的外れな催眠チート ~面倒臭がりが召喚されました~
二人で旅をしよう
パカパカと戦馬が進み、ガラガラと馬車は動いていく。
今は居る場所は俺の居た国と目的の隣国の中間にある街道だ。
「はい、今日はここで終わり。続きは明日で寝ることにしよう」
「……はい」
周囲は既に夕日が山の中に沈みかけ、空には星が輝き始めている。
そんな中で馬車を動かすのは面倒だ、それなら止めて休んでいく方がマシだろう。
ヒステリックになった第三王女が叫んでから数日、俺と第三王女は隣国に移動中だ。
馬車は俺が動かし、第三王女は馬車の中。
それ以外に人はおらず、二人っきりの道中であった……侍従すらいない第三王女、どんだけ周りに信頼できる奴がいないんだか。
「…………」
まあ、第三王女は俺を殺すような目付きで睨んでいるし、何も起こらんがな。
魔法で食材と調理器具を取り出し、適当に料理していく。
さすがは料理スキル、全然料理など作ったことのない俺でも美味いと思えそうな代物が出来上がったよ。
「ほら、飯ができたぞ。さっさと食え」
「……はい」
すぐに祈りの構えを取る第三王女。
こっちの世界では、神に祈ってから食事をするらしい……面倒臭いだろうに。
「それじゃあ、いただきます」
「……いただきます?」
「お前らの祈りと同じようなものだ。俺たちの糧となった食材に感謝を籠める……まっ、そんな感じのもんだ」
「……そう、いただきます」
ポ─ズを変えて両手を合わせ、そう呟いた第三王女。
彼女の中で、いったい俺がどういった存在として纏まったかは分からない。
──だがそれは、別に殺意を向けるだけの存在ということでもないのはよく分かった。
俺の知る、自分の知らない知識を取り込んでいくことで異世界の知識を学んでいく。
彼女がそれを学び何をするのかは分からないが、俺がやっている日常的な行動を真似しているだけだし、面倒事にはならないかということでだいたい説明している。
「ふぅ、ごちそうさまでした」
「……ごちそうさまでした」
「じゃあ俺はこれを片付けておくから、お前は──こっちの風呂にでも入ってろ」
「……はい」
元素魔法で土を固め箱を造り、中に適温のお湯を注いでおいた。
扉は無いが、脱衣室なども用意してある。
ついでに結界空間という魔法も使っているし、誰も観ることはできないだろう。
第三王女は指示に従い、風呂の方へ向かっていく。
その間に水と風を操り、食器を洗う。
……いや、手で洗うのは面倒だしな。
そして、同時にマチスへと連絡を計る。
魔力を繋いで─っと──
「マチス、平気か?」
《はい、大丈夫です。どうなさいました?》
繋いだ相手は最初の従魔であるマチス。
従魔はどこに居ようと、結んだ契約によって声を届けられるのだ。
「たしか……レンブルク? のクラスメイトはどんな感じだ?」
《現在は……迷宮に居ますね。国の兵士を引き連れて、レベリングのようなことをしていると思われます》
「面倒だな─。というか、能力的にバレても無いからな、アイツは。そういうレベリングも任せられるのか」
《魔法特化……でしたか? 主に敵わないのは自明のことですが、あの威力は異世界人でも有数の実力と思えました》
俺たちは最初からレアな上位職業に就いていたり、強力なスキルを持っている。
そのうえ成長速度が高かったり、一度のレベルアップで貰える能力値のポイントが高いなど……強くなれるきっかけが多い。
「まあ、そういうチ─トだからな。俺の知っている範囲では唯一スキルを持っていなかった気もするが、それでも先代のお前にダメ─ジを与えられるぐらいの魔法だったし」
《……今でしたら、勝てます》
「ああ、分かっているさ。お前は俺のため、命令があったらアイツを倒せ。ただし、絶対に殺すな。復讐で面倒な【勇者】様が騒ぎ出しそうだ」
《承知しました》
繋いでいた魔力の線が途切れ、マチスとの連絡が終わる。
すでに乾燥した食器類を異空間収納スキル内に片付けて、周囲の索敵を行う。
「周りには……チッ、第三王女って立場も大変なのかね? あの王様が護衛を用意するだけあって、結構面倒な仕事になりそうだ」
少し場所を移動して、静かな平原に立つ。
ここならば、悲鳴が上がっても第三王女が気づくことは無いだろう。
「おい、そっちに居る奴ら。早めに出てくれば命だけは勘弁するぞ」
暗闇に向かってそう語りかけると──闇が一部歪み始め、そこから複数の怪しい奴らが現れる……全員黒尽くめの格好だし。
「……ヴァプ─ルの異世界人か」
「それがどうした?」
「お前とバスキ国第三王女の命、ここで取らせてもらおう!」
「うっわ─、ベタ過ぎる─」
というか、俺もタ─ゲットなのかよ。
ヴァプ─ルの異世界人? 他の国でも地球の奴を召喚してるってことか?
それにここで俺と第三王女の命を取る? なら、犯人は……いったい誰だ?
「……ああ、考えるのはやっぱり面倒だな。お前らに直接訊いた方が早いか」
「……させると思うか」
「当然だろう? 面倒だが、たまにはやるしかないって時もあるもんさ」
「──死ね」
俺と話していた代表っぽい奴のその言葉と共に、周りの五人程の仲間が動き出す。
縦横無尽に俺を囲い、俺の隙を伺う。
でも、内心で驚いてるんだろうな─。
だって俺は、まだ武器を構えてすらいないのだから。
「……正気か? 本当に死ぬぞ?」
「いいか、勝負ってのは始まる前から始まっているらしいぞ。それは死合でも同じ、俺が何もしていないと思った時点で、それはお前らの負けが決まったんだよ」
気づけただろうか。
俺の足元を中心に、闇よりも黒い影が自分たちの下へと広がっていることを。
親切にヒントをやったんだが、それでも目の前の奴らはそれに気付くことはない。
「……ハァ、仕方ないか。やってくれ」
《お任せを》
そう、俺の脳裏に響いた瞬間──黒い影から血の槍が出現した。
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