おそらくしばらくの間、情報が途絶えると思いますが、全て貴方様の予定通りでございますのでご安心してください。最近、周りに影の者が多くつくようになり、被検体にされるときもそう遠くはないかと……」

「ですが、これも強くなるため。この国の技術を集めてまいります」



 少女が祈る先──それは神ではなく、たった一人の少年であった。


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