的外れな催眠チート ~面倒臭がりが召喚されました~

山田 武

口を動かそう



「────、────」

「ああ、そうだな。うん、そうそう」

「──? ────」

「おお、大丈夫大丈夫。それより続きを」

 思考を自動モードに切り替える。
 相手の言葉は雑音のように聞こえ、俺の口が勝手に動いて話を繋げていく。

 これはそもそも地球での必須技術であるため、スキルの有る無しに関係なくできけど。

 どうせ相手は、俺に何かを話すことで満足感を得たいだけだ。

 俺個人にどうしても話さなければいけないことなら、そこの部分だけを理解して話させればいいのだし、すべてを聞き取って返答する必要なんてない。

 異世界に召喚され、いくつかのスキルを手に入れた結果……その技術は昇華された。
 地球ではたまに返答を間違え、面倒なことになっていたのがなくなったんだ。

「──、────。──────」

「ああ、それってつまり……」

 俺がこうしてどうでもいい思考に耽っていようとも、脳のどこかが勝手に正しい返答をしてくれる。

 嗚呼、実に楽で素晴らしいな。
 勝手に口が滑って、余計なことを言うこともない。

 相手が何を言って自分がどう答えたかが分かるようになっているので、意識すればいつでも会話に参加することも可能だ。

「──というわけなんだが、構わないね?」

「ああ、そっちの実力も見させてもらうぞ」

「進化した実力を見て、驚かないことだね」

「まっ、たぶん驚くだろうな」

 えっと、脳内データによると……どうやらクラスメイトとこの国の迷宮ダンジョンへ向かうことになったらしい。

 兵士を引き連れ、この国で最も難易度の高い場所の攻略をやらせるつもりのようだ。
 ただ、従魔がすでに確認済みの場所だったので、あっさりと了承したみたいだな。

 クラスメイトが余裕そうな顔をしているのにはわけがあるが……まっ、いちいち説明が面倒だし、それは迷宮ですればいいか。

「マリク様、少しよろしいでしょうか?」

「ああ、構わないよ。トショク君、それじゃあまたダンジョンで」

「そうか、またな」

 兵士に呼ばれて、クラスメイトはこの国の王と第三王女の下へと歩いていく。

「……面倒だったな」

 そういえば、クラスメイトの名前はマリクとかだったな。
 授業中にそんな名前が出てたような出ていなかったような……まっ、どうでもいいか。

 俺がしっかりと覚えている名前なんて、クラスメイトの中でもほんの一握りだし、新しく増やそうとする気も全然湧かない。

 ──今はそんなことよりも、もっと大切なことがあるしな。

  ◆   □   ◆   □   ◆

「イム様、少々宜しいでしょうか?」

「ええ、どうしましたか? ……『自動』」

「────、──────────」

 ったく、邪魔しやがって。
 人が黙々と食事をしているんだから、そっとしておいてくれよ。

 ……ん? 無駄に装飾した言葉だから、理解に苦しむな。

 えっと──要は飯ばかり食ってないで、自分たちに利益を寄越せってことか?

 別に、飯ぐらい食べても構わないだろう。
 というかコイツ、よく今の俺に話しかけてきたな。

 まあ、挨拶の時に聞いた爵位が低かったようだし、遠くの方で俺の様子を窺っている偉そうな奴らからのメッセンジャーだろう。

 まあ、そんなに利益が欲しいというならばくれてやろうじゃないか。
 ──ただ、対価を要求するけどな。

 自動モードになった脳に、自分の成したいことを伝えると、口が勝手に動いて使いの貴族に肯定の意を話す。

 すると目の前の貴族はとても大きなリアクションを示し、遠くで観ているお偉い様に俺が肯定したことを知らせる。

「では、お互いに意義のある話し合いをしましょうか」

 お偉い様の所へ向かった俺は、そう言って意識を別のことに集中させていった。

  ◆   □  客 室  □   ◆

「…………ややこしい国だ。異世界人を殺したいくせに、利用したいとも考えている。それだけならまだいいが、それを火種に大騒動だと? 夢は眠りの中だけにしておけよ」

《……何が、言いたいので?》

「いや、人間なんてどの国だろうがどの世界だろうが変わらないんだなって。自分の欲望のために、他人を利用していくその心……実に面倒だった」

《……そう、ですか》

 時間は深夜、辺りには夜警のために巡回する兵士たちしか感じ取れなくなっている。
 俺は部屋の中で、第三王女へお偉い様がたに関する情報を回していた。

 彼女もただ外交官として来たのではない。
 前に催眠を掛けたときに、そのことは把握してある。

 その目的を果たすのは、俺としても有意義だったのでこうして協力しているぞ。
 俺が第三王女と直接接触するとすぐにそれが分かバレるので、念話での連絡となった。

《貴方がこの国の異世界人と共に迷宮へと向かっている間に、協定の取り決めは終わる。おそらく、父上が予想した通りに》

「まっ、にわかに厄介な知識を持っている輩に邪魔されない方がさっさと決まるか。俺もあの国が弱体化することは望まない。ハァ……仕方ない、少しだけ力を貸すか」

《……貴方は嫌い。でも、今のバスキには形振り構っている暇はない。使える者なら全部使って、国を生かさなければならない》

「……成長したな。見えてはいないけど、たぶん今のお前は綺麗あくらつな顔をしているさ」

 あのとき、自分を嫌っていた第三王女。
 だが今ではどうだ、俺を嫌えている……周りに目を向けられている証拠だろう。

 我ながらなんと優しいことだろうか。
 だからこそ、柄にもないことを言ってしまえたのか。

《……そう、もう切らせてもらう》

 そうして、繋がっていたものは途切れる。
 あの国に頑張ってもらわないと、俺の素晴らしき日々が失われてしまうからな。

 さて、たまには(従魔が)働きますか。


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