催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~

山田 武

第三王女に接触しよう



「初めまして第三王女、私はイム・トショクと申します。気軽にイムと呼んでください」

「──チェンジで」

 うん、これが俺と第三王女の初邂逅の瞬間である。

 小学生ぐらいの背格好で、青色の煌びやかなドレスを着ていた。
 髪の色はドレスと同色で、普通ではありえない青色だな。

 いつも通り取り繕った挨拶をしてみたわけなのだが……どうしてデリヘル嬢のそれを、第三王女が知っているんだろか。

 無表情スキルでそんな葛藤を押し殺し、会話を続けていく。

「ちぇ、チェンジとはどういった意味でしょうか? 私は国王より命じられて貴女様の警護を行うよう──」

「必要ない。貴方みたいにやる気も覇気も無い人、役に立たないに決まってる」

 ……おお、分かってくれるのか!
 そうなんだよ、俺にこの依頼に対するやる気なんて皆無なんだよ。

 俺がやりたいのは引き籠もりライフであって、警護なんて面倒事じゃないんだ。

 ──たとえば、俺がこの第三王女に認められて警護役に就いたとしよう。

 今までに就けられる予定であった騎士を蹴落とし、媚びを売ろうとしていた貴族の魔の手を払ってな。

 当然恨まれるだろうし、最悪憎いと思われるだろう。
 俺に対する騎士の態度は下がるし、貴族からは嫌がらせが始まるに違いない。

 ──面倒過ぎて、本当にやる気が失せる。

「……いえ、いきなりそこまで本音の色を出されても困るのだけれど」

「……ああ、それが貴女の特別なスキル、というヤツですね」

「そうよ。気持ちが色で視えるだけ、こんなのただの呪いじゃない。見たくもない、知りたくもない相手の本音が分かってしまうのだから……」

 急にぶっちゃけてくる第三王女。
 心、では無いんだな。
 心と気持ち、感情では意味合いが少し異なるのだ。

 ……まあ、面倒だし説明はいいか。

 要するに第三王女は、他人のあれこれを見過ぎてうんざりしているってことだ。
 俺を見た場合は、この依頼を面倒臭がっているのが分かったんだろうな。

「ふーん、見なければ良いんじゃないか?」

「はっ、何を言っているの? この呪いは私が生まれた時からずっと蝕んでいる。見なければ良いなんて、甘い考えじゃ──」

「煩いなー、とりあえず『黙れ』。それからちゃんと話を聞けよ」

「──ッ!!」

 気に喰わない目をしていた第三王女に、毎度馴染みの催眠魔法を使って黙らせる。

 突然そうなったからな、予想通り目を引ん剥いているよ。

「つまりさ、お前は視えなくなれば満足なんだろ? どうせ必要な時には使っているくせに、そうやって厄介物みたいに……。一度味わってみろよ、今まで共に在った物が無くなる気持ちをさ……そーれ」

「──ッ! ────!!」

 俺が仕掛けたあることによって、第三王女は突然手を宙に振り回し始める。
 まるで何も無い、真っ暗な世界に放り出されたかのように。

「五感の内、聴覚だけは残しておいた。だからこれは聞きとれると思うぞ。お前のそのスキル、たぶんだが視覚と繋がったスキルなんだと思ってさ」

「────ッ! ────────ッ!?」

「それを奪ったらどうなるんだろうとやってみたんだが……成功して良かったよ。──どうだ、それがお前の希望を……強引に叶えてやった未来だ」

 催眠魔法ともう一つ──精神魔法を使って第三王女の五感と精神を操っている。
 こういう能力の持ち主ってのは、精神が大人びているらしいからな。

 ある程度こちらで制御しとかないと直ぐに冷静になりそうだ。
 ──少しは焦ってもらわないと。

 話している間に観察していたんだが……なまじ良い眼があるせいか、やけに達観しているんだよ第三王女。

 だからこそ、第三王女がしていた目になんとなく苛立った。
 自分がするのは良いけど、他人がするのは嫌になる──そんな陰のある目を止めさせたかったのかもしれない。

 俺には物語の主人公のように女を甘い言葉で意識を変えさせることはできないので、こうやって力尽くでやってみる。
 ……まっ、嫌われたとしてもこの国に寄生するのを止めればいいだけの話だ。

 それに俺がやらかしても、どうせユウキ辺りが堕とすだろう。
 ……魔眼なんて、いかにもヒロインっぽい特徴を持ってる王女だしな。

「──、────」

「……あっ、何か言いたいのか。『解除』」

「──! ぷはぁああああああ!!」

 いつの間にか落ち着いていた第三王女に掛けていた催眠を解除し、その様子を窺う。

 視覚が奪われて何も見えないその空間を、第三王女は酸素が無い場所とでも考えていたのだろうか。
 荒い息を吐いて、絶賛酸素を補給中だ。

 息を止めていたせいか顔が紅潮し、小学生ぐらいの歳の女子がしてはいけないようなナニカが第三王女から見え隠れしている。

「それで、良かったな。今から聞く質問の答えによっては、お前はずっとああやって何も見なくて良いようになるんだ」

「……ゃ」

「でも、さすがに食べ物の味が感じられないのは残酷か? よし、特別に奪うのは視覚だけにしておいてやるよ」

「……ぃゃ」

「えっと……そうだ質問だったな。俺はお前の望むように、嫌な部分を見えないようにしてやる。報酬もお礼も要らないぞ。俺は優しいからな、お前が苦悩を抱えずに生きてくれるだけで満足だ。それじゃあ質問を──」

「絶対に嫌ぁああああ!!」

 急に叫び出す第三王女。
 ……ハァ、発作的興奮状態ヒステリックかよ。

 そうして厄介そうに思いながらも、俺の口は少しにやけていた……らしい。


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